以降、ルーカス達は会話を繰り広げながら、
そうこう話をしているうちに、だいぶ坑道の奥へと来ており——。
ルーカスは一歩、足を運んだところで止まり。静止の合図に右手を水平に突き出した。
レールが途絶えているのが見えたのだ。
目線で仲間たちに待機するよう指示を出し、ルーカスはゆっくり一歩、また一歩、と地を踏みしめた。
もしもの時にはすぐ抜刀できるよう、刀の
十歩ほど進んだところで暗がりの奥が見え始め——。
視線の先に手付かずの鉱床、岩壁が
(どうやらここが最奥のようだ)
注意深く辺りを観察する。
壁には照明、足元は砂利と採掘の際に出ただろう鉱石の
(……外れか)
ルーカスは再度見渡してそこに何もない事を確認し、
待機した仲間の元へと戻ると、一斉に視線が集まる。
首を横に振って空振りである事を伝えれば、みな肩の力が抜けたようでガクッと脱力した。
「骨折り損っすね」
「そんな事もあるさ。異常がなかった事を喜ぼう」
「そうですね。帰りの事を考えると少々気が
「まあ、やっぱりかーって感じすけど、何も収穫なしってのは
「言っただろ、何が手掛かりに繋がるかわからない。例え成果がなくとも、地道にやるしかないさ」
団員達が
空振りであれば長居する理由はない。
(早々に引き返し、外の探索班に合流すべきだな)
だがその前に。ルーカスは仲間達にしばしの
強行軍では体が持たない。心身の休息も必要だ。
狭い空間で各々、束の間の休憩を過ごす。
ハーシェルは座り込み、壁に背をもたれ掛けたアーネストと会話を交わし、七班の三人は仲間内で談笑している。
ルーカスはこの時間を使って、各班の状況をリンクベルで確認し——ため息をついた。
(外の班も大した収穫はなし、か)
いつの間にか通信するこちらの様子を
「一体どこに消えてしまったんだろう」
「これだけ探して見つからないって事は、もうこの付近にはいないのかもしれないぞ」
「でも、何の痕跡もないのは
「だよね? 足跡が山に入ってすぐのところで途絶えていたのも疑問だよ」
消えてしまった
——彼らが言うように
そのため、異変に気付くのが遅れてしまった。
探知魔術で見つけられず、足跡もない。
次々と起こる
大群であった事は間違いないのに、これほどまでに痕跡が見つけられないのは異常だ。
(まるで——)
「まるで瞬間移動でもしたみたいだね」
三人の内の一人が、冗談交じりに肩を竦めた。
ルーカスも同じことを思ったが、常識的に考えてあり得ない。
設置型のマナ機関、
(だめだな、この線はなしだ。ありもしない事を考えても……答えには
ルーカスは思考を断ち切るように、頭を横に振った。
(さて、そろそろいいだろう)
彼らはまだ話に花を咲かせていたが、休憩の時間は
ルーカスは仲間たちに出発を告げるべく、言葉を
その時だ。
ゴゴゴゴゴゴッ
——と、地面から地鳴りのような重低音が響き、ルーカスが即座に警戒態勢を取った。
次の瞬間。
ドンッ!!
鈍い音と共に、地面が大きく揺れた。
「なんだ!!」
「地震!?」
「ゴーッ」と言う重低音と、激しい揺れがルーカス達を襲った。
壁の照明が「ガタガタガタ」と音を立てて、左右に揺さぶられている。
(揺れが大きい……!)
ルーカスは激しい揺れに立っている事ができず、
「——くっ。『母なる大地よ、我らを護る盾となれ。
展開した魔術は仲間たちの周囲を包んで、透明な膜の様な障壁を形成して行く。
とはいえ、魔術で揺れをどうにか出来る訳ではない。
ただ——落石・落盤を遮る事は可能だろう。きっとアーネストもそれを期待しての事だとルーカスは思った。
大地が震え、天井からパラパラと採石が降り注ぐ。
坑道の崩落、と言う最悪の事態が思い浮かんだが、天災を前に
そうして——。
体感時間で一分ほど過ぎた頃だろうか。実際はもっと短かったかもしれない。
段々と揺れが小さくなっていくのをルーカスは感じた。
立っていられない程の震動はなくなり、ゆっくりと
立ち上がった時には、揺れは完全に治まっていた。
「……
ルーカスは周囲を見渡し、一人一人の様子を確認した。
「生きた心地がしなかったぁ……」
「珍しく同感だ。……今回はイレギュラーの連続ですね、団長」
ハーシェルはから笑いを浮かべて身震いをしており、アーネストはずれた眼鏡を直している。
「ぼ、ぼくは大丈夫です。二人も無事です」
「……肝が冷えましたよ」
よほど驚いたのか一人は声をうわずらせ、一人は胸を
幸い大事はないようで、ルーカスはほっと胸を
アーネストの機転で怪我人も出なかったようだ。
すると、リリリン——と、ルーカスの耳のリンクベルがリングトーンを響かせた。
『団長! ご無事ですか!?』
応答すると、聞こえてきたのは焦った様子のアイシャの声だった。
「ああ、大丈夫だ。そちらは大事ないか?」
『……良かった。はい、こちらも問題ありません』
「無事で何よりだ。
「団長!!」
ハーシェルの叫び声が聞こえた。
何事か、とルーカスが視線を向ければ、いつになく真剣な面持ちで彼の武器、腰の二対の
隣に並んだアーネストも同様に、鞘へ納まる剣の
七班の団員も緊張した面持ちで武器を構えてこちらを見て——。
(違う。見ているのは、俺の
うしろは行き止まり。ただ岩壁があるだけだ。
(いや、思い出せ。俺たちが何をしにここへ来たのか……!)
ごくり。息を飲んで、ルーカスは振り返る。
『団長……?』
アイシャの声が耳元で響く。
が、振り返った先で目にした
「……なるほど。確かに〝闇〟だな」
振り返った先、そこにあったのは真っ黒な、どこまでも真っ黒な——
鉱夫がそう表現したのも納得がいった。