自分達の様子を見兼ねて、助け舟を出したのは妹、シェリルだった。
「お兄様、朝食はお済みですか?」
「いや、まだだが……」
シェリルの問い掛けに、ルーカスは首を横に振った。
「それでしたら、イリアさんとご一緒に召し上がるのは
シェリルが「ね?」と小首を
(美味しい物を食べて、庭師の整えた優美な庭園を
確かに、いいかもな)
ルーカスはシェリルの提案に乗る事にした。
そうと決まれば、まずは食事へ誘うところからだ。
自分から女性を
右手を後ろ腰へ回し、左手のひらを上へ向けて、そっとイリアの前に差し出した。
「レディ、
「え!? えっと……?」
差し出された左手に、イリアは戸惑っているようだ。
すると、イリアの耳元にシェリルが口を寄せる。
(気まずいのでしたら、断っても大丈夫ですよ。受けるのであれば右手をお兄様の手の上へ)
(は、はい)
ひそひそとやり取りが聞こえた後。
イリアはおずおずと右手を伸ばし、ルーカスの手のひらにのせた。
イリアが「お願いします」と言って、見つめてくる。
ルーカスは「こちらこそ」と口にしながら目尻を下げ、口角を
かち合った
「では、お兄様はイリアさんのエスコートをお願いしますね」
シェリルはそう言い残して「私もお兄様と一緒に居たかったのになぁ」と
使用人達も一礼の
「それでは参りましょうか、レディ」
「はい」
ほんのりと頬を赤らめたイリアの手をルーカスは引いて、庭園への道のり、レンガの
彼女をリードして、
(
こういう時、以前はどうしていただろうか? と一考して。
(手を繋ぐか、腕を組むか……だったな)
しかし、腕を組むのは親しい相手の場合に限る。
今の彼女にとって、自分は見知らぬ異性に他ならない。
選択の余地はない。
ルーカスはイリアの手を握って、下ろした。
彼女の手は自分よりも小さくて、
手を添えるだけよりも近く、直に触れる手のひらからイリアの体温が……温かなぬくもりが伝わってくる。
(——自分でやっておいて、あれだが……手を繋ぐというのは、気恥ずかしいものだな)
ちらりとイリアの横顔を盗み見ると、耳が赤くなっていた。
彼女も気恥ずかしさを感じているのだろう。その様子に、更に恥ずかしさが増して来た。
(……失敗した。あのまま手を添えてリードしていた方が……。
——いや、それだと体勢を維持するイリアが大変だと思ったから、手を繋いだわけで……)
こう言った事は、ルーカスが苦手とする分野だ。
社交の場であれば割り切って行動できるが、今は違う。
何が最善だったのか、と心の中の自分とルーカスは討論を交わした。
けれど、繋いだ手は離さない。
(恥ずかしいからと逃げるのは、紳士に有るまじき
気恥ずかしさから沈黙が続く中。管理が行き届き美しい景色を保つ庭園を歩くルーカスの頬は、熱を
そよぐ
その冷たさが、心地良く感じられた。
緊張が
そこには上品な意匠のテーブルと椅子が二つ。
テーブルには白いレース生地のクロスが敷かれ、その上にカトラリーが並んでおり、準備は万全に整えられていた。
(ようやく着いた……)
ルーカスはテーブルの近くまで来ると繋いだ手を離し、ほっと溜息を一つ。
それから椅子を引いて、イリアが着席するのを待った。
イリアは椅子に腰を下ろすと、「ありがとうございます」と赤らんだ頬で微笑んだ。
ルーカスはむず
対面したイリアが
彼女の頬の赤みは幾分か引いたように見える。
自分はどうだろうか、と思って頬に触れる。こちらはまだ熱が残っている気がした。
そんな事をしていると、イリアは閉じた
ルーカスの好きな色。
何度見ても、澄んで綺麗な色をしている。
彼女はその瞳でこちらを射抜いて。
「ルーカスさん。ありがとうございます」
薄桃に色付く唇で言葉を
ルーカスはそれが何に対するお礼かわからず、首を
「エスコートのお礼なら、さっき聞いたぞ?」
銀の髪を揺り動かして、イリアが首を横に振った。
(他に何か……礼を言われるような事をしたか?)
思い当たる
むしろ目覚めた時の件を謝らなければ、と考えていたところだ。
「……ちゃんと伝えないとって思ってたんです。あの時、魔獣から助けてくれた事。ここに保護してくれた事も。感謝しています、ルーカスさん」
イリアが深々と頭を下げた。