『あはははっ ねぇ、ねぇ?ほら、さっさとやれよっ』
『そうそう、あん?名にその目?』
『あーあ、生意気ねぇ~ほらほら、さっさと脱げよっ』
『それとももっと痛い目にあいたいのかなぁ?』
「ごめん……なさい……だから、お願い…します……」
なんで、なんでだろう…私が何をしたっていうの?ただ、ただ人付き合いが苦手なだけ、ただ静かにしてただけ、ただ本が好きなだけ……そんな私を彼女らが目をつけたのはなんでだろう……私から何かした覚えなんてない……いつの間にか、そういう空気になっていた。
『ほら、はやく脱げよ』
『そーそー、綺麗に撮ってあげるからさぁ!』
『きゃははははっ』
彼女たちは何が楽しいっていうの……私は辛いだけ、痛い、苦しい…でも、誰も助けてくれない、クラスの皆は誰もが私を見て見ぬふりをするだけ……それでも私は、生きてやる……あいつらを見返すぐらい絶対幸せになってやる!
なんで私ばかりこんな目にあうの?家族もそうだ……母親は私に興味がない、父親はいつもパチンコばかりで私に見向きもしない……そんな生活、学校でもいじめられて……でも、いずれあの毒親たちの元を離れるためにもお金を溜めないと……今日もバイトのために急いでバイト先に向かっていた。これまで頑張ってこれたのだって、お兄さんのおかげだ……でも、お兄さんは引っ越しちゃったけど約束は忘れていない……絶対また会うためにも頑張らないとっ!
その日も嫌だけど、負けたくない……学校に向かおうと何時もの道を歩く、横断歩道の信号が青いになり、私が渡り始めたところで、周りが騒がしくなった。
「え?」
私が見たのはスピードを出してこちらに向かってくる車の姿だった……
◇
「あれ?」
私は……車に轢かれて……その時の記憶ははっきりしてる。でも私の目に映る光景は天井……私は寝ているらしい……感触からしてベッドなのはなんとなくわかる……でも、病院じゃない、木造の家……
「え?え?なに、ここ??あれ?」
私が辺りを見回すと、そこは知らない部屋だ…少なくとも病院じゃない……部屋も白くないし、それに周りにあるものだって、覚えのない絵画や壺なんかが飾られてる……少なくとも、こんな部屋が病院なわけはないよね……
コンコンッ
「はっ、はい?」
ノック音に私はとっさに返事をすると、扉が開いて1人の女性が入ってきた……それはメイドさんだ……私は、そうだ、この人を知ってる……
「姫様、お食事を持ってまいりました」
「あ、ありがとう……」
ドキドキと心臓が早鐘を打っている……彼女はたしかリリノ……そう、リリノだ。私のお世話をしてくれてる侍女……違う、私は、メイドさんなんて知らない……ちがう、私は姫で……
「うっ……」
「どうかなさいましたか?」
「う、ううん……なんでもない……ね、ねぇ、り、リリノ…」
「なんでしょうか?」
「あの……お、お父様、たちは…」
「お変わりありません。それに、姫様が気にされることでもありません」
「そ、そう……ごめんなさい……」
「では、あとで食器は片づけに来ますので、失礼します」
「あっ……」
「なにか?」
「う、ううん、なんでもない……ごめんなさい」
「一言申し上げるなら、謝ったところでなにも変わりません…失礼します」
彼女はそれだけいってこちらを見向きもせずに出ていってしまった。まぁ、わかってたことだ…彼女は私のことを嫌ってる……ううん、この国に私を好いてくれる人なんていないんだ……
まずは状況を整理しなきゃ……
「私は……
頭が混乱する……私は、事故にあて死んだ、これは間違いない……しっかり記憶がある……でも、同時にこの国で……アルクレイン王国で暮らしたアンネレーゼの記憶もある……
「これって、やっぱりあれかな……ライトノベルでよく見る異世界転生?あっ……」
私が見つけたのは姿見……あまりきれいな鏡じゃないけど、容姿を確認することはできる。そこに映し出された姿に息をのむ。日にかざせば透き通るような金色のきめ細かい髪。肌もシミひとつない綺麗な肌だ…瞳は海の色のような青い色をしている……
