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第11話 パーフェクトリーディング ――6 再会

 景色の全てがどうでもよくなり始めていた。最早関心を持つことなど叶わない。諦観が心を覆う雲となって、分厚い綿は纏わりついて来て、あまりにも心苦しくて、しかし心を支配する苦しさなど既に見て見ぬふりして苦しさの欠片も残さない。


「観念しろ、お前はもう終わり。この競技は終わったの、あなたの人生という競技は」


「どうして、もうやめようよ」


 里香の甘い心を見透かして鼻で笑う。諦観の雲はあの少女にとっては綿菓子にしか見えなかったのだろうか。少女は右手を里香に向けて伸ばしてみせた。捲れる袖の中、姿を現した右手、そこには相変わらず里香の運命を狂気で充たす凶器が握りしめられていた。


「ああ、もうやめようね、お前の敗北という形で、終焉を受け入れろ」


 向けられた刃物、包丁の放つ鋭い光はあまりにも独特で恐怖感を呼び起こすデザインというものを見事なまでに演出していた。公園というほのぼのとした場所で執り行われる殺害など何と物騒なことだろう。里香の願い、何事もなく平和に解決すること。それはどれだけ手を伸ばしても届かないものとなってしまったのだろうか。遠い空に透ける希望、それはやがてここへと参る月の影に隠れてしまったのだろうか。


 少女は駆け始めた。いつまでも眠りこけた全ての終わりを叩き起こすために大袈裟な足音を立てながら。


 向けられた包丁は当然のように里香へと迫って進み続ける。


――逃げられない、あの子より速く、走れない


 今回の件を経て自身の体型を幾度恨んで来た事だろう、幾つの重みを剥がしてしまいたいと思ったものだろう、どれだけの負の感情がこぼれては表情を汚してきたことだろう。


「終わりだよ、ぽちゃ女」


 そう繋いだ言葉を殺意の刃に絡めて里香に向けて勢いよく飛びかかろうと、殺意と行為をあの身体へとめり込ませようと包丁を振り上げようと、自分なりの裁き方でその勝手に見積もった罪を捌いてしまおうとしたその時のことだった。


「終わりはお前だ犯罪者」


 その言葉は刃物の動きを止めた。何処に居るのだろう、何者なのだろう、見回して見渡して、公園の入り口にその姿を見た。


「何者」


 枯れ声の問いはきっと楓の耳には届かなかったのだろう、敵の驚愕など彼女の耳は捉えないのだろう。

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