「そういえば、川元さんはどうして神戸まで出てこられたんですか?」
彼の話からは、出身の島が大好きだという気持ちがダダ洩れだ。とても、島の暮らしがイヤで都会に出てきたとは思えないのだけれど……。
「それは、たまたま島の中に僕が進みたい学部の大学がなかったからです。進学を機に
「そうなんですね……。わたしも彼も東京生まれ・東京育ちなんで、〝ふるさと〟っていえる場所がないんです。いいなぁ、ふるさとがある人って……」
生粋の都会っ子同士であるわたしたち夫婦。この旅行をキッカケに、淡路島が〝ふるさと〟と呼べる土地になったらいいなぁと思った。
お喋りに花を咲かせながら、美味しいデザートまで平らげてお腹いっぱいになったところで、わたしたち三人はお店を後にした。
「――川元さん、今日はお付き合い頂いてどうもありがとうございました。ここの支払いは、わたしに持たせて下さい」
わたしが愛用のピンク色の長財布からブラックカードを取り出すと、川元さんが遠慮がちに首を横に振られた。
「いえ、この店をお二人に紹介したのは僕ですから。僕が支払いますよ」
彼はやっぱり、自分がもてなす側なのだから、支払いも自分がすべきだと思っているらしい。
でも、仕事での接待ならともかく、これはわたしと貢だけのプライベートな旅行でのお食事。お誘いしたのもわたしなのだから、支払いもわたしがするのが筋だと思う。
「ううん、いいから! これは接待じゃないし、お誘いしたのもわたし。だから、ここの支払いもわたしが。お願いします、川元さん!」
「……分かりました。会長がそこまでおっしゃるなら、素直にご馳走になるとしましょう」
渋々みたいだけれど川元さんも折れて下さって、わたしは無事に食事代の支払いを済ませた。
「会長、ブラックカードをお持ちなんですね……。あの若さで」
「スゴいでしょう? 僕も最初にあれを見た時、ビックリしましたから」
支社長とはいえ、川元さんもただのサラリーマンである。クレジットカードはお持ちみたいだけれど、さすがにブラックカードを目にする機会なんてあまりないのかもしれない。
「――それじゃ、わたしたちはこのままホテルへ戻ります。明日からは観光を思う存分楽しんできますね。川元さん、おやすみなさい」
「おやすみなさい。今日は本当にありがとうございました」
「会長、桐島さん、おやすみなさい。お母さまによろしくお伝えください」
川元さんと別れたわたしたちが
カードタイプのルームキーを使って入ったスイートルームは広くてキレイで、寝室の大きな窓からは神戸の夜景が一望できる。
「わぁ……っ! ねえねえ貢、見て! すごくいい眺めだよ!」
目の前に広がる百万ドルの夜景(今はこんな言い方しないのかな?)にわたしは歓声を上げ、窓際に貢を手招きした。
「うわ……、ホントだ。キレイな夜景ですねぇ。東京の夜景もキレイですけど、神戸のはまた違いますね」
「うん。なんか、温かみがあるよね。町の雰囲気のせいかな」
この温かみの夜景に包まれて、わたしは今夜、貢との新婚初夜を迎えているのだ。
二人で荷解きを終え、しばらく部屋に備え付けのTVを観たり、お義兄さまや里歩がスマホに送ってくれた結婚式の写真を眺めたりとしばらくゆっくりと過ごしてから、わたしはのんびり入浴を楽しんだ。
ウチのお風呂もすごいけれど、このホテルのバスルームも我が家に負けず劣らず広々していて快適だ。……ん? 違うか。我が家のお風呂が普通じゃないのかも。
「――貢、お風呂上がったよー。時間かかっちゃってゴメンね。ドライヤーかけてたから」
ルームウェアである真っ白なフレンチスリーブのコットンワンピースに袖を通し、キチンと髪を乾かしてからベッドルームにいる貢に声をかけた。
まだ湯上りの体はホカホカ温かくて、ほのかに湯気を立てている。
「いえいえ。ちゃんと髪を乾かしてから出てこられたんですね。じゃ、僕も入ってきますね」
「うん、行ってらっしゃい。じゃあ……、貴方の髪はわたしが乾かしてあげるね」
「……えっ!?」
「だって、いつもやってもらってばっかりじゃ悪いもの。わたしだって、貴方に何かしてあげたいんだよ。せっかく二人きりなんだし、いい機会なんだから思い切って甘えちゃいなさいって」
こういう言い方、なんか最近母に似てきたかな。そういえば母も、父が元気だった頃にはよくこうして父をやり込めていたっけ。
「…………。まぁ……、そこまでおっしゃるなら……ハイ」
どうやら彼を困らせてしまったみたい。何だか申し訳なくなって、彼がバスルームへ入ってしまうと、わたしはそちらに向かって小さく「ゴメンね」と謝った。
バスルームから水音が聞こえてくると、わたしは座り込んでいたベッドの上からストンと下りて夜景を臨む窓際へ歩み寄った。
ソファーに置いてあったバッグからスマホを取り出し、眼下に広がる神戸の夜景をカメラのレンズに収めていく。ステキな結婚式の写真を送ってくれた里歩や唯ちゃん、そしてお義兄さまに送ってあげようと思ったのだ。
撮影に夢中になっている間に、貢もお風呂から上がってきた。
彼はもうすっかり見慣れたグレーのスウェットに白いTシャツ姿で、バスタオルで髪を拭きながら、窓の外にスマホを向けているわたしに問いかけてきた。
「絢乃さん、お待たせしました。……あれ、何を撮ってたんですか?」
