お姉様がご成婚されたことで、ロックハート家とレドモンド家の関係は近しいものとなった。とはいえ、ロックハート侯爵様とペンロド公爵夫人の仲はあまりよろしくない。
どういうわけか、あの継母がペンロド公爵夫人に目をかけられてることもあって、ロックハート家との関係は上手く築けないのよね。
「本当に、お断りしてよろしいのですか?」
「お茶会は、お継母様が許してくださらないわ」
「ですが、これほどご執心ということは、お嬢様とご令息の縁談をお考えなのではありませんか? 確か、三男様が十六歳になられたはずです」
「まさか! いくらなんでも、それは考え過ぎよ」
「そうでしょうか? それに、ミルドレッド様のお立場を考えれば、もう少し交流を持たれた方がよろしいかと」
「……それはそうなんだけど」
珍しく一歩も引かないダリアは、厳しい眼差しを私に向けた。
「いい加減、ご自身の幸せをお考え下さい」
それは、結婚しろってことかしら。
返答に困って押し黙ると、ダリアは小さくため息をついた。
「お嬢様、ご縁談の話がいつまでも来ると思ってはいけませんよ」
「……その言葉、そっくりダリアにお返しするわ」
「私は、一生ヴェルヘルミーナ様をお守りすると誓いましたので」
「結婚しても、私に仕えることは出来るでしょ?」
「お嬢様の助けとなれる縁談であれば、応じましょう」
「そうじゃなくて!」
思わず声を荒げ、すぐに深く息を吐いた。
ダリアは本当に頑固だわ。
「結婚だけが幸せとも限らないのですよ。私は、こうしてヴェルヘルミーナ様にお仕え出来ることが一番の幸せなのです」
「……だったら、私も、セドリックがこの家に戻るまで、ここを守ることが幸せよ」
「家を守るための後ろ盾を手に入れ、かつ、良き伴侶を得られれば、最善ではありませんか?」
お茶会の誘いが綴られているだろう手紙の束を、扇子のように広げたダリアはにこりと笑った。
「……そうね。後ろ盾とするなら、伯爵家かそれ以上の爵位をお持ちの家でなければならないわね」
「子爵家では心もとないですし、男爵家はもってのほか。どこも、お嬢様をお嫁に欲しいといいますが、ここの領地を狙ってのことでしょう。となれば」
私へ届いた手紙の中から、子爵家、男爵家のものをダリアは引っ張り出して脇に置いていく。
最後、その手に残ったのは、たった一通だ。
「やはり、ロックハート家が最良でしょう」
「だから無理よ。お継母様が許さないわ」
そう告げれば、ダリアは小さく舌打ちをした。時々、ものすごくガラが悪くなるのよね。私以外には見せない姿だけど、この
「ご縁談は難しいとしても、ロックハート家とは懇意にすべきだと思います」
「でも、ロックハート家はフォスター公爵家の家門よ。あまり深入りしたら、ペンロド公爵夫人の怒りを買う可能性もあるわ」
ロックハート家から届いた手紙を見て、私は小さくため息をつく。
貴族社会というのは、どうしてこうもややこしいのだろうか。
アデルハイム王国には、王族を祖にもつ公爵家が十二ある。その中でも最も力を持っているのはフォスター家だ。
古くから王国を支えて来た由緒あるフォスター公爵家は、現国王だけでなく、他の有力貴族からの信頼も厚い。そのフォスター家に近年対抗しているのがペンロド家で、我がレドモンド家はその家門になる。確か、お父様のお祖父様の奥様がペンロド家縁のお嬢様だったとか。
古くても血の繋がりとか、やけに大切にするのよね。特に、魔術師を輩出している家門は。
レドモンド家も、古くから有能な魔術師を輩出してきた。私としては、この古い
「夫人の怒りを買ったら、やっと安定した商会との繋がりも危うくなると思うのよ」
書状の束から、今まさに頭痛の種となっているものを、私は引っ張り出してダリアに渡した。