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永遠の友情と永遠の愛情 ②

 ――十一時半過ぎ、わたしは恵比寿にあるイタリアンレストランの前に到着した。今日は土曜日でしかもいいお天気なので、道路が混んでいたのだ。


「若奥さま、お約束の時間に遅れさせてしまい、申し訳ございません」


 寺田さんは、わたしが遅れて着いてしまったことを平謝りした。

 待ち合わせの時間は十一時半だった。でも、二人だって遅れて来ないとも限らないのだ。そんな小さなことが原因で壊れてしまうほど、わたしたちの友情は脆くない。


「ううん、大丈夫だから。寺田さん、送ってきてくれてありがとう。帰りは電車で帰るから迎えに来てくれなくていいよ。ママにもそう伝えて」


「……はあ、さようでございますか。畏まりました。では、私はこれで――」


「あ、寺田さん。絢乃を送ってきて下さったんですね。ご苦労さまです。絢乃、やっほー♪」


 帰ろうとする寺田さんに、今到着したばかりらしい里歩が声をかけた。彼女は同じ女子校の初等部受験の頃からの親友なので、我が家で寺田さんや史子さんともよく顔を合わせているのだ。


「絢乃タン、五日ぶりだねー。あ、寺田さんだぁ♪ こんにちは! 絢乃タンの送迎、ご苦労さまですっ」


 そして、唯ちゃんも去年、高三になってからの付き合いだけれど、寺田さんとはすっかり顔なじみである。


「里歩、唯ちゃん! 二人も今来たの?」


「うん。電車混んでてさぁ、唯ちゃんとも五分くらい前に駅で合流したところなんだ」


 唯ちゃんは恵比寿に住んでいる。里歩の家は新宿なので、多分JRの山手線が混んでいたんだろう。


「そっか。じゃあ、遅れたからって気にすることなかったね、寺田さん」


「……そのようでございますね。では、私はこれで失礼致します。里歩さま、唯さま。若奥さまをよろしくお願い致しますね」


「はい、任せといて下さい!」


「は~い♪」


「寺田さん、ホントにありがとう。気をつけて、安全運転で帰ってね」


「はい。では、失礼致します」


 寺田さんはわたしたち三人に深々とお辞儀をして、わたしを乗せてきた黒塗りのセダンで自由が丘まで帰っていった。

 そして、わたしたちは楽しくおしゃべりをしながらお店に入っていく。

 里歩がホールスタッフの男性に予約していた旨を伝え、わたしたち三人はテーブル席に通された。


「――そういえば里歩は今日、夕方からバイトなんだよね」


「そう。だからこんな格好でゴメンね。ホントはもうちょっとオシャレして来たかったんだけど」


 残念そうに肩をすくめる彼女は、クリーム色の七分袖のサマーニットに黒のコットンパンツというカジュアルな服装。何でも働いているお店で黒のパンツが必須らしい。制服は上着とエプロンだけなのだとか。

 一方の唯ちゃんは、膝上丈のオレンジ色のワンピースにニーハイソックス。二人ともけっこうカジュアルな服装だけれど……。あ、わたしもか。


「でもこのお店、カジュアルな感じのお店だからさ。実はそんなにめかし込んで来なくても大丈夫だったんだよね」


「そうなんだ? わたしもね、ワンピースかこっちの組み合わせかで迷ったの」


「いいじゃん♪ 絢乃タンはスタイルいいから何着ても似合うもん。唯なんかお胸もお尻もペタンコだよー?」


「そうそう。絢乃は出るところ出て、引っ込むところは引っ込んでるっていう恵まれた体型なんだから」


「……そうかな?」


 二人の親友にプロポーションをベタ褒めされ、何だか照れ臭い。

 そういえば、貢にも初めてエッチした去年のイブに言われたっけな。「キレイな胸をしてる」って。巨乳というほどでもないけど、程よく大きくて形もいいって。……ちなみにDカップである。


