「待たせたな」
「あっ、おかえりなさい」
大体30分ぐらいかな?旅人様が森から戻ってきました……その手には、鹿?さんかな……捕まえられています……足をロープで縛られ動けなくされています……
「こいつを実験につかう。可愛そうと思うかもしれないが、我慢しろ……どっちにしろ後で食うしな」
「えっ?た、食べるんですか?」
「そりゃな、せっかく狩った獲物だ、食べるだろ」
「あぅ、ぅうう……」
「安心しろ、見えないところで解体するから」
「えっ、あっ、いえ……それは、はい……」
ごめんなさい、鹿さん……無力な私を許してください……
「さて、この鹿に毒を使う……アンナは先ほどと同じように浄化魔法を発動させて毒を消せばいい」
「はっ、はいっ」
「ただし、次は魔法名を唱えて行ってくれ」
「魔法名ですか?」
「あぁ、魔法名は魔法を発動する際のキーになる……本来なら長ったらしい詠唱もあるんだがな、さっきのを見た感じお前は無詠唱でつかるようだからな」
「えっと……無詠唱ってのはすごいんでしょうか?」
「そうだな、一応技能として使える人間はそこそこいる、俺らが目指してる魔法王国の魔法使いなら無詠唱を使える人間は結構いるだろう」
「そう、なんですね?」
「あぁ、ただ、それでもそういった連中は無詠唱を使うためにかなり特訓をする必要があるがな……アンナはその過程をすっとばして無詠唱を使えている……長ったらしい詠唱を覚える必要もないし、かなりのアドバンテージだな」
「な、なるほど……」
「いいか、魔法名を覚えることで、使う魔力の消費量、発動する魔法を固定する効果がある……無駄に魔力をつかったりしないで済むからしっかり覚えてくれ」
「はっ、はいっ、わかりましたっ!あの、えっと、無知でごめんなさい……魔力がなくなるとどうなるんでしょうか?」
「そうだな、まぁ、単純に魔法が使えなくなる。それと魔力欠乏症という状態になってな、強い倦怠感やら頭痛やらで数日間は苦しむことになる」
「な、なるほど……じゃあ、魔力切れは気をつけなきゃいけないんですね……」
「そうだな」
「えっと、魔力が切れそうとかってわかるものなのでしょうか?」
「そこは正直感覚なんだがな……ただ、魔力が減ってくれば倦怠感が強くなる、倦怠感が出始めたら使うのを止めた方いいだろう……魔力は休めば少しずつ回復するからな」
「なるほど……えっと、減った魔力を一気に回復させる方法もあるんでしょうか?」
「ある、方法は2つ、1つは魔力譲渡の天啓をもつ人間から魔力を分けてもらうことだな」
「そんな天啓もあるんですね?」
「あぁ、まぁ、そこそこ人数はいるんだがな……魔法使いなんかが外部バッテリーのように雇って使うことがある」
「なるほど……」
あれ?バッテリー?この世界にもバッテリーって言葉あるんだぁ……あっ、いけない、しっかり話を聞かないとっ
「まぁ、アンナにどれほどの魔力があるかは俺にはわからないから、実際につかって感覚をつかむしかないな」
「わかりました」
「じゃあ、早速だが、この鹿に毒を盛る……鹿が苦しみ出したら、まずは《浄化》から初めてくれ」
「はっ、はいっ《浄化》ですね……」
私は緊張しながら、鹿さんに毒を飲まされてるのを見ています……うぅ、鹿さんごめんなさい……私の魔法の実験に使われて、そのあとは美味しく食卓に並ぶ……鹿さんには申し訳ないけど、しっかり感謝して美味しくいただきます……ごめんなさい…
「飲ませたぞ」
「はっ、はいっ」
鹿さんは少しすると苦しそうに暴れ始めます……足を縛られてるから逃げることは出来ませんが、苦しそう……急いで治してあげなきゃ……
「鹿さん、治って……《浄化》」
私は神様に祈るよにしながら、魔法名を唱えます……すると、体からなにか抜けるような感じがして、目を開くと、鹿さんの身体が淡い光に包まれていました……
「ふむ、成功だな」
「鹿さん、苦しそうじゃないですね……よかったぁ……」
「じゃあ、次だ」
「ふぇ?つ、次ですか?」
「あぁ、どこまで魔法が使えるか確認しなきゃいけないからな」
「そ、そうですね……」
「次は《高位浄化》だ。使えるならさっきより多くの魔力を使うからな」
「はい、がんばりますっ」
旅人様は新しい木の筒を出すと……それを鹿さんに飲ませます……さっきと違い次は、さらに苦しそうに暴れだす鹿さん……見てるのが辛い……
「お願いします、鹿さんを治してっ!《高位浄化》」
また同じように祈りを捧げます……すると、さっきより多いかな?って感じで魔力だと思うものが身体から抜けていきました……目を開ければ、先ほどより眩い光が鹿さんを包んでいます……そして、鹿さんは何事も無かったかのように大人しくなっていました……
「ふむ、成功だな」
「よ、よかったぁ……」
「魔力はどうだ?倦怠感はあるか?」
「あっ、えっと……とくに問題ないです」
「そうか……現状の魔法の使用回数を考えればとっくに倦怠感が出てきてもおかしくないんだがな?まぁ、問題ないらな次の魔法を試すか」
「はいっ、お願いします」
旅人様は、次はなにやら鉄で出来た筒を取り出しました……髑髏のマークが描かれています……
「さて、次だが《完全浄化》……これが使えるかどうかだ……浄化系の中では最高位の魔法……これが使えれば石化病も問題なく治せる」
「わ、わかりましたっ、がんばりますっ」
「ただ、気をつけろよ?もし使えるとしても、一度に使う魔力量はこれまでと比べ物にならない……発動しない可能性のほうが高いが……もし使えた場合、一気に魔力欠乏症を引き起こす可能性もある……危険だと感じたら直ぐに魔法を止めろ、いいな?」
「は、はい……すーはー……」
心をどうにか落ち着ける……これに成功すれば、治せるんだ……お願いします……私に治す力……神様……
「じゃあ、毒を飲ませる……この毒は強力だからすぐに使わないと鹿が死ぬからな」
「わかりましたっ」
そして、旅人様は鉄の筒を開け……毒を鹿さんの口に……その瞬間、いままでとくらべものにならないぐらい暴れる鹿さん……うぅ、早く治さないと……お願いします……治って……
「お願い……《完全浄化》」
お願い、お願い、お願い……魔法よ、発動してっ!
「え……」
身体から大きく魔力が流れ出す感覚……でも、まだ全然余裕がある……目を開ければ、悶え苦しんでいた鹿さんを白い光が覆う……そして、光が消える……そこには、問題なく生きてる鹿さんの姿があった。
「よかった……」
「アンナ、体調はどうだ?倦怠感や眩暈はないか?」
「え?あっ、はい……全然問題ないです」
私のその言葉に、旅人様は驚いたような目を向け、少し考えるそぶりをしました……