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3-54.俺たちには味方がいる

 つむぎと別れて、遥と一緒に学校に行く。グラウンドでは体育系の部員たちが朝から熱心に鍛えているところだった。

 その中に混ざって、生徒会長がランニングをしているのを見つけた。当然のように、陸上部の文香先輩と一緒だった。


「部長おはようございます! 生徒会長も! 連休中のトレーニングの続きですか?」

「おはよう、遥。そうだよ。本格的にサキを鍛えることになったんだ」

「へー。どうしてですか?」

「は、発明おじさんを……止めるため……です。あの人……また怪物が出たら……暴れると……止めなければ……今度は怪我を……」


 息も絶え絶えな生徒会長は、使命感とキツさの間で揺れている様子だった。


「そのためにはわたしたちも頑張らないとね。あと、魔法少女の仲間の覆面男に仲間の女が出てきたっていうのも大きいよね」


 樋口のことか。その正体は明らかになってはいないとはいえ、女なのは既に多くの人が把握していること。


「サキが言ったんだよ。わたしも、ああいうかっこいい女性になりたいですわ、って」

「だ、だからって! こんなに厳しいトレーニングをしろとは言ってません!」

「ははは! これくらい必要だと思うけどな! 男より女の方が鍛えないと、戦えうまでの強さは手に入れられないから!」

「戦いたいと言ってないんです!」

「あの人みたいになりたいなら、人より頑張って鍛えないと! ほら走って!」

「ああっ! 待ってくださいフミ!」


 男女の差は別として、樋口が相当に鍛えていることは間違いない。生徒会長の本位がどこにあるのかは知らないけど、憧れを実現させるには鍛えないとな。


「悠馬。部長と生徒会長が戦えるようになったら、覆面を渡してわたしたちの手伝いをしてもらうって出来ないかな」

「どうだろうな。部長はともかく、生徒会長は不安すぎる」


 部長は俺より強いだろうから、いいんだけど。


 でも、味方が増えることは歓迎したい。彼女たちを迎え入れることも、いずれは考えるべきなのかも。

 俺たちはひとりで戦っているわけではなく、周りにいる誰かの助けを得て戦えるわけだから。



 その日は何事もなく無事に終わった。キエラは、今日もフィアイーターを暴れさせるって気にはならなかったらしい。

 そして家に、つむぎと綾瀬さんが訪問していた。


 魔法少女の戦う理由については、あらかた教え終わったらしい。他に俺たちに補足事項があるかと尋ねるためらしい。

 お昼休みとか長めの休憩時間とか、下校途中にラフィオがあらかた話してくれたそうな。

 たかだか二十分の休み時間に校庭までスポーツやりに走りに行ける小学生の時間感覚だし、その間に必要なことは全部教え終わったようだ。


 昼間、つむぎと一緒の空間にいる者として、必要ならサポートする約束もしてくれた。

 だから尋ねるべきことがあるとすれば。


「キエラの様子について教えてくれ」


 フィアイーターが出たとき、キエラは綾瀬さん……桃乃に話しかけたという。


 あの女は人間にさほど興味を持たない。ラフィオをたぶらかせた世界として、恨みさえ持っている節がある。

 ティアラのこともあるから、断言もできないけど。キエラが桃乃に、同じように仲間に引き入れるつもりがあったかもと警戒したわけだけど。


「わたしの恐怖が欲しいって言ってました」


 つむぎと同じく、年上には敬語を話せる礼儀を持っている桃乃は、その時を思い出しながら言う。


 細かな言い方は記憶違いもあるかもしれない。けどキエラは、恐怖に興味を抱いていたとのことだ。


 あいつが最も求めているもの。だから言及することに疑問はない。あの女は純粋に恐怖だけが欲しかった。少なくとも、あの日あの場の考えでは。


 ただ俺は、いくつかの懸念を抱いていた。


 キエラがティアラ以外の友人を手に入れようとしてるかもしれないって可能性。わざわざ怖がらせる相手に話しかける意味は、仲間に引き入れるためかもと俺は考えた。

 恐怖が欲しいだけなら、あいつの容姿自体は向かないのだから。


 それから奴が、今後は恐怖を与える標的を絞って攻撃してくる可能性だ。

 恐怖の質なんてものがあるのかは、俺にはわからない。あるとすれば、奴が強い恐怖を得るために個人を狙って攻撃することもあるかも。


 ある日突然、自分だけを狙って怪物が出てくる。そういう存在が現れる可能性を市民が知ってしまったら、それに対する恐れがまた広まる。


 キエラの思うつぼだな。そんな日が来ないことを、俺は祈るしかないわけだけど。


「ももちゃん! これからよろしくね!」

「うん! つむぎちゃんもがんばってね!」

「もちろん! ねえ、一緒にラフィオモフモフしよ! 学校だと鞄の中から出せなかったし!」

「おいこら! やめろ!」


 無邪気にじゃれ合う小学生たちを見ながら、俺は今後に不安を覚えた。

 でもまあ、敵がどんな攻撃を仕掛けてこようが、俺たちは負けない。そんな予感もしていた。


 こちらも確実に、味方を増やしている。それもまた事実なのだから。とりまく人々の心強さをキエラは知らない。そこに、俺たちが有利な点は間違いなくあった。

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