ちゃんと玄関ホールで靴をスリッパに履き替えたわたしと貢は、リビングで改めて母に「ただいま」を言い、父の遺影にも「ただいま。無事に新婚旅行から帰ってきました」と手を合わせた。
「――ママ、これお土産ね。淡路のパーキングエリアで買ってきた淡路玉ねぎのインスタントスープと、明石ダコのおせんべい。あと、ママは甘いものも好きだから、鳴門金時のタルトクッキー」
史子さんが運んできてくれた紙袋の中から、母のために購入した品々を出してローテーブルの上に並べた。
ちなみに、スーツケースは寺田さんがすでに寝室まで運び込んでくれているらしい。
「ありがとう。でも、また買ったの? 昨日もいっぱい届いたのに」
「まぁまぁ。それはそれ、これはこれってことで。明日里歩たちに渡すお土産は、これから部屋に戻って仕分けなきゃいけないんだけど」
淡路のハイウェイオアシスで彼女たちへのお土産を買ったとき、余分に一枚ビニール袋をもらっていたのだ。
「そういえば、明日里歩ちゃんたちとお昼を食べるお店は決まったの?」
「うん。恵比寿にある、オシャレなイタリアンのお店に行くことになったよ。昨夜、『お店予約しといたよ』って里歩からライン来てた」
「そう。楽しんでらっしゃいね」
「うん」
「絢乃さん、どうせならランチだけじゃなくて、明日はお二人と思いっきり遊んできたらいいですよ。のんびり楽しんできて下さい」
「ありがと。じゃあそうさせてもらおうかな。貢はどうするの?」
「今晩のうちに高校時代の友人に連絡取って、明日会えそうなら久々に会ってきます。場合によってはこの家に来てもらうかもしれませんけど、いいですか?」
彼はわたしと母の両方に伺いを立てているみたい。もうこの家の一員なんだから、そんなに顔色を窺うようなことしなくてもいいのに。
「私は構わないわよ。絢乃、あなたは?」
「いいよいいよ。お友だちならいくらでも招いちゃって! でも女性はダメ」
「女性の友だちなんていませんよ。絢乃さん、それ嫉妬ですか?」
「…………なぁんてね、冗談だよ。そんなムキにならないで」
もちろん、彼がわたしのいない間に浮気するような人じゃないってわたしは知っているし、信じている。だから、本気で「女性を連れてきちゃダメ」なんて言うわけがないのだ。
……ただ、彼もわたしと同じくらい性欲は強そうだし、ちょっと油断ならないかも。
「――で、旅行はどうだった?」
「すごく楽しかったよ。色んな人に出会えたし、川元さんもお元気そうだった。『神戸支社がやっと軌道に乗ってきたところで忙しかったので、式に出席できなくてすみませんでした』って言ってたよ」
他にも観光地をあちこち散策したことや、南京町で美味しいものを食べ歩きしたこと、淡路島ではうず潮や〝天使の梯子〟を見たことなど思い出はいっぱいあって、二人で口々に母に話して聞かせる。
わたしが南京町でナンパされて、貢が強引にキスすることで追い払った話をすると、彼の意外な一面に母も「あらまぁ」と目を丸くした。
「貢くん……、あなたって意外とワイルドだったのねぇ」
「いや、その……。その時は僕も無我夢中だったもので」
あの後の彼の取り乱しようといったら。わたしは思いだしたらおかしくて吹き出してしまった。
「で、夜の方はどうだったのよ? 二人で盛り上がっちゃってたんじゃないのー?」
母が急にからかうような口調になり、そんな質問をぶっ込んできた。その意味を理解し、わたしと貢は夫婦で視線を交わして真っ赤になった。つまり、夜の営みについて訊ねているのだと。
「……うん、まぁ。三日目までは毎晩、ベッドとかお布団の上でエッチしたけど。昨夜は貢が酔い潰れて先に寝ちゃったからちょっと不完全燃焼っていうか。一人でしてた」
「……えっ? 知らなかった……」
恨みがましく彼を横目でチラッと睨むと、彼はガックリとうなだれる。本当は彼も昨夜、二人でしたかったらしい。
