あの聞き耳をした日から数日…私は必死にこの城から逃げ出すタイミングを見計らっていた…
「はぁはぁ……うぅ……非力すぎてむりぃ……」
私は絶賛絶望していた……この数日、脱出のために色々ためした。例えば、最初に考えたバルコニーからの脱出だ……ただ、まぁ、これは……普通に怖いし、そもそも、服を裂こうと頑張ったけど……びくともしなかった。
次は夜中に脱出を試みてみた……まぁ、鞄なんかもないし持ち物なんてない、着の身着のままだけど……いざ気合をいれて、外に出るために階段を降りた……途中で力尽きた。夜番をしてたメイドにみつかって兵士を呼ばれ部屋に連れ戻されたのだ……
次はリリノに外に出たいと直球でお願いしてみた。冷たい目で見られて……その場で却下された……こんな些細なお願いすら聞いてもらえないらしい…いや、もしかしたら森へ捨てる前に逃げ出さないように警戒されてるのかも?
窓から近くの木に飛び移ろうとした……脚が震えてとてもじゃないけど無理だった……あの時の私はよく道路に飛び降りれたものだ…まぁ、あの時と違って今は生き延びるのが優先だから怖いのはしょうがないと思う…
まぁ、こんな感じで私はとにかく脱出を幾度と試みたけどすべて失敗……そもそも、この身体。アンネレーゼが非力すぎるのだ…ちょっと大き目の本もつだけで重いと思うし、少し動けば疲れてしまう……
「まさか……ここまで、非力なんて……長年の引きこもり生活で筋力が落ちてるのはわかるけど……はぁはぁ……くっ、食事はバランスよくしっかり貰えるし……もともと太らない体質なのかわかないけど、スタイルは物凄く良い……いや、もしかしたら太ってるのかも?すべてこの年齢に比べても明らかにでかい胸に全部吸われてる??」
「むぅ、自分の身体だってわかってるけど前世の私と違いすぎてちょとイラっとする……」
そもそも、転生してアンネレーゼとしての記憶はあるけど、なんだろう?メインの人格は転生前の私みたいな?うん、アンネレーゼの人格みたいなのを感じない……
「んー……あれかな、憑依とかそういうの?元の人格を私が上書きしちゃった?」
「うっ……もしそれでアンネレーゼの人格が消えてたらちょっと嫌だなぁ……私のせいで消えたってことになっちゃうし……むむむ、ダメ、考えちゃダメ……メンタルやられたら逃げれない」
そんなことを思っても、一度考えるとどんどん憂鬱になっていく……私はベッドに突っ伏してその日は動くことをやめた……
さて、それから数時間……日はすっかり暮れ、辺りが暗くなってきた……リリノが運んできた料理を食べて、時間を潰し、最近の日課を果たす。
日課、それは部屋を出て階下の声を聞くことだ……ここ数日でわかったけど、私が捨てられることを偶然とはいえ教えてしまったメイドはかなりおしゃべり見たいで、このぐらいの時間に好き放題言ってることを知れた。
「んーよし、今日もいるわね…」
身体を低くして階下のおしゃべりに聞き耳をたてる……なにか良い情報を喋ってくれれえばいいんだけど。
「あー仕事だるいわねぇ」
「あんた、また言ってるの?お城で働けるだけでも名誉なことなのに」
「あなたは真面目ねぇ……」
「あなたが不真面目すぎなのよ」
「あはは~あっ、そういえば、また聞いちゃったんだけどさ?」
「またぁ?あんた普段どこで話しあつめてるのよ……」
「まぁ、それは秘密ってことで♪」
「まぁ、いいわ…それで?今日はなに?」
「うん、実はさ、呪の姫君のことだけど。新情報が入ったのよ」
「へぇ?」
「あのね……1週間後、あの姫を捨てることが決まったんだって」
「ほんと?」
「ほんとほんとっ、だってさ、リリノさんが兵士と話してるの聞いちゃったんだもん」
「リリノさんねぇ……あの人ずっと姫様の世話役だったのに…なんにも思わないのかしら?」
「思わないでしょ?私達だってあの姫様のこと嫌いじゃない。あの人がいるといつ魔物が攻めてくるかもわからないんだもん。さっさと捨てて平和になってほしいよ」
「聞かれたら大目玉よ…」
「え~別に言ってたって何も言われないわよ~」
「明後日……時間が無さすぎる……」
私はまだ階下で喋ってるメイドたちの会話は耳にはいってこなかった……もう少し時間があると思ってたけど、そんなことなかった……急がないと私は森に捨てられて【誘引の呪】で引き寄せられたモンスターに生きたまま食べられる……いや、それだけじゃない……ゴブリンみたなモンスターだったら?
