私は運がいいのか、悪いのか……いや、ここで旅人様に会えたのは運がいいんだろう……あのままだったら間違いなく私は死んでいたし、私の正体を知っても私を拒絶しない人は初めてだ。
「あ、あのっ、わ、私は目的地というものがありません……た、ただ、どこかで平和に暮らしたい、だから、その……」
「ふむ、つまり明確な目的がないわけか?」
「そ、そうです」
「まぁ、国を追われた姫となると……まぁ、このまま人里にいっても命を狙われる可能性が高いか」
「そ、それは……はい。私の呪いのこともあるので」
「呪い……呪われた姫か……たしか誘引の呪だったか?魔物を引き寄せるとか聞いたことがある」
「そ、そうですっ!その、だからあの昨夜も……」
「なるほどな……ちなみに、誘引する条件みたいなのはわかってるのか?」
「い、いえ……まったくわからないです。昨夜も初めて呪いが発動して……」
「なるほど……初めて発動か、となると特定の範囲内に入ることで魔物を呼び寄せる可能性が高いか?」
「ど、どうなんでしょう……」
「まぁ、いい……どうせ俺も旅の途中だ、あんたが望むなら同行してもいいが、どうする?」
「い、いいんですか?私は、その、足手まといになってしまいますが」
「あぁ、かまわない。どちらにせよ、おまえさん1人だと生きていけないだろ?」
「あっ、ありがとうございますっ!その、いつか、ど、どうにかお返しはしますからっ」
「まぁ、期待せずに待っている」
やった、やった、やったっ!旅人様と旅が出来るのも嬉しいし、この国を出ることができるっ!はっきり言って、虚弱体質の私だけじゃ、絶対無理だったし……旅人様の強さは昨日見た限りじゃ、国の騎士団長なんかより強いかもしれない……まぁ、見たことないから知らないけど……
でもでも、私が生き延びる確率が各段に増えたのは間違いないし、彼に守ってもらいながら旅を進めればいずれは呪いを解く方法だって見つかるかもしれない……
(でも、問題は…お返しをどうしようかな……私は一文無しだし……こういう場合って身体…//// ムリムリムリ/// うぅ……と、とにかく少しでもなにか役に立たなきゃっ!見捨てられたら死んじゃうし……)
「おい」
「ふぁっ!ひゃ、ひゃいっ」
「いや、驚きすぎだろ?」
「ご、ごめんなさい」
「とりあえず、今後のことだ……とにかく王国を抜けるのを最優先にするが、それでいいな?」
「はっ、はいっ!大丈夫ですっ、お願いしますっ」
「それだだが、その厄介な呪を解く方法を探すとなると、色々な知識があつまる魔法王国ルエイナを目指すのがいいと思う」
「魔法王国ですか……そんなところがあるんですね?」
「しらないのか?」
「あぅ、す、すいません……ずっと監禁生活だったので、外の知識がなくて……」
「いや、別にいいさ……とにかく目的地を魔法王国として、これからだが、アルゼレアン帝国とリミディア公国を抜ける形になる……」
「2つも国をまたぐんですね……」
「あぁ、ただ、普通に街道を歩いて街を通っては危険だろう……特に国境には検問があるからな、お前をしる兵士なんかもいるだろう……それを考えると抜ける方法を考えなきゃいけない」
「そ、その……ご迷惑おかけして……」
「気にするな、お前を連れてくと決めた時点でもう覚悟は決まってる」
「あ、ありがとうございましゅっ」
(うぅ、また噛んだ……やっぱ変な子って思われてるかなぁ……うぅ、人と話すことがまともになかったから緊張しちゃう……それに、かっこよすぎるよぉ////)
「どうかしたか?」
「い、いえっ!なんでもないでしゅっ!」
「そうか?まぁ、いい……とりあえず、今後だが俺の指示には従ってもらう」
「も、もちろんですっ!私は何もわからないですし……」
