騎士団本部は、王城のほど近くにある。
両者は渡り廊下で行き来が可能だ。
騎士団本部の外に設けられた演習場からは、白をベースとした壁に屋根は赤色の、
王城と同じ配色の、けれども形状は異なり
そうして特務部隊の執務室へと続く廊下を歩いていたところで、一人の青年に声を掛けられる。
「やあルーカス。久しぶりだね」
まず飛び込んできたのは、キラキラと
閉じられた
髪色は彼の
その両脇には、男性騎士が二名
ルーカスが臣下の礼を取ると、青年の瞳を覆っていた
その美しさから宝石の
「ゼノン殿下。ご
彼はゼノン・ティル・グランルージュ・エターク。
エターク王国第一王子、王位継承権第一位にあるこの国の
「
ゼノンが肩を
だが人の目のある場所で、皇太子の立場にある彼への礼を失する訳にはいかない。
「
「その頑固さは
「これから……ですか? 生憎と職務が立て込んでおりまして」
「気にするな。
(……横暴だ)
そうは思うが、この
ルーカスは渋々、命令に
「
「ディーンも偵察任務から帰って来ているのか。それは是非とも呼ばないと。久しぶりに幼馴染水入らずの楽しい時間を過ごせそうだ」
ゼノンが嬉々として護衛を伝令に走らせた。
偵察任務から戻った団員、幼馴染でもあるディーンの報告をいち早く聞きたかったのもあるが——。
「ゼノンの享楽にディーンも巻き込んでしまえ」と、ちょっとした
❖❖❖
ゼノンに連れられて、王城内の彼の私室へルーカスは移動した。
「勝手知ったる部屋だろう? 楽に
と、ゼノンに
部屋の広さや間取りは公爵邸よりひと回り大きい程度だが、家具や室内の装飾は金に彩られた物が多く、どれも名の知れた一流品が取り揃えられていた。
流石、王城と言わざるを得ない。
これまでも幾度となく訪れ、その頃から大きく変わらない幼馴染の部屋を見回していると、王城付きの侍女が訪れた。
侍女は上品な
そうして自身の仕事を終えると、速やかに退出した。
ルーカスは用意されたティーポットを手に取り、カップへ紅茶を
カップを持ち、唇に寄せて。ルーカスは紅茶を一口含む。
「茶葉も一流品だな」と、思いながら独特の
「……それで、聞きたい事は?」
紅茶を楽しむ姿勢のまま、ゼノンに問い掛ける。
「銀髪の歌姫」
カップを手に取り、紅茶を口に含んだゼノンの視線がルーカスへ向いた。
「彼女を拾ってから職務も手に付かない程、ご
「誰がそんな事を……。定時上がりを心掛けているだけだ。そんなんじゃない」
「叔父上と同じくワーカホリックな君が定時上がりねぇ。しかも騎士団で保護も出来たのに、有無を言わさず公爵家の客として迎え入れただろ?」
反論出来ずに押し黙る。
彼女を守らねば、との思いから気が急いて、公爵家の客として迎え保護した事は確かだ。
「冷静沈着と評価される君が、感情に流されて私的な行動を取るなんて、見事に
娯楽に飢えた噂好きの貴族にとって、この手の話題は何よりの好物だ。ある事ない事、尾ひれがついて回っているのだろう。
「で、何者なんだい?」
煌々と
彼女を保護した時、ゼノンは丁度外交のため不在にしていた。そのため機を見て話そうとルーカスは思っていたのだが——。
「その話、オレも気になるな~」
不意に、部屋の出入り口から低くて陽気な男の声がした。
視線を向ければ、声の主——日焼けした肌に
容姿は整っていると言えるだろうが、着崩した軍服や、男がお洒落と称し生やしている顎髭から
「ディーン、早かったね」
ゼノンが
ディーン・アシュリー。
彼はアシュリー
「
彼はテーブルの前に辿り着くと、まずケーキスタンドを
「で、何者なの? ルーカスを射止めた銀髪の歌姫は」
二人の視線がルーカスに突き刺さった。
どちらも
ルーカスは視線から逃れるように
元より話すつもりでいたのに、こうも面白半分に迫られると、
(俺とイリアはそんな関係じゃないんだけどな……)
彼女はかつて