街の中に設置された基地、大きなフェンスの壁に囲まれただだっ広い世界は街の中を生きる誰もが自分たちの為に使われているものだと信じていた。実際彼らの想像通りに働いている部分もあったのかも知れない。しかしながら鉄の扉を開いてみてはそこに広がるものはどこかの誰かが自身の欲望を満たすための研究に使っているに過ぎなかった。有刺鉄線の茨が絡められたフェンス、所々に何かしらの警報を知らせるために咲き続けているランプ。
あまりにも無機質なバラの庭には二羽の蝶すら漂うことなく、人もまたその場所に威圧を感じて近づくことすらしない。
「着いたようだ」
絵海の言葉を受けてガムテープで撒かれた少女たちは懸命に頷いていた。命が惜しい、失いたくない、そういった様子を態度に絡めて涙に滲んだ懸命な姿勢を見せていた。
「大丈夫、用済みだからって殺しはしない」
絵海の声が流れてくると共に無理やり笑顔を作って必死に塗りつけていたものの、そこに立っている人々その全てが緊張感を走らせて乾いた空気に火花を散らしていたが為にこの笑顔はただただ浮ついて色合いと化すだけだった。
鉄の扉、学校の校門などにも使われている背の低いドアをずらして事なきままに潜入を完了させる。
絵海は少女ふたりのポケットを探ってカードを取り出し片方を楓に手渡した。
「これは」
見つめながら疑問を口にする楓に向けて絵海の答えはすぐさま口で示された。
「アクセス権限証明証。データの世界だけじゃなくてこの建物のどこまで入り込むことが出来るのか、そこまで決められてるよ」
つまりは等級の証明証なのだろう。それを首にかけて絵海は進み始める。
「アクセス権限二等級、初歩実験室や資料室を漁ることが限界ね、最低でもひとりが高等級を持っていればいいから取り合えず高い等級を、星の数が多いカードを見つけたら強奪か」
公開データ、つまりはあの機械製の並行世界に忍び込むことの出来る人物、一応は生きている人物の全てがアクセス権限一等級に相当し、この建物に入ることを許可されるのは二等級以上、つまりは今の彼女らはその場所における最低等級でしかないのだという。
建物へと入る際に灰色の長袖長ズボンでしっかりと身体を覆った男たち、警備員にアクセス権を提示して常に口を開けているガラスの扉をくぐって中を探索し始める。
それは全てが灰色の壁、何ひとつ塗装を施していないのだろう。そんな味気ない施設の壁に打ち付けられた地図に目を向けて絵海は建物の資料室へと向かった。
「私は今ので全部覚えたけど、普通の人じゃまず無理。だからまずは建物自体の資料室で貸出自由のマップを手に入れる」
この行動に失敗の要素などひとつもない、そう、それと言って難しい話などひとつも転がってはいなかった。
ドアの向こうへと滑り込み、受付嬢に一礼をして地図をいただく。
「いいかな、次は休眠室へと向かう」
そこは高等級の宝庫なのだという。泊まり込みで研究する者は多数存在しているのだという。その中には夜勤の者も多いのだという。