「あぁ、ただ、意見を言うとないうわけじゃない」
「え?ど、どういうことですか?」
「お前はお前で考えってものがあるだろ?俺の行動を理解できない場合だってあるだろう、俺とお前では常識が違うからな……だから、気になったことは聞いてくれていいし、意見を言えばいい」
「い、いいんですか?」
「あぁ、我慢されるよりは、言ってもらったほういい……これから長い付き合いになるしな」
(ふぁぁ……すごい、優しい、え、うそっ!?これが、大人の男の人……うぅ、かっこよすぎる////)
「どうした?顔が赤いが、まさか病気か?」
「あっ!ち、違いますっ!だ、だだだいじょうぶですっ!」
「そうか?まぁ、病気の疑いがあった場合も言えよ?無理されるほうが迷惑だからな」
「はいっ!」
「とりあえず、これからだが、この先に村がある……そこでいくつか食材を仕入れよう」
「わ、わかりました」
私にとっては初めてのことばかりだ……旅人様は村で食材をっていうけど、売ってたりするのわからないけど、彼についていけば間違いないだろう……どちらにせよ今の私にはなんの選択肢もないわけで……
◇
それから、私達は村に向かって移動を開始した……ただ……
「はぁはぁ……ひぃ、ぜぇぜぇ……」
虚弱な私は無事死にかけている……整備されてない道を歩くのってこんなに辛いなんて知らなかった。
(はぁはぁ、ぜ、前世でも山道とか歩いたことないし……これは、し、死ぬ……)
「……大丈夫か?」
「あっ、え、えっと……だ、だい、ダイジョブ、で、す」
「……どう考えても大丈夫じゃないな……」
「うぅ、ご、ごめんなさい……」
5年間の監禁生活ですっかり非力になってるのがここで脚を引っ張ってる……せ、せめて部屋でも出来る運動をしてればよかった……うぅ、アンネレーゼぇ、恨むよぉ……もうちょっと頑張っておいてよぉ……そんな思いをしたところで、現実は変わらない……ついていくことすら足手まといになるって……
「はぁ……仕方ない」
「ふぇ?」
旅人様は、私の前に来るとしゃがんで乗るように促してきた。
「え?え?」
「今のペースだと夜までに村につけないからな、負ぶっていくから乗れ」
「え?あっ、で、でもっ」
「いいか、時間がかかるほうが迷惑だ。さっさと乗れ」
「はっ!はいっ……し、失礼します////」
(やばい、背中おっきい、背負ってもらうと安心する……はっ!今の状態って胸が密着してる……アンネレーゼの身体……胸のサイズは正確にはわからないけど、かなり大きいほうだし……こ、これって、もしかしたら意識してもらえるんじゃ///)
「じゃあ、さっさといくぞ」
「え?あっはいっ!」
(速い……私を背負ってるのにすごく速い……これなら確かに間に合いそうかも?でも、それより……む、胸押し当ててるのに、気にされてないのかなぁ///)
「……っ!あっ、あのっ」
「どうした?」
「え、えっと、変な感じがして……そ、その、昨日魔物が来た時とおなじ感じで……」
「そうか、下すぞ」
旅人様は、その場で私を下すと剣を抜いて構える……すると、すぐに近場から緑の身体をした子供のような背丈の醜悪な化物……たぶん、ゴブリンが10匹ほど現れた……どれもこれも血走った目で私を見ている……
「ひっ」
「そこから動くなよっ!」
「は、はいっ」
「「「「ギャギャギャッ!」」」」」
ゴブリンは手に持ったこん棒や、ボロボロの剣を振りかぶって襲いかかってくる。
「ふっ!」
旅人様の振るった剣はゴブリンのその身体を容易く切り裂くと、返す刃で次のゴブリンを断ち切る……一瞬で2匹が倒されたことに驚いたのか、ゴブリンの動きが一瞬止まる……彼はそれを見逃すこともなく、次々と切り伏せていく……
「うっ……おぇ……」