「うっ…ダメ、考えたら……はぁはぁ……うぅ、頭痛い……しっかりしろ私ー……逃げるんだ、逃げなきゃ……」
(私は幸せになるんだ……見た目は良いんだもん、呪さえどうにかできればいつか物語の王子様みたいな人と一緒になれるかも…/// そうだよ、しっかり幸せになる、絶対幸せになるんだ……)
この日から私は急いで逃げる方法を考えた……考えた…考えた……そして、思いついた方法はすべて試した…でも、そのすべては失敗に終わった……
「はぁ…間違いなく警備が強化されてるよね……前までは巡回してない時間も兵士が見回りをするようになったし、明らかに兵士の数が増えてる……」
それに、毎日のようにおしゃべりしていたあのメイドをまったく見なくなった……私はダメ元でリリノに、まぁ、遠回しに聞いてみたら、最近不真面目なメイドが1人解雇されたって教えてくれた。まぁ、そのあとなんでそんなことを気にするのかって詰められたけど……めっちゃ怖かった……
「どうしよう……あと3日しかない……このままじゃ私は……うっ、うぇ……ダメ、悪い考えばっかりはダメ……うぅ、頭痛い……はぁはぁ……」
「とにかく今日はもう、無理……明日は起きてからタイミングを見よう……」
次の日の朝、私が目を覚ますといつもと部屋の雰囲気がなにか違う……別に見回したって物の位置が変わってるとかそういうのはない……
「なんだろう……あれ?うそっ!」
私は窓をみてその原因をすぐに気づいた……日はすでに高く昇り、今が正午であることがわかる……私は寝坊してしまったんだ……
「まって、じゃあリリノは?」
辺りを見ても食事が運ばれてきた気配はどこにもない……とりあえず外に出ようと私はベッドから立ち上がるとドアノブに手にかける……
「あれ?うそ、うそっ、まってっ!」
ドアノブをいくら動かしても扉が開かない……閉じこめられた…
「これって……やっぱり、リリノに聞いたのがまずかったかな……」
多分、私があのメイドの話を聞いていたってバレたんだ…だから私が逃げれないように閉じこめたんだろう。鍵を掛けたのか、扉の前に物を置いたのか…わからないけど、この非力な身体ではどうすることもできない。
「うぅ……こうなったら……もうなりふり構ってられないよね…」
バルコニーに出ると、歩いていた兵士がこちらに気づいたのだろう。明らかに睨みつけてきてる。それどころか、私がバルコニーに出たのを確認した瞬間兵士が複数人こちらに向かってくるのすら見える…完全に警戒されてる。
「はぁ……どうしよう……」
さて、あれから数時間…私は床に倒れていた。別に死にそうとかそういうのじゃない…ただ、夜になるまで体力温存するためだ。
「うぅ……ひもじい……」
前世の私はクズ親のせいで、満足にご飯なんてもらえなかった…数日、水だけで耐えしのいだりなんてよくあったから耐えらえれる!
そう、思ってたのに……まずこれまで食べられなかったことがない、この身体は空腹に耐えられなかった……せめて水があれば我慢できたかもしれないけど、ここにはないし……ちなみに、試しに声を出して人を呼んでみたけど誰もこなかった…
「うぅ、多分、逃げられる体力をなくすために兵糧攻めにあってるのかなぁ……ダメだ、今日逃げなきゃ……本当に逃げられなくなっちゃう」
それから突っ伏したまま数時間が経ち、辺りは暗闇に包まれた……もう、これが最後のチャンスだ……失敗すれば、後はない……
私は窓を開けると、力を振り絞って窓枠に登る……
「うぅ、怖い……」
この窓から先には木が立ってる……あの木に飛び移れば、下に降りることができる…はずっ
「うっ……ダメ、下を見たらダメ……ご、5Mぐらい?え、枝はもうちょっと近いし、なんとかなる…よね?」
せめて昼間なら…そう思うけど、辺りはすでに暗く、木も部屋の灯でどうにか見えてるだけ…はっきり言って不安だし怖い…失敗したら?地面に叩きつけられて死んじゃう?死ななくたって痛いよね……?
