「――あ、これお土産。バウムクーヘンとマカロンの詰め合わせ」
わたしはそこでお土産のことを思い出した。お持たせで杉本さんにお出ししようと思っていたけれど、ちょっと遅かったかな。
「ああ、ありがとうございます。夕食後にでもみんなで頂きましょうか」
「……キリのスイーツ好き、相変わらずなんだな。でもビックリしたなー。お前がこんなに可愛くてしっかりした人の婿さんになってたとは。しかも恋愛結婚だって?」
杉本さんが心からの驚きをまくしたてる。……貢はわたしが帰ってくる前に、結婚までのなれそめを話していたらしい。そして多分、自分から婿入りを望んだことも。「運命の出会いだったんだ」なんて嬉しそうにノロケをかましていたんだろうな……。ちょっと恥ずかしい。
「ありがとうございます。わたしたちは一目ぼれ同士で、出会うべくして出会ったんだってわたしも思ってます」
「キリ……いや、彼もそう言ってましたよ。いやぁ、運命の出会いって本当にあるんですね」
「……スギ、いいよもう。『キリ』って呼んでくれて。呼び方に困ってるみたいだし」
結婚して名字が変わった貢が、お友だちからの昔の呼び方を受け入れた。やっぱり、急に呼び方を変えられると他人行儀で落ち着かなかったのかな。
わたしも貢の隣に腰を下ろし、会話に参加させてもらうことにした。
「――ところで、杉本さんってご結婚は? というか、どういうお仕事をされてるんですか?」
「僕は
「そうなんですよ、絢乃さん。スギは高校時代も調理実習とかでやたらリーダーシップを発揮してましたね。ってことは、親父さんの店継ぐのか?」
「ああ、そのつもりだよ。今日はオレ、休みにしてもらったけど。身内がやってる店だとそういうところ融通利くからさ。――そういや、お前の兄ちゃんも料理人じゃなかったっけ? 高校の頃、キリがバリスタになったら一緒に喫茶店やろうってしつこく言われてたよな。絢乃さん、知ってました?」
「ええ、貢から直接聞いたことあります。それがウザすぎたからバリスタになるのをやめたんだ、って。わたしには仲のいい兄弟の微笑ましいエピソードで羨ましかったですけど。一人っ子なので」
「そりゃどうも。――兄貴は今、ファミレスで店長兼厨房スタッフとして頑張ってるよ。将来は洋食屋を開くんだってさ。今年授かり婚して、奥さんは今妊娠五ヶ月」
「へぇー。そういやキリ、お前のバリスタになりたいって夢はもういいのか? なんか、篠沢商事の経営陣に加わる話が出てるらしいけど」
「……貢、杉本さんにその話もしたの? まだ答えは出てないんでしょ?」
結論はこの休暇が終わるまでに出すと言っていたはずなのに、彼の中ではもう答えが出ているということ?
「まぁ、一応そういう話が出ているってことだけは。――でもスギ、俺、バリスタになる夢も諦めたわけじゃないんだ。っていうか、絢乃さんのおかげで再燃したって言った方がいいかな。将来、隠居の身になったら絢乃さんと一緒にカフェを開こうかなって考えてる。彼女、スイーツ作りが得意なんだ」
彼は生き生きと、結婚披露パーティーの時新たに生まれた夫婦の夢を語る。
「なるほどなぁ。ホントにお前と絢乃さんは惹かれ合う運命だったってわけだ。オレもいい
「……ちょっ、スギ!? 絢乃さんの前でそんな話することないだろ! 絢乃さん、すいません。昔のことなんで気にしないで下さい」
「あー……、何となくそうじゃないかと思ってました。わたしが高校を卒業するまではそうでもなかったですけど、卒業してからはものすごく情熱的に求めてくるんで」
この場に母もいるのでちょっといたたまれなくなりつつ、わたしは答える。
最近では、こっちが彼の本当の姿なんじゃないかと思っていたけれど、やっぱりそうだったのか。初めてわたしとエッチするまでは、わたしが高校生でしかも上司だったから猫を被っていただけだったんだ。
でも、挿入してのエッチをするまでにも、色々とわたしの性的欲求を満たしてくれたことを思えば合点がいく。あれはただ単に、恋愛経験があるからというだけじゃなかったのね……。
杉本さんはわたしの返事を聞くと、笑いながら「そうじゃないかと思ってました」と言った。
「お母さんがいるからちょっと言いづらいですけど、絢乃さんとキリってカラダの相性もいいんじゃないっすかね? 何だかんだで絢乃さんもこいつとヤるの好きでしょ?」
「…………ええ、まぁ」
わたしは認めた。自分のことをそんなふしだらなオンナだと思いたくはないけれど、確かにそうでもなければ十九歳で八歳年の離れた人と結婚しようとは思わないかも。
ただ、貢は確かに絶倫かもしれないけれど、自分本位のセックスを好む人じゃない。ちゃんとわたしの気持ちを優先してくれて、わたしが怖いと思うようなことは絶対にしない優しい人だ。だからわたしは彼のことが好きなのだ。
「……おっと。なんか下世話な話題になってしまってすみません。僕はそろそろ失礼します」
「あら、帰っちゃうの? 杉本さんも夕食、ご一緒にどうかと思ってたのに」
そう言って彼を引き留めたのは母だけれど、わたしも母と同じことをしようとしていた。今日はお仕事が休みだと言っていたから、夕飯くらい食べていってほしかったのに。
「いえ、家族団らんの時間をおジャマしちゃ悪いですし。キリ、久しぶりに連絡くれて嬉しかったよ。今度は奥さんと一緒にウチの店に来いよ」
「うん、絶対に行くよ」
「ええ。今日はお会いできて楽しかったです。また遊びに来て下さいね。わたしたちも休暇はあと五日もあるので」
また来ますね、と言って杉本さんは帰っていった。
* * * *
みんなで夕食を囲み――今日は和食だった――、お土産に買ってきたスイーツをデザートに頂いてから、わたしたち夫婦は寝室へ上がった。
「――貢、わたし、今日はエッチしないで寝たいかも。昨夜二回もしたから腰が痛くって」
二人とも入浴を済ませてのんびりしている時、わたしは彼に言った。こう言って、彼が「イヤだ」とダダをこねるような人じゃないことはわたしもよく知っているからだ。
「いいですよ。明日はお墓参りに行くんですもんね。お義父さまと、おじいさまとおばあさまの」
「そう。貴方には運転していってもらわないといけないし、今晩疲れてる場合じゃないでしょ。早く起きる必要はないけど」
「そうですね。じゃあ……せめて、朝お預け食らった分だけでも……」
彼はそう言って、わたしのバックに回ると脇から手を伸ばしてわたしの胸を鷲掴みにした。
「んん……っ、あ……っ。もう……しょうがないなぁ」
服の上から胸をモミモミされるだけでも、わたしは十分気持ちよかった。体を繋げなくても、こういうスキンシップだけでわたしは彼からの愛を感じられる。
「ああ、柔らかくて気持ちいい……。このまま肩ヒモをずらして、ブラも外して直接触っちゃダメですか?}
「それはダメ。やりだしたらキリがないから」
「えぇ~~……?」
彼はガッカリしながらも、わたしの胸を揉む手を止めない。でも、だんだんわたしの呼吸も乱れてきた。
「んん~~っ、あぁ……。はぁ……、やっぱり……一回だけエッチする?」