ハトが舞う、どこまでも遠くへ、大群が空を彩る柔らかな飛行船のよう。蒼に飲まれて消えて行くまで彼らは必死に飛び回って生きるのだろう。人の目では負えないところへ行ってしまってもきっとそこで一日を生きるために命の絞り汁を一滴残さず絞っては飲み干すような生き様を続けるのだろう。
里香の意識はハトが羽ばたく音で現実を見定めていた。先ほどまでいた場所に手を振って次へと進む。彼女は駆け出した。コンクリートの地面を叩くように、聞き心地のいいリズムを刻んで鳴らし進み続ける。
――楓の所に……行かなくちゃ
想いはこれまで見てきたどの色よりもはっきりしていてこれまで触れてきたどのような物よりも固い。
里香の心の中で何度も巡って回って唱えられ、繰り返す度にそれひとつに意志を纏め上げられる。
絵海が苦しみながらも作ってくれたこの状況を手放すわけには行かなかった。そう、里香は絵海の手を借りて、自らの願いでここまで来たのだ。