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第十一話 予想外な終幕

 次の地点へ移動する道中、ルーカスは先ほどゲートを破壊した際、気付いた事をべる。



「破壊は叶わなくとも、封じる事は可能かもしれない」



 そう聞いても三人はピンとこないのか、首をひねっている。

 ルーカスは言葉を続ける。



「情報が少ないので断定はできないが、先ほど氷塊に包まれたゲートから魔狼まろうが発生していなかった」


「言われて見ればそうっすね」


「確かに。排除する事にばかり気を取られて気付きませんでしたね」


「この特性を上手く活かせば、有効な手段になると思わないか?」


「なるほど、仮にゲートが……に作用するものだとするなら……」



 そこまで語ればアイシャも何か閃くものがあったようで、思考を巡らせている。



(有効そうな一手が見つかったのは幸いだ。

 今回が初めてのケースとは言え、今後同じ状況が起きる可能性は十分にあるからな)



 具体的な対策については情報を持ち帰り、上層部への報告と専門家の精査を経て一考の余地があるものの、悪くない結果と言える。


 会話を交わしながらも足を止めず。辿たどり着いた次の地点では、先ほどの様な上級魔術ではなく、牽制けんせいと足止めのための魔術を先手に行動を開始した。


 使用したのは〝氷結束縛グラセ・レストリク〟——その名の通り体の一部、主に地面に接した足などを凍り付かせる事で行動を束縛する魔術だ。


 アイシャの魔術が発動して牽制けんせいが成功した後は、ルーカスとハーシェルが斬り込んだ。


 アーネストの魔術による補助とつゆ払いの援護を受けて、怒涛どとうの勢いで魔狼まろうを打ち倒してゲートへと進む。


 数の多さは厄介だが、魔狼まろう一体の強さはそれほどでもないため、あっけないほど簡単に門の排除に成功した。


 そうしてルーカス達は時計回りに東から西へ、ゲートを次々と排除して行った。






❖❖❖



 陽が傾き、夕闇が忍び寄る中。

 次の地点へ向けて移動していると——リリリン、とリンクベルが着信を知らせて、ルーカス達は足を止めた。


 個人ではなく部隊全体のオープンチャンネルでの呼び出しである。

 代表してアイシャが応答した。



「どうしたの?」


『こちら七班、状況の報告のためご連絡致しました』



 七班隊長の声だ。

 ルーカス達は届いた通信を各々のリンクベルで聞きながら、小休憩を取ることにした。


 坑道の探索からここまで半日はゆうに超えている。

 表には出さないが、流石にみな、疲労が出始めていたからだ。


 ハーシェルとアーネストは水分補給と携帯食を口に、木へもたれ掛かっている。

 ルーカスは彼らより少し離れた位置へ移動して、木陰のある木に体を預けた。



『団長と皆さんがゲートを排除してくれたおかげで、南東方面で応戦していた五班が先ほどこちらへ合流致しました』


「……そう、無事合流できたようね」


『はい、西側の三班も移動を開始しており、もう間もなく合流するとの事です』



 ルーカスは状況が好転している事に安堵あんどしながら、左手を持ち上げて見つめた。


 握ろうとしてもいつもより力が入らず、小刻みに震えている。

 疲労感から身体も重く感じる。

 立て続けに〝破壊の力〟を行使した弊害へいがいだ。


 一度ならまだしも、今日は幾度いくどとなく力を振るっている。

 強大な力であるが故、体への負担も大きい事は承知していた。



(だが……情けないな。この程度で)



 自分ではまだやれると思っていても、体は悲鳴を上げている。

 気持ちとは裏腹な現実に「上手く行かないものだな」と独りごちた。



(しかし、弱音を吐くわけにはいかない。やるべき事が残っている)



 ルーカスは気合いで拳を握り締め、前を向いた。

 すると。



「これは——どういうことなの?」


『それが……我々にも状況がよくわからなくて。アイシャさん達ではないんですよね?』


「ええ、いまはまだ西側にいるわ」


『そうですよね……』



 繋いだリンクベルから、アイシャと七班隊長以外の団員とのやりとりが聞こえてきた。

 何やら困惑しているようだ、声に動揺が表れている。


 ルーカスはすかさず会話へ参加する。



「何かあったのか?」


『あ、団長! それが……』



 反応を返したのは、魔術師の男だった。

 彼はこう続けた。



 『突然魔狼まろうの反応が探知魔術から消えたんです』



 ——と。反射的に、アイシャへ視線を向ける。

 彼女は少し離れた場所で探知魔術を発動しており、ルーカスの視線に気付くと首を横に振った。


 反応がない、という事だろう。



『さっきまでは倒しても、断続的に出現地点と思われる地点から反応が発生していたのに、先ほど倒した一群を最後にぱったりと。てっきり団長たちが原因を排除したのかと思ったのですが……』


「それはない、北方面は手付かずだ」



 だとすればゲートが消失したかあるいは別の要因が働いたか。

 いずれにしろ、この場では判断しようがなかった。



「ひとまずこちらで確認してみよう。七班隊長、聞こえているか?」


『はい、団長』


「状況の確認が終わるまで七班と合流した五班はその場で防衛線を維持。三班を哨戒しょうかいへ、万が一に備えて警戒をおこたるな」


『承知しました』


「確認が終わり次第連絡する。それまで頼んだぞ」



 告げて、ルーカスは通信を終えた。



(休憩は終わりだな)



 ルーカスが動き出すと、既に身支度を整えたハーシェルとアーネストが目に留まった。

 いつでも出発できる姿勢を見せている。



「アイシャ、反応があった地点は覚えているか?」


「問題ありません。場所は把握はあくしていますので先導します」


「んじゃサクッと行って終わらせますか」



 ハーシェルが再度〝風纏加速・範囲化レジェ・レゼール・エクステント〟を使い、アイシャの案内ナビゲートでルーカス達は移動を開始した。






 ——そして、ルーカス達は北側をくまなく捜索するも。ゲートはおろか魔狼まろうも見つける事は出来なかった。


 出現した時と同じく唐突に。

 忽然こつぜん魔狼まろうは姿を消してしまい、事件は思いもよらぬ形で終息を迎える。


 探索を終えた頃にはすっかり陽が落ち、山は夜のとばりが下りていた。



「何だか釈然しゃくぜんとしないなぁ」


「だな。でもまた同じことが起こる可能性だって捨て切れない、だらけるなよ?」


「わかってるっての」



 ハーシェルとアーネストのやりとりを聞きながら、四人は歩いて山道を進んでいく。


 アーネストが言った様に、あれが再度出現するのではないかという懸念けねんがあるため、今夜は七班が防衛線を敷いていた地点を拠点に、団員達が交代で観測・警戒しながら一夜を過ごす事を決定した。


 合流を目指し歩みを進めるが、その足取りは重い。

 疲労もそうだが、消化不良な部分があるからだろう。



(地震に未知の現象……か)



 両者の因果関係はハッキリとしないが、恐らく無関係ではない、とルーカスは考えた。






 その後、リエゾン北の山とその周辺では、数日に渡り厳戒げんかい態勢が取られたが、未知の現象が再発する事はなかった。


 こうしてリエゾンで起きた一連の騒動〝消える魔狼まろう、リエゾン襲撃事件の謎〟と、国民に語られる事となる出来事は、大きな謎を残しつつも幕を閉じる。






 ——この事件で遭遇した、のちに〝ゲート〟と正式に命名される魔獣を生み出す未知の現象は、世界に大きな波紋をもたらしていく事となる。


 だが、ルーカス達がそれを知るのは、もっとずっと先の話だった。

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