「ダメ、考えちゃダメ……う、うぅ……」
脚が震える…そもそも、この虚弱な身体であの木に飛び移ることなんてできるの?ダメだ、悪いことを考えちゃダメ……わかってる、わかってるけど…私の頭は悪い想像でいっぱいになる。
「はぁ、はぁ……ダメ、ダメ……考えちゃダメ……」
私は……結局、覚悟は決まらなかった……飛び移るなんて出来ず、私は脚を震わせて、窓枠から降りると、その場で脚を震わせてしゃがみ込んでしまった……私は意気地なしだ……
◇
それから数日……その日は来た……私の身体はこの3日間、一切食事が与えられず、すでに動くことすらできない……この場で死なれたら困るのか、水だけは与えられ、ぎりぎり生命を繋いだだけ……
「失礼します」
扉が開き、リリノと数名の兵士が部屋に入ってくる……3日前から着替えもしてないし、身体だって拭けてない…そんな有様の私をこいつらはどう思ってるんだろう?
「り、リリノ…」
「皆さま、お願いします」
「ねぇ、リリノ……」
「なんですか?」
「嬉しい?邪魔者がいなくなって……嬉しい、よね…お前たちは皆、私はただ、生まれただけ、なのに……どいつも、こいつも……」
彼女は私の言葉に驚いた顔をして見ていた……もっとも私と近しかったのはリリノだ…こんな私を見たことなかったんだろうなぁ…きっと、泣いてすがってくるって思ってたのかもしれない。
でも、もう私はこんな奴らに頭なんて下げてやるか……前世も今世も……私の敵に頭なんて下げてやるものか……無駄だってわかってるけど、これは私の最後のプライドだ。
「……さっさと連れて行ってください」
私も何も言わない…ただ、リリノを最後まで睨みつけてやった……
(はぁ……どうしよう……このまま森に捨てられるんだよね…あーあ、娘の最後だっていうのに、顔も見せないなんて、ほんと…この世界でも親ガチャ失敗したなぁ……)
涙が出そうになるけど意地でも泣いてやらない……こいつらに涙なんて見せてやらない。こんな連中の思い通りになんてなってやるか…まぁ、空腹で体力もなくて動けないし……まぁ、ご丁寧なことに檻にまで入れられた…
兵士たちは誰も私に声をかけないし見向きもしない……まぁ、彼らの仕事は私を死の森に捨てること、それだけだもんね……
まぁ、城をでて時間が経ち……外はすでに暗い……今日はここで野営らしい…死の森の詳しい場所なんてしらないし、そんな名前の物騒な森のそばには王都があるわけないよね……
(うぅ、自分たちだけご飯食べるなよぉ……私にも食べさせろーどうせ動けないんだからいいでしょー……まぁ、口に出す体力もないんだけど……)
「…っ」
(なに今の感覚??)
これまで一度も感じたことのない不思議な感覚がした…といっても痛いとか苦しいとかじゃない。説明を求められても答えづらい不思議な感覚……
「うわぁぁああっ!」
「魔物だっ!構えろっ!!」
私は力を振り絞って顔を上げると、そこにはどこにこんなにいたんだろう?2,30匹はいるんじゃないかっていう狼型の魔物の姿があった…特に気になるのは他の狼より二回りぐらい大きい個体までいる……
「ぎゃぁああああああっ!」
「なんでこんなところにっ」
「防げっ、いそげぇええっ」
兵士たちは大パニックみたいだ……あはは、ざまーみろ……きっとこれが私の呪いの効果なんだろう……私に引き寄せられて魔物が集まってきたんだね…
「あーあ……あのまま、あの狼達に食べられちゃうのかな……」
「まぁ、兵士達がやられてるのはいい気味かなぁ……」
まぁ、そんなこと思っても彼らは攻撃してくる兵士を先に狙っただけで、私が獲物なのは変わりない……あのひときわ大きい狼がこちらに近づいてくる……
「あ、あはは……おっきいなぁ……あの口ならこんな牢なんて砕いて私を食べちゃうんだろうなぁ」
巨大狼が私に近づいてくる……これまでは嫌な目を向けられたって殺意なんて向けられたことなんてない……でも、今初めて、本当に殺意というものを感じた……死ぬ……
「……やだ……やだ…やだ、やだ、やだやだやだやだっ!死にたくないよぉっ!!」
「こんなの嫌っ!誰か、誰か、だれかっ!助けてよぉおおおおっ!!!!」
辺りからはもう兵士の声は聞こえない……聞こえてくるのは何かを砕く音と食べる音……そして、私にむかって近づいてくる狼たちの足音……そして、恐怖に呑まれた私の泣き声……
巨大狼はその口を開き、私に近づいてきた……その姿を目をそらすことも出来ずに、動けない私……死ぬ、そう思った瞬間……狼の首が跳んだ……
「ふぇ?」