「すごい……これが、私……?」
この姿を見れば改めて転生したんだって考えに至る……前世の私は死んで、アンネレーゼとして転生したんだ……
「あっ、あははっ、すごいっ、すごいよっ!こんな綺麗な姿……元の世界ならアイドル…ううん、そこらのアイドルじゃ太刀打ちできないよ!これが私…元の世界だと名前負けしちゃってた私……」
でも、すぐにその喜びは消える……さっきまで2つの記憶を思い出したことで混乱していたけど、落ち着いてきて、今の私の現状をはっきりと理解した……
「そう、だよ……リリノのことだって、私を嫌ってるってさっき思ったばかりじゃない……あ、あはは……なにそれ、元の世界でも一人ぼっち……ここでも一人ぼっち……そっか……」
私、アンネレーゼはこのアルクレイン王国の第3王女として生まれた……幼少期は良かった。国王であるお父様もお母様も私に優しくて、異母兄姉達だって私を可愛がってくれた。
私の生活が一遍したのは10歳の誕生日……この世界では10歳になると天啓の儀式と呼ばれる儀式を受けることになる……これは貴族だとか平民だとかは関係ない、誰でも10歳になると教会で受けることになるものだ。
ゲームやラノベによくあるスキルそういったものが、天啓と呼ばれるもの……なんでもこの世界の神様から10歳の誕生日に授けられるプレゼントらしい……種類はどれぐらいあるかはわかっていない。人それぞれに違いがあり、基本的には1つだけ、多い人で3つだって話しだ4つ以上もってる人はお父様たちも見たことがないって言ってた。
この天啓にはランクがあって、最初は【微】→【弱】→【中】→【強】→【高】→【極】の6段階あって、【中】あれば、その道ので十分食べていける実力があるらしい、【強】ならばプロと言える存在だろう。なんで日本語表記なのかはわからない?これは言語翻訳の能力みたいなので私にわかりやすくしてるのかな?
さて、私は当然、王族ということもあって期待を一身に背負っていた……皆が素晴らしい天啓を得るってそう思ってたんだ……でも、現実は厳しかった……
『アンネレーゼ様の天啓は……これは……』
『司祭殿?どうされた?』
『あっ、それは……』
『なにか問題でもあったのかっ?』
あの日、私の天啓の儀式を行ってくれた司祭様は……私の天啓を見て言葉を詰まらせた…そして、司祭様が重い口を開いて、告げた言葉は私を地獄に叩き落すには十分だった。
『姫様の天啓は……【誘引の呪】……あらゆる魔物を引き寄せ災いを呼び起こす災厄の力です』
その一言から、私の生活は変わった……優しかったお父様とお母様は私を見ることもなくなった。異母兄姉達も私を汚いものを見る目で見るようになった。
使用人たちも私に対して冷たくなり……私を世話してくれてたリリノの態度も一変した。いつも優しく私に微笑みかけてくれた彼女からは笑顔が消え、最低限のお世話だけするようになった。
当然泣いた、世界の理不尽さに、私は泣いて泣いて泣きはらして……それで、誰も助けてくれないって嫌でもわかった……
「あはは…なにそれ……結局転生してまでこんな生活なんだ……それなら記憶なんて戻らないほうがよかった……」
転生前も地獄、転生しても地獄……変わったのは容姿が良くなったぐらい?だからなんだろう…それと引き換えに誰からも嫌われる存在になった……世間では私を”呪の姫君”なんて呼ばれてるらしい。
「はぁ……外に、無理だね……」
私に与えられた場所はこの部屋だけ……あとはバルコニーに出るのがやっとだけど…ここはそもそも、私が幼いころ住んでいた部屋じゃない…10歳のあの日に私は王城の中でもっとも離れた部屋に隔離された……
それから、ずっと……そうこの5年間ずっと私はこの部屋に閉じこめられてる……別に外に出れないわけじゃない……でも、外に出れば使用人達に嫌な顔をされて、皆は私の悪口をいう…最初の頃の私は少しでも、誰かと触れあいたくて外に出ていた……でも、すぐに皆の様子を見て、私は結局部屋に引きこもることになったんだ……