「ああ、ゴメン! 上がってたのね。――撮ってたのは神戸の夜景だよ。すごくキレイだから、写メ撮って里歩とかお義兄さまに送ってあげようと思って」
いつもはあまり色気を感じない(……って言ったら彼が気にするから言わないけれど。貢ゴメン!)彼だけれど、湯上りというのは普段の五割増しで男女問わず魅力的に見えるらしい。そのせいなのか、わたしはいつもドキドキしてしまう。
「ほら、みんなわたしたちの結婚式の写真、スマホに送ってくれたでしょ? だからそのお礼に、と思って」
「なるほど、それはいい考えですね。でも、兄貴には僕から送っとくんで、絢乃さんからは送らなくてもいいですよ」
「なになに? お義兄さまに嫉妬してるの?」
彼のその口ぶりが何だかおかしくて、わたしがからかうと「そんなんじゃないですよ」と彼は真っ赤な顔で口を尖らせた。
「――はい、じゃあ髪乾かすからベッドに腰かけて、後ろ向いて」
わたしは洗面所からドライヤーを持ってきてコンセントに差し込むと、彼をベッドのヘリに腰かけさせて自分はベッドの上に座り込み、彼の髪を乾かし始める。彼は座高が高いので、そうしないと体勢的に苦しいのだ。
彼の髪は短いので、すぐに乾いてしまった。
* * * *
明かりを消したダブルベッドの中で、夫婦となったわたしたちがすることは一つしかない。
「――あの、絢乃さん。今日からゴムなし解禁してもいいですよね?」
「うん……」
二人とも生まれたままの姿になり、お互いの舌を絡め合う濃厚なキスの後、胸への愛撫を経て彼の長い指がわたしの下腹部から秘部へと這ってくる。そこはもう彼の愛撫で蜜が溢れてトロトロにとろかされていた。
「……あぁ……っ、……ぁ……あっ♡」
「絢乃さん、指
「うん。……あぁっ!」
蜜穴の周りをかき回していた彼の中指と人差し指が、 グチュッと音を立ててとうとう穴の中に挿入された。彼はそのまま指を穴から抜き差しして、同時にわたしの胸の先端への刺激も再開させた。
「あぁ……ん、……は……ぁっ、もう……ぁあ……っ」
彼の手によってもたらされる快感に、わたしの意識がだんだん遠のいていく。
そして彼の顔が秘部へと近づいていき、吐息が当たるだけでもう、わたしは絶頂を迎えつつあった。そこで彼の舌先が、蜜に濡れた雌芯の先を捉え――。
「もう……イく……っ! …………あぁぁー…………っ!」
わたしの目の前が白くスパークした。ドクドクと鼓動が早くなる中、最奥部だけは彼自身を求めてうねっている。
「貢……、そろそろ……お願い」
「分かりました。じゃあ……挿れますね」
初めて避妊具なしで彼のそそり立ったソレがわたしの蜜壺に挿入され、彼はゆっくりと腰を動かし始めた。
彼との性行為はもう半年くらいあるけれど、こうして生身で交わり合うのは何だか新鮮だ。それもこれもわたしが高校も卒業し、二人が結婚したことで何の支障もなくなったからだと思う。
「あ……っ、あぁ……っ。いいよ、貢……」
「絢乃さん、痛くないですか? 苦しかったら言って下さいね」
「うん、大丈夫……」
行為の最中でも、彼はいつもわたしに優しい言葉をかけてくれる。
彼が耳元で囁くので、彼の吐息が敏感な耳にかかり、わたしの快感をより強くする。彼にも同じくらい気持ちよくなってほしくて、わたしも彼の程よく逞しい胸に頬ずりし、広い背中を手で撫でた。
その瞬間、彼の岐立が大きくなってわたしの壺の中を圧迫し、わたしもたまらなくなって「あぁっ!」と声を上げた。
「あぅ……っ! 絢乃さん、そんなに煽らないで下さい……っ!」
「ゴメンね。でも、貢にも同じくらい気持ちよくなってほしいの。……ああ……っ、わたしは気持ちいいよ……、あぁんっ! はぁ……んっ♡」
「僕も……気持ちいいですよ。うぅ……っ、もう……イきそうだ……っ!」
「わ……わたしも……っ、またイく……っ! あぁ……、貢……一緒にイこ……っ」
わたしも彼も呼吸が荒くなる中、濃厚なキスをしながら仲良く――わたしは二度目の絶頂を迎えた。
* * * *
「――わたしね、結婚してからも貴方のこと、どんどん好きになっていってる気がする。もう怖いくらいに」
行為の後、乱れた呼吸が整ってからわたしは彼の胸に頭を預けてこう言った。
わたしはもう、身も心も彼の色に染まってしまっていて、彼なしでは生きていけない。
「えっ? 何が怖いんですか?」
「貴方を嫌いになる日が来るのが、かな。それと、貴方に嫌われる日が来るのも」
「来ませんよ、そんな日なんか」
彼はクスッと笑い、わたしの髪を優しく撫でてくれた。そんな些細な仕草にさえ、わたしはキュンとなる。
「……そうだね。わたし、貢のこと信じてるから。だから貴方も、これから先もずっとわたしのことも信じてね」
「もちろんです、絢乃さん」
彼はわたしと出会う前から、女性不信だった。でもそれはもう、去年の夏に克服できたらしい、わたしの知らないところで彼にトラウマを植え付けた元彼女に再会し、そこでキッパリとその女性に引導を渡したのだそう。
わたしのことは全面的に信頼してくれているみたいなので、それはもう心配無用なのかもしれない。
「……じゃあ、もう寝よっか。明日のために」
「はい。おやすみなさい」
――こうして、わたしたちの新婚初夜は静かに更けていった。