「ふぅ……美味しかったぁ、鹿のお肉なんていつ振りかしら?」
「兄ちゃん、これめっちゃ美味いよっ!」
「そうか、そりゃよかったな」
私達は旅人様が作ってくれた料理に舌鼓を打っています……やっぱり旅人様が作るお料理は美味しい……まともにお鍋ももてない私は料理もできませんが……非力すぎて……でも、やっぱり女の子としては、好きな人に手料理を食べて貰いたいです……
(もっと筋トレがんばらなきゃ……せめてお鍋ぐらいはもてるように……)
「そういえば、お二人はいつまで村に滞在されるんですか?」
「あっ、えっと?旅人様、どうなんでしょうか?」
そういえば、私が無理いったせいもあって出立の予定を把握してませんでした……旅人様に視線を向けると彼はお椀を置いて話出しました……
「そうですね。明日には発つ予定です」
「そうなんですね……」
「えー兄ちゃんも姉ちゃんも村から出てっちゃうのかよぉ!どうせなら村に永住しちゃえばいいじゃん」
「こら、無理を言わないのっ」
「あっ、あはは……ごめんね、私達はまだ旅の途中だから」
私がこのままこの村にいればきっと、ううん、絶対迷惑をかけることになる……本来ならもっと早く村を出てもおかしくなかったんだ……
「その、どちらに向かわれるんですか?」
「俺たちは、魔法王国ルエイナを目指す予定です」
「魔法王国ですか……私は詳しくないですがかなり距離がありますよね?」
「そうですね……まぁ、どうしても行かなきゃいけない理由もあるので、時間はかかりますがね」
「えっと、私の都合なんです……彼にはその間の護衛をお願いしているんです」
「なるほどねぇ」
「魔法かーいいよなぁ、俺も使ってみたい」
「あんたは木こりだから無理だね」
「わかってるよー」
魔法を使うには魔法の天啓が必要です……魔法の天啓は結構珍しいんですけど……魔法王国はそんな魔法使いが多く在籍する世界でも有数の魔法国家です……あの国であらゆる魔法の研究がされてるなんて言われてるぐらいです……まぁ、このあたりの情報は昔本で読んだり、旅人様から教えてもらったことです。
「さて、そろそろお暇するか」
「あっ、そうですね……」
いつの間にやら片付けも終わらせていた旅人様……手際が良すぎます……
「この度は本当にありがとうございました」
「いいえ、治って本当によかったです」
「姉ちゃん、兄ちゃんありがとうなっ!」
「うん、アレン君、お母さんを大事にしてね」
「もちろんだよっ!」
私達はハレナさんの家を後にしました……そして、そのあとは……
「ぬぅうううう」
「……」
「ふにゃぁああああ」
「声を出すのはいいが、まったく出来てないぞ」
「うわぁあああん」
早速戻ってからは筋トレに打ち込んだわけですが……まったくできない……腕立ても、腹筋も、背筋も1回もできない……旅人様からはなにやら冷ややかな、哀れなものを見る目で見られるし……穴があったら入りたい……
「はぁ、とりあえず、明日の朝には出立するからな」
「は、はいっ」
「まぁ、今回は予定外だったが……まぁ、アンナが新しい天啓を授かってることがわかったのは収穫だったな、今後の旅を考えれば治療系の天啓をもってるのはプラスになる」
「えっ、じゃ、じゃあ……私も役にたてますかっ!」
「あぁ、問題ないだろう……まぁ、その前に少しでも歩けるよにしてくれると助かるがな」
「うぅ……がんばります……」
「まぁ、とにかく明日からは森を突き抜けることになる。入ったからわかってるだろうが、非情に歩きにくいし体力も使う、充分注意しろよ?」
「わかりましたっ」
「とにかく、こちらの予定より遅れてるからな……なるべく急ぎたいところだが、無理しても怪我するだけだ……あとは、これまでの傾向から、お前の呪は魔物が多い場所で発動率が高まる……そのことから多分誘引できる範囲が狭いんだろうな」
「誘引できる範囲ですか?」
「あぁ、もし際限なく魔物を引き寄せるなら、お前が天啓を得てからの5年で王都は何度も魔物の襲撃にあってないとおかしいからだ……だいたいこの村にいても呪は発動していないだろう?それは、魔物を引き寄せる範囲の問題だと思う」
「なるほど……考えたことなかったです……でも、そうですね……王都にいたときは一度も襲われたことないですし……」
「あぁ、調べればわかることなんだがな……それすらしなかった王都の連中はなにをしてたのか」
「あはは……あの人達はとにかく私を外に出したくなかった見たいですから」
「まぁ、それはいい……どちらにせよ、あの国に戻ることはない、お前も戻りたいわけではないだろう?」
「はい、私はもう、あの国には戻りません……あの人たちは家族じゃないから」
「わかった。とにかく呪を解く、これを最終目標にする。まず優先する目標は魔法王国への到着だ」
「はいっ」
「とりあえず、俺は少し夕食の獲物でも採ってくるから、大人しくしてろ」
「わ、わかりましたっ」
旅人様が出ていったあと、私は寝転んで考えます……私自身も、呪について詳しく知ることはなかった、知ろうともしなかった……旅人様に言われて初めて、呪に距離があることをしった……
「それがわかってたら、もう少しまともな生活を送れたのかな……ううん、今更だよね……」
家族だった人達も、私の周りにいたメイド達も、誰も調べようとしなかった……【誘引の呪】に怯えて私を隔離して……5年間、そう5年間なにもなかったのに、ただただ呪に怯えて私を排除した……
「あの国には絶対帰らない……あそこはもう私の故郷なんかじゃないんだから……」
でも、国は私を逃がそうとしないだろう……辺境伯から話がいっているはず……こうして、森を抜けることだって、少しでも人目に付くのを避けるためだし……
「それなのに、私はハレナさんとアレン君と関わって……旅人様に迷惑かけちゃったなぁ……」
人とのかかわりは最小限に……とにかく追っ手に見つからないためにも、それが必要なのはわかってたのに、私はあの親子を見捨てられなかった……そもそも、アレン君に声をかけた時点で間違いなのかもしれないけど……正直人と話すのは怖いし苦手、だけど……見捨てられなかった……
だから、新しい力を持ってることが知れたのはすごくうれしかった……人を傷つけるだけと思ってた呪とはまったく真逆の、人を癒す力……
「よしっ!少しでも練習しようっ」
「きゅぅ」
「カペラ~私頑張るからね……」
「きゅぅ?」
「えへへ……ふわふわぁ……はっ!いけないいけない……モフモフに惹かれてちゃ……まずは私が使える魔法の練習……練習……どうしよう……」
私の持ってた2つ目の天啓は癒しの力だ……これは傷ついてたり病気だったりを治す力……練習しようとしたら……
「じ、自分を傷つけるしか、ない?」
「きゅ!きゅーきゅー」
「あっ、ごめんカペラ、大丈夫……うん、自傷行為はダメだよね……そうすると、村で体調が悪い人や怪我してる人を治す?いや、これもダメだよね……これ以上、人と関わると旅人様に怒られちゃう……」
「きゅぅう」
結局、その日私は何も出来ず……魔法ではなく筋トレを頑張るのでした……ちなみに、帰ってきた旅人様は、力尽きて倒れてる私を放置して料理をしていました……