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第13話 天は二物も三物も与える?

 幼い頃、お父様と何度かリリアードを訪れたことがある。

 夏になると、赤紫色に染まるヒースの丘が大好きで、何度も連れて行ってとお願いをしたわ。そんなワガママを言う自分の姿を思い浮かべながら、馬車の外を眺めていると可笑しくなってきた。


 どこまでも続くようなヒースの花が咲く丘に、思い出の風景が重なる。


 そうよ。あの頃、お父様と仲が悪いなんてことはなく、ワガママも言っていたわ。お父様は困ったように笑って──幼い日を思い出そうとすると、どうしても違和感が込み上げてくる。

 記憶に間違いなんてない筈よ。

 ヒースの丘を眺めていると、こんなにも胸の内がほっと温かくなるのに。どうして私は違和感を感じているのだろう。


「ヴェルヘルミーナ様?」

「ダリア……私が幼い時、ここに連れてきてくれたのは、お父様よね?」

「はい。私もご一緒させて頂き、砦でもお仕事を見せて頂きました。とても勉強になったのを覚えています」


 懐かしそうに微笑むダリアに、そうよねと頷き返なかまら、再び窓の外へと視線を向けた。

 いつから、私はお父様にワガママを言わなくなったのだろう。お母様が生きていた頃は、お父様にお仕事へ行かないでとか、砦について行くとか言っていたわ。討伐遠征でなかなか帰ってこない日があったから、幼い私は寂しかったのね。

 私はお父様が、大好きだった──?


 やはり拭えない違和感に、私は小さく首を傾げた。


「ヴェルヘルミーナ様、リリアードの街が見えてきましたね」

「えぇ……ついに、ロックハート侯爵様とお会いするのね」


 しばらくして、リリアードの街をぐるりと囲う石壁が見えてきた。


 ここは、ロックハート領の東に位置するメートランド地方で一番栄えている地方都市リリアード。レドモンド家の領地からは、馬車で三日ほどの場所になる。魔術師第五師団の砦から近いこともあり、最初の面談には丁度いだろうと、ロックハート侯爵様が決められたのだ。


 近づいた街の堅牢な壁は、鮮やかな花で彩られていた。

 門を潜り抜け、街道を進む馬車の中から外を眺めた私は、無意識に感嘆の声を零していた。

 なんて活気に満ち溢れているのだろうか。


 通りには可愛らしいガーランドが下がり、街灯や馬車通りも色とりどりの花で飾られている。外は荒涼とした丘だったということを、一瞬で忘れてしまう程の極彩色だ。


「お祭りかしら?」

「この季節は、各地でお祭りが行われますからね」

「皆、とても素敵な笑顔だわ」

「リリアードは、ロックハート領の中心都市シェルオーブと、我らがレドモンド領を繋ぐ行路の中継地点です。宿場町としても栄えているのでしょう」

「他の領地へ繋がる行路も近いし、商人も集まる訳ね」


 地方都市にしては、道をゆく女性たちも随分とオシャレで着飾っている。貴族でなくても、オシャレを楽しむ余裕を持つことの出来る庶民が多いのだろう。

 ここを治める貴族の有能さをまざまざと見せつけられた思いだ。


「ここ一帯を治めるのが、ヴィンセント様だそうです」

「……そう。第五師団の長を務めながら、政務も熟すなんて並大抵のことではないわ。天は二物を与えず、なんて云われるけど」


 キラキラと輝くように笑う町娘たちを見て、ずんっと胸の奥が重くなった。


 私は継母の浪費癖から家を守り、なんとかレドモンド領を治めていた。このリリアードのように領民は笑って暮らしていただろうか。セドリックが治めやすい状態を築けていただろうか。

 必死すぎて、領民の様子を見ることが出来ていなかったかもしれないわ。


 紺のスカートを握りしめ、小さく息を吐くと、向かいに座っていたダリアが手をそっと重ねてきた。


「何を弱気になられているのですか。ヴェルヘルミーナ様も、天から二物どころでない才を与えられた方です」

「私が?……ダリアは、不思議なことを言うわね。私には、金勘定の才くらいしかないわ」


 思わず苦笑って継母の様な事を言った私に、ダリアは目を見開いて驚きを露にした。

 まったく、何をそんなに驚いてるのかしら。幼い頃から一緒に育ったのだから、私が魔法が使えない無能だって、ダリアも知っているのに。

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