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第30話

 次の日になり、領主館から迎えの馬車が来ました……最初は私だけを乗せようとした兵士でしたが、旅人様が脅して?くれて一緒に乗り込んでくれました。


「それじゃあ、ちょっといってきます」


「えぇ、気を付けてくださいね」


「はい、旅人様もいますし大丈夫ですよ」


 馬車が出発し、私達は領主の館へと向かうことになりました。


「さて、十中八九、お前を狙ってくるだろうからな、俺から離れないようにしろ」


「わかりました……やっぱり王国からの手が回ってるのでしょうか?」


「どうだろうな……その可能性もあるが、シスターから聞いたことを踏まえると自分の権力を強めるためにお前を利用したいと思ってる可能性もある」


「権力ですか?」


「あぁ、領主といっても結局は地方領主でしかないからな……貴族としても子爵、公国での権力なんてものはそれほどないし発言力はほぼ皆無だろう……だけど、そこであらゆる病から人をすくった聖女なんて存在を自分の手元におけるなら、発言力は増すことになる」


「えっと、私がいることで発言力なんて増すんですか?」


「あぁ、貴族だって結局は人間だ、病気になるからな……やつらからしたらとにかく長く生きて権力にしがみつきたいんだ……そのためには病気を治せる存在というのはとにかく貴重だろう……もちろん本物の聖女に頼るっていう手もあるが、聖女がいるのは聖国だ、他国に頭を下げるとかしたくないだろうからな」


「なるほど、自国で治癒魔法使いを囲えれば、そのほうがいいわけですね?」


「治癒魔法使いぐらいならいるだろう、ただ病気まで治療できる術師は滅多にいない……そのうえお前は毎日のように大量の患者を治療するほどの魔力がある……領主からすればそんな人間を手元に置けば上位貴族に恩を売ることもできるわけだ……そうなれば、やつ自信の発言力も増してくるし、場合によっては爵位を上げることもできるかもしれない」


「そんな……」


「まぁ、とにかくあっちからの誘いは全部蹴る、いいな?」


「は、はいっ」


 それからも旅人様と相談しながら進むこと十数分ほど……どうやら到着したらしく馬車が停まりました。


「到着しました、降りてください」


「わかった」

「はい」


「領主館に入るのに武器の携帯は許されませんのでお預かりします」


「わかった」


 旅人様は何時も持ってる剣?あれ、何時もと違う??とにかく剣を預けて、それから兵士の案内で領主館に入ると、ある部屋に通されました……


「君が聖女と呼ばれる少女かな?」


「え、あっ……えっと、聖女じゃないですけど……そう、呼ばれてます、あ、アンナです」


「ほぅ、なるほどねぇ……私はこの街の領主を務めるメノッサ・マクレーン子爵だ…それで、そちらは誰かな?呼び出しは君だけだったはずだが?」


「どうも、マクレーン子爵、俺は彼女の護衛です……1人だけ呼び出されたとしても護衛としてはそれを許可することはできませんので」


「ふん、まぁ、いい……さて、アンナくん、君の活躍は聴いているよ」


「あ、は、はい」


「それでだ、君をぜひ我たしの部下として迎え入れたいと思っているのだよ」


「えっと、ご、ごめんなさいっ!私はあなたの部下になる気はありませんっ!」


「ほぅ?なぜかな?貴族から声をかけられるというのはとても光栄なことなのだぞ?」


「そうかもしれません……だけど、えっと、わ、私達は目的があって旅をしています……だ、だから、どこかに士官する気はありませんっ」


「なるほどねぇ……はぁ、それは許せんなぁ……」


「え?」


「貴族であり領主たる私の命令だっ!大人しく仕えろっ!貴様にはその価値があるのだからなっ!」


「で、ですから、私達は目的があってっ」


「そんなものはどうでもいいっ!お前は私の言う通りにすればいいのだっ!そうすればいい思いもできるぞ?」


「はぁ……こちらは拒否、あなたの要請を受けるつもりも命令を聴く気もない、なので失礼しますよ」


「旅人様」


「ほぅ?行かせるとおもうか?」


 扉があくと十数人の兵士が抜剣した状態でこちらに刃を向けていました……


「大人しくすればよし、そうでなければ死んでもらう」


「この程度でですか?」


「ふん、腕に自信があるといっても、多勢に無勢でなにができるっ!その男は殺せっ!女は多少傷つけてもいいが殺すなよっ」


「アンナ、離れるなよ」


「は、はいっ!で、でも武器がありませんよ?ど、どうするんですか?」


「なに、武器ならあるよ」


「え?」


「そこにっ!」


 旅人様が動いたと思った瞬間、目の前の騎士の手を強く蹴り、手から離れた剣を掴むと、一閃……目の前の騎士の首を跳ばしました……私はびっくりして身体が固まってしまいましたが、それは相手も同じ見たいで、いきなり仲間が殺されたことで動きが停まりました……でも、それを見逃す旅人様ではなくて……わずか数分で、立っている兵士は3人ほど……残っている兵士も震えて明かに怯えています。


「さて、残り3人……」


「ひっ」


「あ、ありえん……」


「さて、マクレーン子爵殿、これ以上、俺たちにかかわるというなら、その命で支払ってもらうが?」


「なっ、ぐっ……」


 2人が睨み合います……兵士の一人がそれを狙って旅人様に仕掛けようとしましたが……


「ぐぁ!?」


 旅人様は振り返ることもなく、剣を振るうとまた1人死にました……うわぁ……血がいっぱい……こう、慣れちゃった私はもうどうなんだろう?うん、でも……仕方ないよね(泣


「ぐっ、くそっ」


「さて、マクレーン子爵……どうする?」


「貴様、き、貴族に手を出したらどうなるかわかっているのかっ!?」


「別に、この屋敷の人間皆殺しにすれば当分は時間も稼げるんじゃないか?」


「こ、このっ、き、貴様、狂人かっ」


「その狂人と思う人間に交渉をする意味があるかな?」


「わ、わかったっ!わかったからっ!もう手を出さないっ!」


「そうか……じゃあ、アンナいくぞ」


「え?あっ、えっと、はっ、はいっ!」


「くそっ」


 後ろから子爵の悔しそうな声を聞きながら私達は領主館を後にして、徒歩で教会までもどりました……ふふ、もちろん私は途中で力尽きましたとさ……



「ただいま戻りました」


「おかえりなさいっ!大丈夫でしたか?」


「え、えっと……」


 私が困って旅人様に視線を移すと彼は頷いてくれました……


「まぁ、やはり思った通り、聖女を取り込もうと考えてたみたいです、まぁ、断りましたが……」


「そう、ですか……ですが、彼は簡単に諦める人物ではありません……注意は必要だと思います」


「えぇ、そこはわかっています……とにかく残りの治療を進めましょう」


「そうですね……ですが、今日はあまりやらなくていいですよ?疲れてるでしょうし、だいぶ治療もできてますしね」


「わ、わかりました」


 その日は少しだけ治療をしてから、何時もより早く休むことができました……



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