魔獣の出現、そして討伐のため派遣された騎士団からの応援要請を受け、ルーカス率いる特務部隊は馬を駆り現場へと急行した。
王国軍では任務の際、リンクベルで連絡を取り合うのが常である。今回も例外ではない。
リンクベルとは、マナで動くマナ機関と呼ばれる、魔術器の一種だ。
それに遠話をするための仕組みを施したものがリンクベルだった。
遠く離れた場所とタイムラグなく連絡を取れるため軍で重宝されている。
ルーカス達は王都を出てすぐ、状況確認のために連絡を入れた。
だが依然、状況は
攻撃魔術は一定の効果が認められるが、攻撃力と機動力の高さからリソースを防御障壁に回すしかなく、仮に攻撃魔術を撃てたとしても現状の騎士団の損耗状況から勝算は低いとの事だった。
騎士団も万全の状態で挑んだはず。
だと言うのに、
(やはり、ここのところの魔獣の多さと強さは異常だ)
ルーカスは左腕に
腕を
腕輪はルーカスが持つ〝ある力〟を制御するための
(何があるかわからない。出来る備えはしておくべきだろう。だが——)
この力は無差別に
それはルーカスの過去——思い出すのも
無作為に使っていい力ではない。故に使用には厳しい制限が掛けられている。ルーカス自身も力を使う事に
(いや、迷うな。打てる手は打っておくべきだ)
危険な力であることに変わりはないが、使い方一つで戦況を覆す大きな武器になるのも事実。
この力で救えるものがあるならば、使わない理由はない。と、ルーカスは及び腰になる気持ちを奮い立たせる。
「ロベルト、上層部に第一限定解除の申請を」
「は! 念には念をですね」
ルーカスは並走するロベルト、ルーカスと酷似した髪型——
力の行使には上層部の許可と、
指示を受けたロベルトはすぐさま、彼の
程なくして。
「団長、申請通りました。行使コードは——」
通信を終えたロベルトから許可が降りた事を告げられた。
ルーカスはコードを確認して頷くと、馬に加速の指示を出して先を急ぐ。
自然と
❖❖❖
「もうすぐ報告にあった
ルーカスの掛け声で、団員達は馬の速度を徐々に落として停止、下馬した。
団員達は素早く陣形を整えると、ルーカスを筆頭に森の中へ。
魔術師であるアイシャと、魔術師隊の団員数名が索敵のため探知魔術を発動して、周囲を探りながら奥へと進んでいく。
少し進むと開けた場所に、戦闘の
木々が不自然に傷つき薙ぎ倒され、地面は
(——近い)
確信した一行は各々、
「反応、見つけました! 南東約
アイシャから発見の報告。
ルーカス達は抜剣——そして示された方向へと迷いなく駆けた。
「ドゴオオオン!」と、遠くから
続け様に二度と三度と、地を割るような音が鳴り響き、土煙が上がった。
(くそ、まだ距離がある——!)
早くあの場所へいかねば、と。
すると、
『
ルーカスの耳に、ハーシェルの詠唱する声が届いた。
〝
術が発動してルーカスの身体が淡い若草色の風に包まれる。
「団長! 先に行ってくださいっす!」
「助かる!」
強化術を受けた身体は軽く、まるで羽根の様だった。
踏み込む足に力を込め、思い切り蹴る。
——と、蹴り込んだ力が何倍にもなり、前進する力となって加速した。
黒髪を
(早く、速く、もっと
駆けろ! あの場所へ!)
目的地を見据えて、一目散に駆けた。
そうして辿り着いた道の先で、ルーカスは吹き飛ばされ、負傷した騎士達と
陣形が瓦解している。前衛を務めていたであろう騎士は地に伏し、魔熊が祭服を纏った女性へ腕を振り下ろそうとしている。
近いようで一歩が遠い。
(……っ! 間に合え!)
ルーカスが歯を食いしばり地を蹴った瞬間だった。
「なんだ——!?」
あまりの
だが、増していく光の強さに勝てず、ルーカスは
光の中から透き通るような、優しい歌声が聞こえる。
『慈愛の天使は舞い降りた
英雄は
七つの加護もつ
傷付きし者に慈愛を
迫る侵略者に盾を
大いなる癒やしと不可侵の守護の軌跡はここに
(この、歌声は——)
とても聞き覚えのある声だった。
瞼を僅かに開く。歌に合わせて舞い踊るマナが煌めいている。
吹き荒ぶ暖かな風に舞い上がる光。光は盾の形へ。変化して幾重にも
やがて放たれた光が弱まり、マナの輝きが完全に収束するとそこには——領域魔術〝
唱歌により、魔術の奇跡が具象化したのだ。