「でもそれだけじゃないよね。今日の絢乃、なんかいつもに増してお肌がツルツルな気がする。結婚してからセロトニン増し増しって感じ?」


「セロトニン……って何だっけ?」


「「だぁーーっ!」」


 唯ちゃんが可愛らしく小首を傾げてボケたので、わたしと里歩はその場にのめった。


「……唯ちゃん、〝セロトニン〟っていうのは幸せホルモンの名前だよ」


「そうそう。絢乃は大好きな人と結婚したから、幸せホルモンがい~~っぱい出てるんじゃないかって言いたかったの、あたしは」 


「ああ、そっか♪ ナルホドねー、確かにそうかも」


 唯ちゃんもようやく分かってくれたようだ。


「とにかく、ランチのオーダーしよう。とりあえずパスタランチ三つでいいか。パスタの種類は選べるんだけど、どれにする?」


「じゃあ……わたしはカルボナーラで」


「唯はトマトとツナの冷製カッペリーニ。里歩タンは?」


「あたしはボンゴレビアンコで。――すみませーん!」


 里歩が黒いサロンエプロンを着けた女性のスタッフさんを呼んで、パスタランチ三つとおすすめのピッツァ、飲み物にシチリア産レモンスカッシュ三つをオーダー。先に運ばれてきたドリンクでまずは乾杯することにした。


「じゃあ改めて、絢乃と貢さんの結婚を祝して」


「「「カンパ~イ!」」」


「ありがと、二人とも。すっごく嬉しい! ……うん、このレモンスカッシュも美味しいね」


 二人は五日前、平日だというのにわざわざ学校を休んで結婚式に出席してくれたのに、改めて女子会として結婚をお祝いしてくれている。わたし、本当にいい親友たちに恵まれたなぁ。


「……あ、そうだ。これ、二人に新婚旅行のお土産ね。神戸の水族館で買ったお菓子とペンギンのぬいぐるみと、淡路島で買った鳴門金時のタルトクッキー」


 わたしはお土産の袋を里歩と唯ちゃんに渡した。


「わぁ、こんなにいっぱい? 絢乃タン、ありがとー♡」


「ありがと、絢乃。なんか、結婚式の引き出物といい、あたしたちもらいっぱなしだね。いいの?」


「うん、いいのいいいの。わたしも選ぶの楽しかったから」


「……で、旅行はどうだった? まぁ、写真はいっぱい送ってくれてたけど」


 運ばれてきたお料理を食べながら、わたしは昨日母に語った旅行の思い出を二人にも話した。


「あのね、淡路島で一昨日、〝天使の梯子〟が見られたんだけど。写真撮るの忘れちゃって」


「あらま、それは残念。でもいい思い出になったんじゃない? あたし、昨日の朝に送られてきた朝日の写真、あれいいなって思ったよ」


「えっ、ホント? あれね、関西ローカルで流れてる、わたしたち夫婦が泊まってた淡路島のホテルのCMとおんなじ風景なんだよ」


「マジ!? 動画観てみたいな。ネットに上がってるかな?」


「えーっと、待って待って……。あ、あった♪ コレじゃないかな?」


 食事もそっちのけで、里歩は唯ちゃんが検索して見つけたホテルのCMの映像を観始めた。とはいえ、映像自体は短いのですぐに観終わったけれど。


「やっぱキレイだね、あの光景。絢乃はあれを生で見たんだね……。いいなぁ」


 里歩は生ハムとバジルのピッツァにかぶりついてから、羨ましそうに言った。


「でさ、絢乃。肝心なところはどうだったワケ? 貢さんとの性生活セックスは」


「…………ブッ!」


 いきなり際どい話題に転換した里歩に、わたしは危うくパスタを吐き出すところだった。ゴホゴホとむせながらレモンスカッシュではなくミネラルウォーターを飲み、落ち着いたところで彼女に抗議する。


「ちょっと里歩っ! ここでそんな下世話な話する?」


「唯も興味あるなぁ、オトナの夜の関係? みたいな」


「唯ちゃんまでっ!?」


 そういうことにはまだ興味なさげな唯ちゃんまで話題に乗っかってきて、わたしは軽く目眩めまいがした。


「だってさぁ、夫婦になったわけでしょ。もう毎晩エッチしまくって大丈夫な関係になったわけじゃん?」


「…………それは……まぁ」


 さすがに毎晩はたまったもんじゃないけど、だいたいは彼女の言うとおりだ。ただ、言い方がちょっとあけすけすぎて何だかいたたまれない。


「確かに、結婚する前から彼と一緒に寝ることに抵抗はなかったけど。婚前同居してるし、彼の朝ちも見慣れちゃってるし」


 実は、わたしから朝勃ちしている彼にエッチないたずらをすることもしょっちゅうだけれど、それは言わないでおこう。ネタにしてからかわれるのもイヤだし。


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