朝食を終えると、ルーカス達は馬車に乗り込んだ。
馬は白馬、白塗りのキャビンには金に
一目で公爵家の馬車であるとわかるよう、扉のない方の窓側には公爵家の紋章——盾と剣と王冠、そして翼を持った白馬の
贅をこらしているのは、公爵家の威厳を知らしめるためだ。
三人を乗せた馬車は、邸宅から騎士団本部のある行政区へ向かって行く。
エターク王国首都・
都市の外壁には十の監視塔があり、外周は水を引き込んだ堀で守られている。
また首都を
都市の構造は円状に区画が大きく四つに分かれていて、行政区は王城と同じ中心地にある。
公爵邸からは距離があるため、馬車での移動が基本だ。
(そういえば、南西のホド連邦共和国では馬車に代わって自走する小型のマナ機関や、空を飛ぶマナ機関の開発に力を入れているんだったか?
近い将来実現するのでは——と期待されているな。
ルーカスはガタゴトと馬車に揺られ、通り過ぎる景色を
学生服を着た幼年部から高等部の少年・少女、白衣に身を包んだ研究者たちの行き交う姿が多く見られる。
公爵邸が
「お兄様、お父様は
シェリルに話題を振られて、窓の外から対面の姉妹達へと視線を移す。
「元気……とは言い難いな。急増する魔獣の対策会議と、もうすぐ
「
シャノンの問いに「そうだ」とルーカスは頷いた。
「それもあって例年以上に
五年に一度、
アルカディア教団は世界の中心に
(一説によると
一族は世界樹の
女神教と呼ばれる事もあるアルカディア教団は、かつてこの世界を創造したという女神を主神に据え、世界樹の守護と世界の秩序を守る事を教義・使命としている。
その理念と活動もあいまって、世界中に数多くの賛同者——信者を抱え、各国に多大な影響力のある一大国家だ。
「お父様も大変そうですね。私たちにお手伝い出来る事があればいいのですけど……難しいですね」
シェリルは暗に語っている。「まだ下士官にも満たない自分たちでは力になれない」と。
対するシャノンは何やら考え込んでおり——しばらくして、良い事を思いついたとでも言いたげに目を輝かせ、人差し指を突き立てた。
「なら、次の休暇に差し入れを持っていくのはどう? お父様の好きな食べ物とスイーツをたくさん用意して、お兄様おススメの茶葉も添えて!」
「名案ですね。きっと喜んでくれると思います。ね?」
「お兄様もそう思うでしょう?」と、同意を求める視線が送られる。
父は役職柄、仕事熱心でワーカホリック気味だ。その上、
しかし、それは表向きのイメージ。
厳しいのは確かだが、父は愛情深く、家族を大切に想っている。自分達兄妹の気持ちを
「父上の
「ふふ、そうと決まったら計画を立てなくてはいけませんね」
「ついでにお兄様にも差し入れしてあげるね! 楽しみに待ってて」
「楽しみにしてるよ」
とルーカスは微笑んで、わいわいとはしゃぐ双子の笑顔を背景に、馬車は進んだ。
国の重要施設を有する行政区。
境界線は塀で囲まれ、巡回の騎士が見守っている。いくつかある通行門では騎士による検問が必ず
通行門に差し掛かったところで、ルーカス達を乗せた馬車も検問のために止められた。
この検問は相手が王族・貴族の誰でもあろうと顔パスは出来ない。
危機管理の観点から、門を通る全ての人・物に実施されている。
警備に当たっていたのは若い青年の騎士と
「ルーカス団長お疲れ様です!」
「警備任務ご苦労様」
「
「たまには一緒に出勤も悪くないと思ってな。お陰で
「公爵家の皆様は仲が良くて
内見と身元の確認が終わったのだから「これ以上引き留めるな」と言う無言の圧だろう。
「っと、失礼しました! 検問のご協力感謝いたします。どうぞお通り下さい」
「ああ。引き続きよろしく頼む」
「は!」
二人の騎士が再度敬礼をして、扉は閉められた。公爵家の馬車は彼らに見送られながら、行政区内にある騎士団本部へ向かう。