討伐隊の隊長ハワードがルーカスへ駆け寄る。すれ違うようにしてアーネストと十班の団員が、救護を要する負傷者の元へと駆けて行った。
「救援、感謝致します」
「無事で何よりだ。損害状況は?」
「ああ、はい。それが……」
言い
自然と声がした方へ視線が動く。
声の主は亜麻色の髪をした
「あの! すみません! どなたか手を貸してくれませんか!?」
遠目にも見える。銀髪の女性が気を失い、ぐったりとしている。
「お? 倒れてるのは……
「団長、私が行ってきます」
「ちえっ。副団長、あとでどんな子だったか教えて下さいね」
「馬鹿言ってないで自分の役割を全うするんだ」
「へーい」
ロベルトは軽口を叩くハーシェルを
ルーカスはその
「……彼女は?」
「
「いや、そうではなく。
「ああ! 彼女は今回の討伐任務で森へ入った際、リシアが見つけたのです。恐らく
(森で負傷して倒れていた……?
このような林道付近の森に、女性が一人で?)
疑問が
「それにしても驚きました。
(……違う。単なる
素質と感覚が求められる
そのため実態をあまり知られていないが——ルーカスは知っていた。
これは一端の
領域魔術を一人で行使する実力だけでも常人離れしていると言うのに、繊細な技術が要求される治癒の効果までも、こうも完璧に発揮出来る者は早々いない。
銀髪。
出揃ったキーワードに心臓が脈打つ。
「ハワード曹長、このことは他言無用だ」
「え? あ、はい! 承知しました!」
ルーカスはまさかという思いを抱きながら、
先に向かったロベルトに追いつくと、彼は困ったように「リシアさん?」と呼びかけていた。
その視線の先には、考え込む
「どうした?」
ルーカスが声を掛けると、ロベルトが振り返った。
「いえ、彼女を運ぶのに手を貸そうとお話をしていたのですが……」
「困りましたね」と笑ってロベルトは肩をすくめた。
(確か名はリシアと言ったか?)
何やら
ちらり、とその腕に抱かれた銀髪の
容姿を見て、ルーカスの予想が確信に変わった。
(——間違いない。
彼女は力なく
無理もない。本来は数人掛かりで展開する領域魔術を、一人で展開するという無茶をやってのけたのだから。
(一過性のマナ
と、症状にあたりをつける。マナ欠乏症は、単純な治癒術では治せない。だが、一過性のものであれば、適切な処置を施し休息を取る事で回復が早まる。
「一刻も早く休ませねば」とルーカスは思ったが、リシアは一向にこちらへ気付かない。
(……埒が明かない)
ルーカスは強硬手段に出た。
ロベルトを追い越しリシアの側で
すると、「団長!?」と、ルーカスの行動に驚いたロベルトが声を上げ、リシアが「ひゃあ!?」と肩を跳ねさせた。
パチパチと瞼を
「ひえ!? 黒髪、
リシアはこちらを直視したかと思えば顔を赤く染め、奇声を発して飛び
動転している。まるで猛獣を前にした小動物のようだ。
「救国の英雄様が、何でここに……!」
〝救国の英雄〟とは、ルーカスが戦果に応じて
が「自分には過分な称号だな」とルーカスは内心、苦笑いした。
「驚かせてすまない。だが、早く彼女を休ませる必要があるだろう?」
彼女と触れた部分が、先ほどから燃えるように熱い。
(熱があるな……)
早く、早く安全に休める場所へ連れて行かなくては、と気が急いてしまう。
一瞬
ようやく思考が現実に戻って来たらしい。
「そうですよね、ごめんなさい! お姉さんをお願いします!」
リシアが何度も頭を下げ、謝罪の言葉を繰り返した。
あまりにも必死に謝るものだから、居た堪れない気持ちになる。
(……それにしても)
「何をそんなに考えこんでいたんだ?」
「ええっと……」
ルーカスは問いかけた。
救援を求めておきながら、こちらの存在にも気付かずに熟考する事とは一体何なのか、と。
リシアは神妙な面持ちで「その……お姉さんの怪我のことで、ちょっと」と呟いたが、結局
「人目のある場所では話しにくい事か? なら、後で使いを送る。詳しい話はその時にしよう」
まずは彼女を安全な場所へ。適切な場所で治療を、と考えてルーカスは
「ロベルト、すまないが後を任せて良いか?」
「は、はい。お任せ下さい。彼女を軍の治療院へお連れするのですね」
「……いや、
すなわち、公爵家の私的な客として迎え入れると言う事。
すれ違い様に告げた言葉に、ロベルトは
ルーカスは王家に連なる家紋、グランベル公爵家の出身である。
その
(彼女の身に何かがあったのは確かだ。だから、今はこれが最善だ)
ルーカスは腕に抱いた彼女へ視線を落とす。
先に見たように、肌が赤く、呼吸も浅い。熱のせいだろう。流れた汗で銀糸は肌に張り付いている。
こんな風に弱った姿を見るのは、初めてだった。
「……イリア」
ルーカスは力なく眠る銀髪の