今回の調査にあたり、ルーカスは特務部隊の布陣を大きく四つに分けた。
ルーカス率いる一班は坑道の調査。他の三つの班は坑道を起点に三班は西、五班は東、七班は北の方面へと探索に出た。
(坑道探索のため選抜したのは、一班からハーシェル、アーネスト、俺の三名と、七班から三名。計六名の団員。少数精鋭だ)
坑道は狭く、大人数では何かあった時に機動性が落ちる。
また使える魔術も限られる。下手に派手な魔術を使おうものなら道が崩れて行き埋め——なんて事になり兼ねない。
その点を考慮しての人選だった。
(……思ったよりは広さはあるが、戦闘になった場合、やはり狭さがネックだな)
中を照らすための魔術器が壁に整備されているが、日中の外の様に一面明るくとはいかず。視覚強化に
ルーカス達は、運搬のために敷かれたトロッコのレールに沿って坑道内を進んだ。一列となって慎重に。
「ザッ、ザッ、ジャリ」と、静かな空間に砕石交じりの地面を踏みしめる音が反響する。
一本道と言っていたので迷う要素はない。前方の安全を目視で確認しながら、確実に奥へと進んでいった。
——どれくらい進んだ時だったろうか。
足音だけが響き、緊張感の漂う空間に「はあ……」と、大きなため息をつく音が聞こえた。
誰の物かわからない。「どうした?」と、ルーカスは声を掛けた。
「……
答えたのはハーシェルだ。
(確かに暗く、魔術を使っていても見通しが悪いため、平坦な道のりではないが……)
もっと
「この程度、
「ああ……違うんすよ、道がって意味じゃなくて」
ならなんだと言うのか。ルーカスは疑問符を浮かべて足を止め、ハーシェルの言葉に耳を
「……華がない……むさ苦しい……おまけに会話もない。これを
ハーシェルが大げさに両手を広げ力説した。突拍子もない発言に、その場の全員が思った事だろう。
「何言ってるんだ、こいつ」——と。
ハーシェルの言う通り、この場にいるのは全員男だ。だが、適材適所。任務において男女の是非などない。
会話がなかったのも、任務に集中している証拠。周囲に神経を尖らせているのだから、会話に割く余力などない。
(普段から不真面目な面に手を焼いてはいたが——)
「ここまで馬鹿だったとは」
「ええ、
心の中で呟いたつもりが、ルーカスの口からうっかり本音が出ていた。アーネストも追従している。
「んなッ!? アーネストはともかくだんちょーまで! お前らならわかってくれるよな? な?」
ハーシェルが七班から選抜された団員に同意を求め、歩幅を詰めた。
三人は一様に困ったような笑みを浮かべている。
真面目に付き合うこともないのだが、彼らは何か言わなければと思ったのだろう。
懸命に考えて、話題を捻り出して来た。
「ええっと……華と言えば、一班の
他の二人も「うんうん」と
——が、アイシャの名を聞いてハーシェルは眉を
「……アイシャねぇ。確かに美人だ、うん。顔だけなら。けど、あんな冷たくて凶暴な女に幻想を抱くのはやめとけ! 思い出しただけで恐ろしい……」
ハーシェルは肩を震わせ両腕を抱いた。
「冷たくて凶暴な女」と言う主張に、ルーカスは首を
アイシャは曲がった事が嫌いだ。
規律を重んじ自他共に厳しい性格をしているが、冷たくて凶暴と言うのは
(もし怒らせたのだとしたら……原因は十中八九、ハーシェルにあるな)
と、ルーカスは考えた。それはアーネストも同様だったようで。
「おまえ……アイシャさんに何したんだ?」
眼鏡越しに、鋭い眼光がハーシェルを射抜く。
かくして、ハーシェルから飛び出た答えは。
「アイシャって固いと言うか、距離があるだろ? だから仲良くなろうと思って、ちょこっと肩を抱いて——デートに誘おうとしだけなのに氷
驚くべきものだった。突っ込みどころしかない。同意なき接触は一歩間違えばセクハラである。
ルーカスはアーネストと共に頭を抱えた。
他の団員も、目を丸くしている。
「そりゃ怒るわ。おまえ自分がモテるからって勘違いしすぎだ」
「対話なくして前進はない。仲を深めようと思うなら、まずは言葉によるコミュニケーションが基本だろう」
「ええー。触れ合う事で深まる仲もあるじゃないっすか」
「だめだ、こいつやっぱり馬鹿です」
「ああ、
「ひどっ!!」
何事かと思えば、心配損である。
ルーカスはため息を吐くと「馬鹿な事言ってないで先を急ぐぞ」と、止めた足を進めた。
最後尾では納得がいかない様子のハーシェルが、一人あーでもないこーでもないと、とんでも理論を演説しているが、アーネストの突っ込みに
コントめいたやり取りを繰り広げる二人の様子に、団員達から時折、小さな笑い声がもれ聞こえた。
そこでルーカスはふと思い至る。
もしかしたらハーシェルは、緊迫する雰囲気を
適度の緊張感は大切だが、緊張しすぎてはいざという時に動けない事がある。
(仮にそうだとして、他にやりようはあっただろうに。まったく……困ったやつだな)
ルーカスはハーシェルの間抜けな