創世の時代は、
しかし世界は今も、女神の
世界の中心には変わらずに世界樹が
近代ではマナを〝マナ機関〟と呼ばれる機械に
多くの人が、恵まれた環境で何不自由なく暮らす理想郷。女神の愛したアルカディア——。
(……人は、
物事の裏に大きな
(ここは理想郷なんかじゃない。虚構の楽園だ。世界は……この平穏は、誰かの犠牲なくして成立しない。
……だから、僕は決めたんだ。
❖❖❖
薄暗い地下の空間。
部屋の中心部には球体を
僕が球体に触れると、一斉に周囲の宙へ、青白く微光する画面とパネルが浮かび上がった。
画面を視界に捉え、宙に浮かんだパネルを指で弾いて操作する。
と、文字の羅列が次々と表示されていった。じっと文字を追う。
(……今回のシミュレーションでも数値に異常はない。術式も大きな不具合はなく、安定している。
だが、一つだけ。捨て置けない懸念事項がある。
彼女——〝宝石〟の事だ。
(あの月夜にみすみす逃したのは、誤算だ)
段取りは整えていたのに、思い通りに事が運ばず唇を噛む。
それに、必要に迫られたとはいえ、自分の手で彼女を傷つけた事実が
(……生きているのは確実だ。探索は彼女と【星】に任せるしかない。今、考えるべき事は他にある)
パネルを叩く手を止めて、振り返る。
視線の先には——白銀の
「こちらの調整は最終段階をクリア、問題ない。アレの準備はどうなっている?」
「
問い掛けに、落ち着いた低い
「そ。ならいいよ」
僕は再び視線を前へ。画面に表示された文字へと目を落とす。
そこには、
『女神の愛が、この
と、古代語で書かれていた。
(……ふん。愛、ね)
バカバカしくて、鼻で笑ってしまった。
確認したい事は一通り終えた。
画面を閉じるため
「そういえば、いつもお連れのあの娘はどこに?」
と、背後から問われる。
「彼女ならお使いだよ」
「お使い……ですか」
「うん。【星】の導きに従って、宝石を取りにね。あの夜の計画は、元はと言えば彼女の発案だ。宝石を取りこぼした責は彼女にある。失態は自らの手で
手早く作業を進めて、全ての画面を閉じる。最後に取り残しがない事を確認すると、祭壇に
そうすれば手元に残っていたパネルが消失し、光源の
「手厳しいですね」
「これでも甘い方だと思うよ? 彼女じゃなければ今頃、首を飛ばしているよ」
僕は体を反転させると、手で首を斬る動作をして見せた。男は困ったように肩を
(宝石は、僕にとって唯一無二の存在)
最後まであの夜の計画を
(命があるだけ
(——本音を言えば、僕が迎えに行きたかった)
だけどそれは叶わない願いだ。
それに、来たる日に
(汚物は一掃しないとね。地位に
ここに来て奴らに気取られる訳にはいかない。
「そろそろ時間です。戻らねば怪しまれます」
「そうだね。……戻ろうか、あの地獄に」
男に頷く。地獄と
(
「お顔に出ていますよ。そんな顔をしていてはイメージが台無しです」
男が苦言を
奴らの事を考えていた自分が、どんな表情を浮かべているのかは想像に
「はっ。お前はいつも冷静だな」
「貴方様より人生経験は長いもので。仮面を被る事には慣れております」
「よく言うよ。まあ僕も見習わないと」
男も僕と同類だ。
いや、同志と言うべきか。
奴らに
男の胸の内には、消えぬ
だが、耐え忍ぶしかなかった日々はもう間もなく終わりを告げる。思いが果たされる日は近い。
(それまではせいぜい演じてやるさ。やつらが望む姿をな)
その時の
そうして僕は男を従えて、地上へと続く階段をのぼる。
(さあ仮面を被れ。公明正大で
万人を愛し、愛される
第一部 第一章
「
終幕。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
次章
第一部 第二章
「忍び寄る闇と誓い」
ルーカスは新たな謎と、記憶喪失のイリアが抱える問題に直面する。
その時、彼は何を想い、何を誓うのか——。