「それなら起こしてくれればよかったのに……。一人で気持ちよくなってたなんて絢乃さん、ズルいですよ! どうせなら一人でオナニーしてるところ、見てみたかったなぁ」
「……………………」
貢がとんでもなくおかしなことを言いだした。二人でしたかったんじゃないんかい。というか論点ズレてるし。妻の自慰を見てみたいとか、やっぱりこの人にはおかしな性癖でもあるんじゃないだろうか。
「……えぇと? そういう話は寝室へ行ってから、二人きりでしてくれるかしら? こっちがいたたまれないわ」
「「…………はーい」」
わたしたちは頭を抱える母に、二人そろって返事をした。少なくとも、親(彼にとっても義母になったわけだし)に聞かせる話じゃなかったかも。
「――じゃあ貢、寝室に行こっか。疲れたし、お風呂に入っての~んびりしよう」
のんびりしようとは言ったけれど、本当はのんびりじゃなくて早くマイホームのベッドで甘~い時間を過ごしたいのだ。しなきゃいけないこともまだあるし。
「はい。じゃあお義母さん、おやすみなさい。失礼します」
「ママ、おやすみ~♪」
「おやすみなさい」
* * * *
――わたしたち夫婦の寝室は、元はゲストルームだったお部屋だ。もちろんこの部屋にも専用のトイレ、洗面スペースと脱衣スペース付きの広いバスルームが完備されている。
キングサイズのダブルベッドが入っていて、寝具の肌触りも寝心地もバツグン。彼が一緒に住むようになってから、わたしたちはもう何度となくこのベッドの上で交わり合っていた。
でもこのバスルームではまだエッチしたことがない。お風呂場でしたのは去年のイブ、彼のアパートでした時が最初で最後だった。わたしはあの時の快感が忘れられなくて、またしたいなぁと思っているのだけれど……。
「――さぁて、まずはお風呂に入ろうかな。ね、一緒に入る?」
バスタブにお湯を溜めながら、わたしは貢に訊ねた。
「…………ええっ!? 淡路島でも言ってましたけど、そんなに一緒に入りたいんですか!?」
「うん。っていうか、たまにはお風呂でしたいの。気分変わっていいよ? ウチのバスルームは広いから、二人でも窮屈にならないし。誰に気兼ねすることもないし」
「……………………う~ん」
彼は悩みだした。でも、悩んでいるということは彼にもその気があるということだ。
答えを待っている間に、わたしは二人分のスーツケースからせっせと荷物を全部出して、洗濯物をまとめて史子さんに預けた。「明日、お洗濯よろしくね」と言って。
そして、クローゼットの
「…………いいですよ。たまには一緒に入りましょう」
結論が出たところで、彼も着替えを出して準備を整える。
そしてバスタブのお湯がいっぱいになったところで、二人して脱衣スペースで裸になり、広いバスルームへ飛び込んだ。
* * * *
イブに彼のアパートでしていたように、まずはバスタブをフタで塞ぎ、まずはそこへ座れるようにした。
そして二人ともシャンプーを済ませ、わたしはヘアトリートメントをなじませてから髪をまとめてタオル地のターバンを被り、体を洗いっこしてからシャワープレイへ。
「……あぁっ♡ ……ぁっ♡ あんっ♡ ……もう……貢、洗いながらクリをクニクニするのやめてっ! あぁん♡」
わたしの秘部を、泡まみれの手で洗いながら彼はエッチないたずらを仕掛けてくる。そのあまりの気持ちよさに、わたしは立っていられなくなる。
やられっぱなしも悔しいので、わたしも逆襲として泡だらけの手で、彼のシンボルをモミモミしてやる。でも、やっぱり彼の手で与えられる快感に耐えられなくなって――。
「…………あっ、もう……ムリっ! で……出ちゃう……っ! あぁぁーーー……っ!」
一度絶頂を迎えてブシャッと潮を噴き、彼の股間の前にひざまずきながらも彼へのモミモミはやめなかった。