昨夜は暗い中だったし、力もほとんど入らなかったから、頭も回らず気にならなかったけど、明るい今だと、切り刻まれていくゴブリンの姿を見るだけで吐き気がこみあげてくる……でも、いくら魔物だとしても、目の前で実際に起きている死……それをまざまざと見せつけられて日本育ちの私にはとてもじゃないけど耐えれなかった……
「ギャァアアアアアアアア」
「ふぅ……ん?大丈夫か」
「あっ……えっと……」
「……ほら、吐いた方がい……苦しいだろ?」
「で、でも……」
「魔物とはいえ、生物の死をまともにみたんならそうなっても仕方ない……俺なんかはもう慣れてしまったが、お前のそれは正常な反応だ」
「ありがとう、ございます……」
結局私は耐えられなくて、吐いてしまった……旅人様はそんな私を気遣ってくれて、水も飲ませてくれた……そして、少し休んでから再び彼の背に乗り、村を目指すこととなった……
「大丈夫か?」
「は、はい、お水もいただきましたし、休ませていただいたので、もう、大丈夫です」
「そうか……まぁ、無理はするな。こういうのもなんだが、そのうち嫌でも慣れる」
「は、はい……そ、そうですよね」
私の周りには常に魔物が寄ってくる……そうなれば多くの魔物の死を見ることになるだろう。ただ、彼にすべてを任して守ってもらう……私には出来ることが何もない、それだけがすごく心に刺さっている…
「あっ、あの?重くないですか?」
今更だが、気になってしょうがない……私だって女の子だし、好きな人に重いとか言われたら死にたくなるけど……背負ってもらってるし、聞かずにはいられなかった……
「ん?あぁ、別に、軽いな……まともに食ってないのか?軽すぎる」
「あぅ/// しょ、しょうでしゅか///」
(お世辞かな?でも重いって思われてないならよかった……)
「あぁ、そういえば……」
「はい?なんですか」
「お前の今後の呼び方だ。まんまアンネレーゼは不味いだろ?」
「あっ、確かにそうですね……ど、どうしましょう?」
「なにか候補はあるか?」
「えっと……」
確かに旅人様の言う通りだ、アンネレーゼって名前は国中に知られてるわけだし、その名前を名乗ったら自ら生存してることを教えちゃうことになるし……そうすると、偽名が必要。候補、候補……前世の名前を使う?いや、止めておこう……今の私は前世の私じゃないわけだし、アンネレーゼとしての名前も捨てるとして、新しい人生を歩むわけだもんね……
「じゃ、じゃあ……アンナ。アンナと呼んでくださいっ」
「アンナ?わかった、じゃあ、今後はアンナと呼ぼう」
「お願いします」
アンナは結構村娘だと一般的にある名前だったと思う……よく覚えてないけど……ただ、まぁ、安直ではあるけど、アンネレーゼのアンと姫奈のナをあわせただけという、なんとも雑な名付けかただけど……
「アンナっ」
「ひゃっ!は、はいっ!」
「あの丘を超えた先に村がある、今日はそこに泊めて貰おう」
「わ、わかりましたっ!」
彼に背負われ、丘を越える……そこには小さな集落、村が見えてきた……
(わぁ……ずっと王宮から出たことないし、前世でも田舎って行ったことなかったから、すごい新鮮、わぁ…あそこに人が住んでるんだよね?だ、大丈夫かな?失礼な態度とらないように気をつけなきゃ)
そんなことを私は考えながら、旅人様に背負われて村へと到着したのだった……村につくと、入り口に槍をもった村人らしき人が2人いるのが見える……武器を持ってる時点で私からすると怖いけど……旅人様は気にした様子もなく私を背負ったまま2人に近づいていく。
「何の用だ?」
「すまない、旅の者だ。一晩宿を貸してもらいたい」
「ふむ……その女はどうした?」
「少し体調が悪くてな」
男は少し訝しんだような表情を浮かべたものの、もう一人に任せて村長へ確認に行ってくれた。