無機質な壁に挟まれて絵海は駆け続けていた。後ろを振り向いては目を見開いて心だけは更に速度を上げ続ける。果たして彼女は何から逃げているのだろう。
そこに広がる光景はあまりにも奇怪なものだった。同じ顔をした男たちが手を伸ばしながら追いかけ続ける様、それぞれ異なった仕草や足取りがどれもこれも運動不足から来ていると主張している姿。異なっていても同じ意味合いで足並みをそろえているこの光景。絵海の心に大きな傷を残すようないじめなのだろうか。
それは紛れもない阿鼻叫喚の地獄絵図だった。
――やめてくれ
絵海は急いで走り続け、距離をどうにか開いて行く。どれだけでも、出来る限り長い距離が欲しかった。
やがて目に見えた。無機質の中の赤、非常用のシャッター開閉ボタンを睨むように見つめて勢いよく押してみせた。必要以上の、無駄にしかならない力を気持ちと共に叩きつけるようにボタンへと向けていた。
シャッターは行くりと降りていく。
軍勢は未だに迫って来る。
シャッターは順調に降りていく。
軍勢は慌てた顔をしつつもベースを上げられない。
シャッターはあの醜い顔は見せられませんという勢いで顔を隠すほどの所まで降りていた。
軍勢は何もなす術がないまま駆けるのみ。
シャッターはほぼほぼ閉まっていた。
軍勢はもう、幕の外へと追放された。
やがて視界に蔓延る醜い喧騒は消え去って聴覚に醜い喧騒が蔓延り始めた。シャッターを叩く音は響くものの、それがどうしたものだというのだろう、全くもって突破できる気配さえ持ち合わせていなかった。そうした荒々しさに充ちた調を壁越しの安全圏から聞き取った絵海は安堵の想いを授かる。
それから研究室へと足を向けた。