次の地点へ移動する道中、ルーカスは先ほど
「破壊は叶わなくとも、封じる事は可能かもしれない」
そう聞いても三人はピンとこないのか、首を
ルーカスは言葉を続ける。
「情報が少ないので断定はできないが、先ほど氷塊に包まれた
「言われて見ればそうっすね」
「確かに。排除する事にばかり気を取られて気付きませんでしたね」
「この特性を上手く活かせば、有効な手段になると思わないか?」
「なるほど、仮に
そこまで語ればアイシャも何か閃くものがあったようで、思考を巡らせている。
(有効そうな一手が見つかったのは幸いだ。
今回が初めてのケースとは言え、今後同じ状況が起き
具体的な対策については情報を持ち帰り、上層部への報告と専門家の精査を経て一考の余地があるものの、悪くない結果と言える。
会話を交わしながらも足を止めず。
使用したのは〝
アイシャの魔術が発動して
アーネストの魔術による補助と
数の多さは厄介だが、
そうしてルーカス達は時計回りに東から西へ、
❖❖❖
陽が傾き、夕闇が忍び寄る中。
次の地点へ向けて移動していると——リリリン、とリンクベルが着信を知らせて、ルーカス達は足を止めた。
個人ではなく部隊全体のオープンチャンネルでの呼び出しである。
代表してアイシャが応答した。
「どうしたの?」
『こちら七班、状況の報告のためご連絡致しました』
七班隊長の声だ。
ルーカス達は届いた通信を各々のリンクベルで聞きながら、小休憩を取ることにした。
坑道の探索からここまで半日は
表には出さないが、流石に
ハーシェルとアーネストは水分補給と携帯食を口に、木へもたれ掛かっている。
ルーカスは彼らより少し離れた位置へ移動して、木陰のある木に体を預けた。
『団長と皆さんが
「……そう、無事合流できたようね」
『はい、西側の三班も移動を開始しており、もう間もなく合流するとの事です』
ルーカスは状況が好転している事に
握ろうとしてもいつもより力が入らず、小刻みに震えている。
疲労感から身体も重く感じる。
立て続けに〝破壊の力〟を行使した
一度ならまだしも、今日は
強大な力であるが故、体への負担も大きい事は承知していた。
(だが……情けないな。この程度で)
自分ではまだやれると思っていても、体は悲鳴を上げている。
気持ちとは裏腹な現実に「上手く行かないものだな」と独りごちた。
(しかし、弱音を吐くわけにはいかない。やるべき事が残っている)
ルーカスは気合いで拳を握り締め、前を向いた。
すると。
「これは——どういうことなの?」
『それが……我々にも状況がよくわからなくて。アイシャさん達ではないんですよね?』
「ええ、いまはまだ西側にいるわ」
『そうですよね……』
繋いだリンクベルから、アイシャと七班隊長以外の団員とのやりとりが聞こえてきた。
何やら困惑しているようだ、声に動揺が表れている。
ルーカスはすかさず会話へ参加する。
「何かあったのか?」
『あ、団長! それが……』
反応を返したのは、魔術師の男だった。
彼はこう続けた。
『突然
——と。反射的に、アイシャへ視線を向ける。
彼女は少し離れた場所で探知魔術を発動しており、ルーカスの視線に気付くと首を横に振った。
反応がない、という事だろう。
『さっきまでは倒しても、断続的に出現地点と思われる地点から反応が発生していたのに、先ほど倒した一群を最後にぱったりと。てっきり団長たちが原因を排除したのかと思ったのですが……』
「それはない、北方面は手付かずだ」
だとすれば
いずれにしろ、この場では判断しようがなかった。
「ひとまずこちらで確認してみよう。七班隊長、聞こえているか?」
『はい、団長』
「状況の確認が終わるまで七班と合流した五班はその場で防衛線を維持。三班を
『承知しました』
「確認が終わり次第連絡する。それまで頼んだぞ」
告げて、ルーカスは通信を終えた。
(休憩は終わりだな)
ルーカスが動き出すと、既に身支度を整えたハーシェルとアーネストが目に留まった。
いつでも出発できる姿勢を見せている。
「アイシャ、反応があった地点は覚えているか?」
「問題ありません。場所は
「んじゃサクッと行って終わらせますか」
ハーシェルが再度〝
——そして、ルーカス達は北側をくまなく捜索するも。
出現した時と同じく唐突に。
探索を終えた頃にはすっかり陽が落ち、山は夜の
「何だか
「だな。でもまた同じことが起こる可能性だって捨て切れない、だらけるなよ?」
「わかってるっての」
ハーシェルとアーネストのやりとりを聞きながら、四人は歩いて山道を進んでいく。
アーネストが言った様に、あれが再度出現するのではないかという
合流を目指し歩みを進めるが、その足取りは重い。
疲労もそうだが、消化不良な部分があるからだろう。
(地震に未知の現象……か)
両者の因果関係はハッキリとしないが、恐らく無関係ではない、とルーカスは考えた。
その後、リエゾン北の山とその周辺では、数日に渡り
こうしてリエゾンで起きた一連の騒動〝消える
——この事件で遭遇した、
だが、ルーカス達がそれを知るのは、もっとずっと先の話だった。