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※第十二.五話 腹黒王子と娯楽家

 おまけです。

 ルーカスが立ち去った後の二人の様子+ディーンの心境。



❖❖❖



 部屋に残されたゼノンとディーンは、矢継ぎ早に告げ、立ち去ったルーカスの出て行った扉を、呆然ぼうぜんと見つめていた。



「『ネタ』ねぇ。あれはどう見てもベタれだろ」


「また君はそういう事を言う。ルーカスが聞いたら怒るだろうね」



 けれど推察すいさつはからずも遠からずだろう——と、ディーンは思った。



(冷静沈着でストイックなルーカスが、仕事を放り出してまで気に掛ける相手、ねぇ)



 彼女の正体が何であれ、普段のルーカスからは想像もつかない行動で、興味がいてくる。


 ゼノンもそれは同じだったのだろう。

 思いがけず面白いネタを掴んだと言わんばかりに、ほくそ笑んでいる様がみえた。


 そんなゼノンの表情に、ディーンはケーキスタンドに並んだスイーツを頬張りながら思った。



(腹黒王子のお出ましだ)



 ——と。今後このネタをダシにどんな脅迫きょうはく……否、駆け引きをするつもりなのか。


 ルーカスが良い様に転がされる姿を想像して、哀れになった。ほんの少しだけ。



(ま、面白いからいっか)



 ディーンはルーカスの健闘を祈りつつ、また一つ、スイーツを口へ運んだ。



(それに、恋も遊びも、楽しまなきゃ損だからな)



 ルーカスが心に傷を抱えているのは知っているが、いつまでも過去に囚われず、もっと人生を謳歌おうかすべきだ、とディーンは考える。



(カレンもゼノンも、それを望んでるだろうよ)



 過ぎ去った時は戻らない。無常に過ぎ去り、未来は続いて行くのだ。


 だからこそ思う。


 真面目で不器用な幼馴染が、己の気持ちに正直に、これからの日々をもっと楽しく過ごして欲しい、と。


 ——自分のように。



(……お前もそう思うだろ? セイラン)



 今は亡き大切な人に想いを馳せて、ディーンは静かに瞼を伏せた。

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