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第17話

「ふぅ……どうしましょう……」


 自分の手にふわふわ兎ちゃんを抱きしめる……この先に進まなきゃいけない……でも、さっきの魔物もいる……このよくわからない治す力があっても、戦えるわけじゃない……


「そういえば……森の奥にあるっていうだけで、どこにあるかわからない……そ、それに見た目もわからないや……」


 今更だけど、そんなことも気づいてない私……勢いだけで来ちゃったし……


「うさちゃん……私どうすればいいんだろう……」


「キュゥ」


「わっ、ど、どうしたの?」


 さっきまで大人しかったうさちゃんが急に私の手から抜け出すと、少し飛び跳ねて移動する……少しするとこちらを見て動かない。


「えっと……もしかして、ついてこいってこと?」


「キュゥ!」


「わ、わかった……」


 とにかく、手がかりもない私にとっては、うさちゃんについて行くしかない……


 それから、うさちゃんは進んでは止まって、私を待ってくれる……それを繰り返しながら進んでいく……当然だけど、途中で力尽きること数回……休憩を挟みながら移動すると、あたりはすっかり暗くなっている。


「えっと、うさちゃん、こっちでいいの?」


「きゅうっ」


 結構な距離を移動した……正直足が痛い……もう歩くの辛い……でも、どうにかうさちゃんの後をついていく……


「きゅっ、きゅっ!」


「え?これ?」


 そこにあるのは、こんな暗い森の奥で日の光も当たってないのにキラキラと光る植物……


「もしかして、これが、アステラの葉?」


「きゅぅっ!きゅぅっ!」


「これが、アステラの葉……やった、やったっ!!やっと素材のひとつが見つかったぁっ!うさちゃんありがとぅ!!」


「きゅう~~~♪」


「よし、さっそく採取を……えっと……葉っぱだけ採ればいいのかな?えっと、あれ、でもアステラの葉っていうわけだし、葉っぱが必要なんだよね?え、でもどれを、ど、どれでもいいのかな?え、え?」


 こういうのは採取の方法を間違えると効能がなくなったりとかは、物語なんかではあることだ……というか、実際でも必要なのは根っこだけとか色々あるし……これがアステラの葉ってのは多分そうだろうけど、実は必要な部分は葉っぱじゃない可能性もある……


「ど、どうしよう……」


「きゅっ、きゅううううっ」


「え?どうしたの?」


「グルルルル」


「ひっ!?」


 急に聞こえてきた声……これは、森に入ったころにあった魔物?たぶん同じか同種……どちらにしろ今、出会えば確実に殺される……


 私は必死に身体を縮こませて、うさちゃんを抱きしめてぎゅっと目を瞑る……コワイコワイコワイ……近づいてくる……このままだと、殺される……食べられる……


「え……うそ、まって、今はダメっ」


 自分の中から感じるこの感覚……”呪”が発動した感じがわかる……


「「「グォオオオオオオオオオオオオオオオン!!!」」」


 周りからは先ほどの魔物以外の声が聞こえ、大きな音をたててこちらに近づいてくるのがわかる……


「あっ、あぁ……うさちゃん、ごめん、逃げて……はやく」


「きゅううっ」


「い、いいから、はやくしないとあなたも食べられちゃう」


「きゅう!きゅうっ!」


 うさちゃんは私から離れず、それどころか私を守るように私の前に立つ……ガサガサと音がして、魔物が狼型の魔物が姿を現す……1匹じゃない、いっぱい、しゃがんでる私からはどれぐらいいるかわからないけど、たくさんの魔物が私を囲んでいる……


「ワオォオオオオオオオオン!!!」


「あっ、ダメ……ひっ……」


「きゅうううう!」


「うさちゃん、ダメッ!」


 狼に向かって走っていく、うさちゃん……狼は邪魔というように軽く前足でうさちゃんを蹴り飛ばす……うさちゃんはそれだけで、地面に転がり、ピクピクと身体を痙攣させる。


「うさちゃんっ!」


 私は急いで、駆け寄るとその小さな身体を抱きしめる……


「お願い、治って、治って!」


 再びあの淡い光が溢れ出しうさちゃんを包み込む……


「きゅぅう」


「よかったぁ、大丈夫?」


「きゅうー」


「グルルル」


「あっ、あぁ……」


 狼が私の目の前にいる……涎をダラダラ垂らしながら私を見ている……食べられる……周りにも呪の影響で集まった魔物たちがこちらを見ている……逃げ場なんてどこにもない……


「い、やぁ……助けて、助けてっ、旅人様!」


「グォオオオオオオオオオオオオオオオン!!」


 とびかかってくる狼に、私はとっさにうさちゃんを抱きしめ目を瞑る……


「あ、あれ?生き、てる?」


 恐る恐る目を開ける……そこには、狼がいます……でも狼はその恐ろしい口を開いたまま、動かなく……いえ、首がおちました……血が吹きだします……


「きゃぁああああああ!!」


「騒ぐな、他の魔物が興奮する」


「え?あっ、た、旅人様っ!どうして……」


「採取は依頼に入ってないから手伝わないがな……お前を護衛するのは俺の仕事だからな」


「あっ……あ、ありがとうございます///」


「はぁ……とりあえず、ここをさっさと切り抜ける……その魔物は……まぁ、害はないか、そいつと一緒に待ってろ、そこをうごくなよ」


「はっ、はいっ」


 そのあとは、まぁ、何と言いますか……私の呪いで誘引されてきた魔物たちが抗うことも出来ずに首を刎ねられていきます……逃げようとした魔物も一匹残らず……結果、数十体の魔物がこのあたりで死に絶えました……周りは血まみれの地獄絵図です……


「ふぅ……まぁ、こんなとこか」


「あ、あの……旅人様、ありがとうございます……」


「あぁ、無事ならいい」


「えっと、タイミングも良かったですし、もしかしてずっとついてきてくれてたんですか?」


「護衛対象が死なれたら困るからな」


「あぁ……やっぱり旅人様は優しいです///」


「気のせいだろ……それで、その兎は……というかそれはカーバンクルか?」


「かーばんくる?」


「知らないで連れてたのか」


「えっと、この子はその、怪我してたのを治してあげたら懐いてくれて……」


「治した……あの光か」


「は、はい、なんで出来たかわからないんですけど……」


「ふむ…そうだな………可能性があるのは天啓だな」


「天啓、ですか?でも、私は呪以外はないって……」


「いや、可能性はある……呪にばかりに気を取られて、暫定としてその治癒の天啓に気づかなかったか……それか……」


「それか?」


「いや、そうだな……可能性は低いが、後から天啓を得た可能性だな」


「えっと、そんなことあるんですか?」


「一応な……実例を知ってる……まぁ、滅多に起こることではないがな……」


 私に新しい力がある……これまで呪われた私に、治せる力が……それは私の希望かもしれない……



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