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第3話 寄り添い合う心

 砂埃が消え去るのを待つことなく、急いでバイクから降り状況を見定めるりん。目の前に映し出された光景は、みだりに固められた残骸のあと。その様子は少し見上げれば、ちょっとした山のようにも見える。 


「えっと、今なら大丈夫だよね」


 周囲の状況を念入りに窺う二人。辺りに人影などは見えないが、先ほどから何を気にしているのだろう。りんは細心の注意を払い、慎重に一歩ずつ残骸に向けて進んでいく。


「じゃぁ、紅蓮ぐれん。少しだけ様子を見てくるから、そこで見張っててね」

「ああ、分かった。だけど早くしろよ。いつなんどき、やつら達が来るとも限らねえからな」


「そうだね。気にしてくれて、ほんとにありがとう」

「なっ、なんだよ急に、気持ち悪い奴だな」


 突然にも明るく微笑みかけるりんの姿に、紅蓮ぐれんは照れながら目を逸らす。


「もうー、せっかくありがとうって言ってるのに、気持ち悪いって失礼だよね」


 返ってきた言葉の意味に、りんは不満そうな態度で頬を膨らませた。この素振りに、紅蓮ぐれんはいつになく真剣な表情で答えようとする。


「いや、そういう意味じゃなくてな、のは兄貴の役目だろ。血は繋がっちゃあいないが、俺とりんは立派な兄弟だ。――だろ」



 紅蓮ぐれんが伝えた意味とは……。


 そう、二人は本当の兄弟ではない。理由は、天体衝突の影響や食料難という問題であろう。物心つく頃、りんには温かく包み込んでくれる両親などいなかった。同じく似たような事柄ではあるも、紅蓮ぐれんの場合は家族をに殺される。


 こうした状況から食料を求めて旅を続け、街を彷徨い物乞いをして生きる。そうでなくても、この世界は過酷な環境。人々の心は澱み、誰ひとりとして手を差し伸べる者などいない。


 さらに追い打ちをかけたのが、人々から汚いという理由による一方的な虐待。これにより、希望も未来も無くしたりんは、ついには気力を失い力尽きる。


 ――そんな時だった。


『――おい、大丈夫か? 生きてたら返事しろ!』


 突如として声をかけたのが当時の紅蓮ぐれん。その言葉からは、優しさのこもった感情が溢れ出ていた。それと同時に、温かい掌を差しだし気遣うように握りしめる。そんな初めて触れた心の想い。りんは安堵でもしたのだろう。 眠るように気を失ったという……。


 このように行き倒れした人間など、道端に捨てておくのが常識。ところが、紅蓮ぐれんはそっと抱きかかえ自らの住まいに連れて帰る。といっても、暮らしていた場所は狭い洞窟の中。明るい光もなければ、寒暖を凌ぐ器具もない。


 これにより、衰弱して震えていたりんに寄り添う紅蓮ぐれん。意識が回復するまでの間、ずっと身体を暖めていたという。やがて看病の甲斐もあってか、元気で明るい姿を取り戻す。


 そしてこの時、紅蓮ぐれんりんに対して提案を持ちかけた。『一人で生きてゆくもよし、自分について来るもよし』ただ後者は、辛く過酷な旅が待っているだろう。こう伝えた意味には理由があった。


 紅蓮ぐれんには心に秘めた想いがあり、同じような境遇の子供達を助けたいと願う。この目的を実現させるために、世界を旅していると話す。これに感銘を受けたりんは、迷うことなく二つ返事で承諾する。


 こうして互いの心に触れた二人。いつのときも行動を共に想いを重ね合わせ、兄弟としての絆を深め生きてゆく。本当の家族として…………。



「えっ、兄弟……って、僕のこと?」

「んっ? もしかして、俺の勘違いだったか?」


 嬉しさあまっての驚きか、初めて伝えられた言葉に戸惑いを見せるりんの姿。この素振りに気まずさを覚える紅蓮ぐれんは、恥ずかしそうな面持ちで後ろ髪を撫でる。


「ううん、勘違いじゃないよ。でもね、ふふっ」

「なっ、なに笑ってんだよ」


「だってね、急に真面目な顔になるんだもん」

「――ったく。そんな事はいいから、早く行ってこい」


 自分を認めてくれた事がとても嬉しかったのだろう。しかしながら、りんは喜びをどう表現していいか分からず、冗談を言っておどけて見せる。


「はあーい。お・に・い・さ・ま」

「――っち、からかいやがって。まあ、そんなとこが俺は好きなんだがな」


 紅蓮ぐれんは不服そうな面持ちを浮かべるも、どこか嬉しそうに笑みを浮かべた。こうして見守られながら、りんは残骸の一部に足をかけ目的のものを探し始める…………。

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