次の日の朝、私達はあの山の入口にまで来ました。
「わぁ、すごい荷物……」
そこには大体10台ぐらいの馬車とそれに乗る荷物、周りに護衛であろう冒険者達に指示を出してる商人や、商会の人間であろう人たち……正確にどれぐらいいるかわかりませんが、とにかく20人以上はいそう?
「あっ!アンアちゃーん!旅人さーん!こっちこっち!」
声がした方を見ると、ラニィさんが手を振ってくれています。私達はそちらに向かって合流しました。
「すまない、待たせたか?」
「いえいえ、大丈夫ですよー出発までにはまだ時間ありますから」
「そうか」
「おおっ!アンアさん!よくぞいらっしゃいましたぁっ!!」
「ヒッ」
駆け寄ってくるマグナスさん……私は怖くなって旅人様の後ろに隠れます。
「うちの子にそれ以上近づくな」
「あん?またあんたかっ!俺は俺の信念で動いてるんだっ!邪魔するんじゃねぇっ!」
「邪魔なのわー!あんたよっ!!」
「ぎゃぁあああああああああああ!!!」
ゴスゥ!っと鈍い音と共に、ラニィさんが振るった杖がマグナスさんの頭を直撃しました……彼は悲鳴をあげてその場に倒れ伏しています……
「ふぅ♪ ごめんね?とりあえず、私達が護衛する商隊の商会長さんに会わせるから来て」
「わかった」
「え?あっ、は、はいっ」
マグナスさんが殴り倒され、周りの人は驚いたように見てる人、気にした素振りもない人……またかと溜息をつく人など、いろんな反応をしてますが、特段マグナスさんが倒れても騒ぎにはなりませんでした。
「あはは、この街の冒険者からしたら日常の風景みたいなものだからねー、マグナスがナンパして私がぶっ飛ばすっ!これが何時もだから皆慣れちゃってるんだよ」
「過激なコミュニケーションだな」
「あはは……まぁ、マグナスがナンパなんてしなければこんなことにならないんだけどねぇ……」
「なるほど」
(えっと、あっ、ラニィさんの表情……あれって、そ、そういうことかな?マグナスさんのこと……)
「アンナ、行くぞ」
「ふぁっ、は、はいっ」
ラニィさんに連れられて、ある馬車のひとつに近づきます、そこにはカルナさんとザンドさんが待っていました。
「いらっしゃい、お二人とも」
「あっ、えっと、よろしく、お願いします」
「えぇ、そういえば、またおバカの悲鳴が聞こえたけど?」
「うん、性懲りもなくアンナちゃんをナンパしたから殴っちゃった」
「はぁ、仕方ないのないリーダーね……いい加減、ラニィちゃんの気持ちに気づかないのかしら?」
「もうっ!カルナ、それはいいからっ」
「ふふ、わかったわ」
「あなた達が、護衛についてくれる人ですか?」
「わわっ」
この場に新しい男性が入ってきて私は驚いて隠れてしまいました……出てきたのは恰幅のいい?大体50代ぐらいの男性でした……うん、怖そうな印象はありませんけど……やっぱり知らない人なので私は怖いです……
「あぁ、そうです、えっとこちらが旅人さん……名前は内緒らしいです。それでこっちの子がアンナちゃんですね……それで、こちらがこの商隊のリーダを務める、ノットさんです」
「どうも、商人のノットです」
「どうも、旅人です。訳あって名乗れませんが、護衛はしっかりと引き受けるのでお任せください」
「いえいえ、冒険者の方には色々ありますからね、かまいませんよ。ただ、道中の食事などの保障はありませんがよろしいですか?」
「はい、こちらも馬車に荷物は乗せていますので問題ありません」
「そうですか、えぇ、こちらとしては護衛してくれれば問題ありませんので、あなた方には我々の馬車の傍を着いてきてください」
「わかりました」
「では、もう少ししたら出発しますので、もう少しお待ちください」
「了解しました」
「さて、それじゃあ私達も準備するから、あなた達も準備をお願いね」
「あぁ、わかった」
私達は赤い子猫の人達を別れて準備をしました……
「ふぅ……」
「大丈夫か?」
「あっ、た、旅人様……や、やっぱりこれだけ知らない人がいると緊張しちゃって」
「人数だけ見れば、ライゼンの街で対応した人数よりは圧倒的に少ないだろ?」
「それは、そうですけど……あ、あの時は必死でしたし……落ち着いた状態でこの人数は……うぅ」
「まぁ、戦いは俺がするし、基本的には馬車にいればいいから」
「は、はい……ありがとうございます」
さて、それから少しすると出立の合図があり、馬車が順番に動き出しました……私達が、正確には旅人様と赤い子猫の人達が護衛するノットさんの馬車は4番目……少ししてノットさんの馬車が動き出したので、私達の馬車も出発します……
さて、それからは山道を進んで行きますが……いまのところ魔物は出てきません。
「静かですね」
「そうだな……まぁ、まだ麓あたりでは魔物の出現はほとんどないんだろう」
「そうなると、奥に行けば行くほど、登れば登るほど魔物が活発になるんでしょうか?」
「あぁ、その可能性が高い……それ以外だと……」
「以外、だと?」
「途中で”呪”が発動することが怖いところだな」
「あっ……そ、それは……」
そうだ、私には《誘引の呪》がある……これが発動したら山中の魔物がここを目指して襲ってくるんじゃ……そうすると、いまここに私がいるのはまずいんじゃ……
「どちらにしろ魔物はでるんだ、気にするな」
「あっ、は、はい……」
「魔物がでたぞっ!」
「えっ?」
急に聞こえた声がしたほうに視線を向けると、前を走ってる馬車に魔物が襲いかかっているのが見えました……
「あれは……」
「レッサーラプトルだな……亜竜型の魔物だけど、それほど強いわけじゃない」
「そうなんですか?」
「あぁ、ただ厄介なのは……」
「「「「「ギャギャギャッ」」」」」」
「わわっ!増えましたっ」
「あぁ、レッサーラプトルは群れで行動する魔物だからな……大体10匹前後の群れを作るからな」
「えっと、加勢しなくていいんですか?」
「あぁ、それぞれ担当があるしな、あまり一斉に動いても妨害にしかならない……護衛のパーティーがヘルプを入れるまでは俺たちは待機だ」
「なるほどぉ……」
私はとにかく、前で戦う冒険者の姿を見ているのでした……