リエゾンの坑道、最奥——。
得体のしれない〝闇〟の出現に、ルーカスは警戒を強めた。
そして、見ているだけで吐き気を
(これは……一体何だ?)
身構えて観察するが、初めて目にするそれが何なのかわからない。
アイシャに情報共有を——と思ったが、いつの間にか通信は切れてしまっていた。
ぐにゃり。
それの
次の瞬間。
漆黒の大穴から、何かが出て来た。
——それは、
外見は犬に似ているが、一般的な大型犬より体格ががっしりしており、耳が立って
鋭く吊り上がった
「……
それも一頭ではなく、二頭、三頭と続けざまに出現し、こちらを視認するなり物凄い速度で襲い掛かってきた。
ルーカスは刀を抜き、襲い来る獣を
その間にも魔狼は増え続けており、全員が武器を手に応戦した。
「シャッ、ザシュッ!」と、獣の肉を切り裂く音が、坑道内に反響する。
三、四、五……息つく間もなく増える
『大地よ、
アーネストの詠唱が響き、地属性の魔術が発動する。大地が
が、その後ろから
大口を開けてアーネストに噛みつこうとする
「油断すんなよ!」
「言われなくてもわかってる! 数が多すぎるんだよ!」
ハーシェルとアーネストは背中合わせとなって獣を相手取っている。
七班の三人も固まってそれぞれをカバーしながら戦っていた。
だが、倒しても次々と
狭く逃げ場の限られた坑道で、攻防が続いて行く——。
一体の強さはそれほどでもないが、数は増える一方。このままではキリがない。
(原因はハッキリしている。
あれさえ潰してしまえば
だが問題は「どうすればあれを消し去る事が出来るのか?」だ。
ルーカスは狂ったように襲い来る
『
「まじか……傷一つ、ついてねぇ」
「威力が足りないのかもしれない。けど……」
ハーシェルが息を飲み、アーネストが言葉を詰まらせた。
威力の高い魔術ならあるいは——と思うが、坑道の中で大規模な魔術を行使すれば、道が崩落しかねない。そのような危険な橋は渡れない。
「くそ、次から次へと!」
「団長! このままじゃまずいです!」
「どうしますか? 撤退しますか?!」
七班の団員が叫んだ。依然として
(確かに、
鉱夫が目撃して、再び自分達が目撃するまで消滅していた時間があることを考えると、自然と消える可能性は否定できない。
(だが……不確かな情報だ。自然に消滅しなかった場合どうなる?)
延々と
何より出口まで短くない距離、襲ってくる獣を相手にしながら駆け抜けるのは至難の業である。
取れる手は多くない。だが、ルーカスの持つ力ならば。
あらゆる物を消し去る〝破壊の力〟であれば、打開の可能性がある。
ルーカスは意を決し、
「撤退は打てる手を全て打ってからだ! ハーシェル! アーネスト! フォローを頼む! 七班の三人はそのまま応戦! 持ち
団員達が
先行したルーカスにハーシェル、アーネストが追従する。共に
「ったくどうなってるんだか、あれは!」
「さあね。自然現象か、魔術の類か……」
「どちらにせよ未知の現象だ。
『踊れ、舞え!
ハーシェルが魔術を放つと、無数の風の刃が
「行け、団長!」
「背中は任せて下さい!」
「頼んだ!」
ルーカスは二人が斬り開いた道を走り抜ける。刀を左に持ち替えて握る拳に力を込めて——叫ぶ。
「第一限定解除! コード『
『コード確認。第一限定、
左の腕輪が赤く輝きを放った。
ルーカスの力が解き放たれた証。鮮やかな紅色の
(狙いは一点。目標を見
「おおお!」
「ザンッ!」と、赤い斬撃が
そして——斬撃が触れた場所から、宙にゆらめくそれは
これで
「ナイス団長!」
「お見事です!」
「喜ぶのは早い。まずは残りを
原因を絶てど、周囲にはまだ数十体の
ルーカスは気を引き締めて、残りの掃討に当たった。
——そうして数分の
「……終わったか」
「ったく、何体斬ったかわっかんねぇ」
「いくら弱くても物量で押されると厄介ですね」
ルーカス達は
ルーカスが「大丈夫か?」と問えば「はい、何とか……」と力のない返答がなされた。
大事に至る怪我はないようだが、負傷は
「三人とも、傷を見せて下さい。治療します」
アーネストが三人に治癒を施す事となった。
その間、ルーカスとハーシェルは外の班との連絡を試みる。だが、リンクベルをコールしても一向に繋がらず。
「ダメっす。繋がりません」
「こちらもだ。継続して呼び掛けつつ、治療が済み次第ここを出よう」
「了解っす。外のやつらが心配っすね」
「ああ。
「外でも同じ事が起きている可能性が高い……か」
ルーカスは
(何事も起きてないといいが……)
ルーカスは不安を胸に、治療が終わるのを待った。