「あはは……部屋に引きこもってて太らないのいいなぁ……はぁ、馬鹿らしい……」
◇
それから結局何も出来ず、ただ部屋にいることになった……一応本なんかはあるけど、見ても面白いものでもない……なまじ記憶がある分、本の内容もわかってて改めて読む気にもならなかった……
「せめて、アンネレーゼとしての記憶がなければ純粋に読めたのかな……外、出てみようかな」
この世界には、スマホもないし私が好きな小説だってない……ここでは結局一日代り映えもしない外の景色を眺めてるか、何度も読み返した本を読むか……ただただ、眠っているか……やることのない私は外に出てみることにした…
「すぅーはぁー……よしっ」
覚悟を決めて扉をあける……まずは第一段階クリア。特に扉のそばには誰もいなかった…もし見られたら、あの目を向けられると思うと自然と身体に力が入ってしまう……
「と、とにかく…見つからないように外へ行かなきゃ……」
ただ、出てすぐ後悔してる……私の着てる服は元の世界の一般的な服装とは当然違う……ようするにドレスだ……とてもじゃないけど1人で着替えれる気がしない…今日は記憶が戻る前にリリノが着せてくれたんだ……
「うぅ……動きづらい……元々あまり肌を出さない服を着てたけど……さすがにドレスは来たことがなかったし…」
「ねぇ?聞いた?」
(ひぅっ!)
声を出さなかった自分をほめたい……聞こえてきた声は階下からみたい…少し顔を出して聞き耳を建ててみる。
「なにが?」
「ほら、呪の姫様のことよ」
「あぁ、もしかして陛下がこの間決定したってやつ?」
「そうそう、やっとなのね」
「そうねぇ……まぁ、良いんじゃない?あの姫様の世話とかする必要なくなるわけだし」
(え?私のこと?世話の必要なくなる??)
「まぁ、皆さっさと居なくなってって言ってたしねぇ~」
「聞こえるわよ?」
「大丈夫よ、あの姫様は部屋から出ないんだから」
「まぁ、そうだけど……」
「それでだけどさ?実は私聞いちゃったんだ」
「なにを?」
「あの姫様の捨て場所よ」
「あんた……」
「大丈夫だって……まぁ、噂よ噂」
「それで?あの姫を陛下はどこに捨てるって?」
「ほら、あの森よ……通称、死の森。あそこに捨てるんだって」
「うわぁ……じゃあ、姫様は魔物に生きたまま食べられるってことかぁ」
「そうなるわねぇ~あはは、呪の姫君はその身をもって皆に安寧を与えましたってね」
「はぁ……笑えないわよ。それより仕事仕事」
「は~い」
メイド達の足音が遠ざかっていく……その足音を聞きながら、私は壁に背をついて座り込んだ。
「なに、それ……あ、あは、あはは……生きてることすら、許されないんだ……」
なんで?なんで?なんで?なんで?私が何をしたって言うの?元の世界でもそう……私が何をしたっていうのっ!私はただ、ただ生きてただけなのにっ!!
「ここで、また死ぬ?また勝手な都合で私は命を散らすの?なにそれ……」
「生き延びてやる……」
前世の不幸をここでも引き継いでなるもんか……もう誰にも私の自由を奪わせてなるもんかっ! 私は生き延びてやる……
「まずは逃げないと……」
私は部屋に戻ると、とにかくあるものを確認する……でも、結局使えるものなんて何もない。あるものは服と靴、あとは本……あはは……本当に何もないなぁ…
バルコニーからの脱出は……とてもじゃないけど無理だ……服をちぎって紐にすれば?たぶん、これも無理だろう……ここまで歩いただけでわかったことがある。
「私……元の世界より非力だ……」
そう、あのわずかな距離の移動だけで疲れている……ここにある本だって重く感じる……
「引きこもり生活で筋力なくなりすぎだよ……」
「それでも逃げなきゃ……」
私は覚悟を決めて脱出するタイミングを考える……今世では絶対幸せになってやる。