私達がスライゼンの街を後にして1時間ほどが経った頃でしょうか……当然ながら1時間も歩くことができない私は途中から旅人様にお世話になっています……ちなみに、本来なら街で馬を手に入れられればと思っていたのですが……あの病気は動物にもかかったらしく……動物さんたちも治療はしたものの、直ぐに動かせるというわけではなくなってしまい……私達は馬を手に入れることが出来ませんでした。
「その、いつもすいません……」
「いいさ、もう慣れた」
うぅ、慣れるほどお世話になってるこの感じ……泣けます……でも、彼のおっきな背中に支えられ、彼の体温を感じられる……実はちょっと役得です♡
「はぁ……面倒なのがいるな」
「え?」
旅人様は足を止めると私を降ろしました……そして剣を抜きます……
「出てこい、隠れても殺気がまったく隠せてないぞ」
「ふぇ?」
殺気?彼の言葉を考えていると、近くの木々からどんどん人が出てきます……
「え?え?」
「マクレーン子爵の私兵か」
「……女を置いていけ」
「それは出来ない」
「ならば、ここで死ね」
この間の領主館で戦いの時とは違って、明らかに人数は多いですし、中には馬に乗ってる人……槍や剣、それにがっつり鎧で武装しています……
「ここから動くなよ」
「わかりましたっ」
襲ってくる兵士……でも、旅人様が強すぎてまったく戦いになっていません……多勢に無勢なのに、よくわかりませんが、旅人様に近づいた兵士の動きがいきなり鈍くなった気もしますが?よくわかりません……とにかくまともに動くことも出来ずに旅人様に斬り捨てられています……
「鎧が意味をなしてない……旅人様のあの黒い剣はすごい名剣なのかな??」
「ぎゃぁあああああああああ!!」
「ひぃいいいいいいいいっ!!」
旅人様無双です……私としては彼に任せておけばいいわけですが……危険なお仕事をずっと任せているという現実が正直、心が痛くなります……ただ、私が出たとしても邪魔になるだけ……そんなことを考えていると、結構な人数が斬り倒されていました……
「ふぅ……まだやるか?」
「ぐぅ……」
「おやおや、これはどういうことかな?」
「え?」
急に声がして振り返ると、マクレーン子爵が更に多くの兵を連れてあらわれました……私は急いで旅人様の傍に駆け寄ります……
「ふむ、おかしいな……街の外の警邏任務に当たっていた兵が死んでいる……これはどういうことかね?問題だぞ」
「襲われたかr返り討ちにしただけですが?」
「ほぅ、兵が襲ってきたと?」
「違いますっ!我々は声をかけただけなのですが、急に斬りかかってきたのですっ」
「なっ!?」
最初に戦っていた兵士の一人が急に声を上げました……まったく違う内容なのに……
「これは問題だな……」
「問題ならどうすると?」
「もちろん、貴様らを捕縛させてもらう」
「はぁ……本当に面倒だなぁ……」
「旅人様」
「大丈夫だ……」
「兵たちよっ!その犯罪者を捕縛せよっ!」
子爵の言葉に多くの兵士がこちらに向かってくる……全員武装していて、殺意がすごい……その一団が一気にこちらに攻め込んでくる……
「ひっ」
「大丈夫……ほら、大量の餌だぞ……喰え」
「え?」
旅人様が剣を振り上げると剣がなにやら怪しい光を放ちます?それが駆け寄ってくる兵士たちに伸びていって……
「ぐあっ!?」
「あっ……」
バタバタと兵士達が倒れて行きます……死んではいないようですが、近づいてきた兵士に剣が放つ光?が触れるとバタバタと兵士が倒れていく……なにこのホラー映像??
とにかく、彼が剣を掲げてるだけ……それだけで、どんどん近づく兵士が倒れていきます……さすがにやばい事を理解してか、近づかなくなりました。
「な、なんだそれはっ!?」
「さて、半数は減ったかな?さて……まだやりますか?」
「ぐっ、なにを……ま、まさかっ!それは魔剣かっ!!」
「だったら?」
「ぐっ、そうか、そうか……魔剣があるなら話しは変わってくるっ!その剣を渡せば聖女を見逃してやろうっ!どうだっ!悪い話ではないだろうっ!?」
「いやいや、どういう思考回路してんだよ?いまのでわかるよな……俺はお前らを皆殺しにするのも難しくないわけだ……それで、なんでお前の言葉を聴く必要がある?」
「ぐっ……う、うるさいっ!私に手を出せば、国が動くぞっ!」
「地方の弱小領主が1人死んだところで国は果たして動くかな?」
「う、うるさいっ!お前らっ、早くあの剣をとりあげろっ!」
「で、ですが……」
「いいから早くしろっ!命令だっ!」
「はっ、はいっ」
兵士たちは子爵に命令され明かにいやいやと言った様子でこちらに近づいてきますが……明かにへっぴり腰というか……身体を震わせています。
「魔剣の能力を理解せずに近づくのは危ないよ?」
「ひっ」
その言葉と共に、あの光が兵士を包みこみ……近づいた兵士がまた倒れました……
「さて……俺としては敵対してきた相手を生かしておく必要もないしな……マクレーン子爵には……ん?」
「ふぇ……あっ!」
私は急にあの感覚を覚えました……そう、呪の発動……それは旅人様も気づいたらしく、つまり少しすればここに周辺の魔物が集まってくる……
「ふむ、丁度いいか」
「え?た、旅人様?」
「なんだ?あ、足音?いや、これは……ひっ!!」
大量の魔物があらわれ、私達を取り囲んでいます……当然私達のそばにいた兵士や子爵もその範囲内にいて……そして、魔物たちが一斉におそかかかってきました。
「アンナ」
「え?きゃっ」
旅人様は私を抱えると、軽々と木の上に昇ります……魔物たちは私達を気にした様子もなく?倒れてる兵士や子爵に襲い掛かりました……
「ぎゃぁあああああああああああああ!!!」
「見るなよ」
それからは、悲鳴がしばらく続き……その声も消えたころ……
「終わらせてくるから、少しここにいろ」
それだけ、言って彼は飛び降りると、次々に魔物を屠っていきました……