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3-45.トンファー仮面ショー

 ウサギ大明神の木像の視線の先にあるステージでは、既に多くの観客が集まっていた。


 仮面ヒーローの現行作、トンファー仮面ショーの他、ミラクルフォースシリーズやその他子供番組、そしてマスコットキャラクターであるウサ太くんたちと触れ合えるショーなんかもやっている。


 今はトンファー仮面ショーの待ち時間。主題歌が流れていた。

 前の方の席は熱心な子供たちで埋まっている。俺たちはそんなに興味がないこともあって、最後列の端に座った。愛奈を休ませたいだけだからな。


 やがて司会のお姉さんが出てきて、悪い怪人も出てきた。

 お姉さんや遊びに来ている子供たちを襲う素振りを少しやってから、主役のトンファー仮面が登場。ステージ狭しと暴れまわり、怪人を殴る蹴るトンファーでぶちのめすの大活躍をする。


「子供たちを泣かせる悪は俺が許さない! トンファー滅多打ち!」


 トンファーを鈍器のように持って、怪人を何度も殴打していた。最近のヒーローは結構えぐい攻撃するんだな。


 観客席から、トンファー仮面頑張れの声が響く。

 それに勢いづいたトンファー仮面は、怪人にマウントポジションをとって、ふたつの拳で敵を何度も殴る。それから立ち上がって、トンファーを何度も振り下ろす。

 着ぐるみに守られているとはいえ、中の人も大変だ。こんな迫真のアクションをやるなんて。


 子供たちはトンファー仮面の雄姿に感動しているようだった。


「わたしたちも、あれくらい頑張った方がいいのかしら」


 ふと、隣の愛奈がつぶやいた。


「そうですねー。頑張るって言い方は別として、あれくらいの攻撃は今後やるべきかもしれません」

「黒タイツ相手なら、あんなにやる前に死ぬだろうけどねー。フィアイーターならどうだろ」

「あそこまで楽勝というか、マウントとれるような状態になるのは珍しいだろ」

「確かにねー。まあ、やれる時が来たらって感じだね。ところで……うちのちびっ子たちはショー見に来てないね」

「ヒーローショーを喜ぶ歳でもないからな」


 小学生も高学年ともなれば、そういうものだ。観客席はもう少し幼い子供たちで埋められていて、つむぎたちの姿はない。

 ミラクルフォースだったら、つむぎも興味あるかもしれないけど。モッフィーだっけ。あのウサギの妖精キャラもショーに出てくるのかな。


 高校生以上で見に来てる俺たちが珍しいだけだ。しかも三人ともトンファー仮面好きなわけじゃないし。


「つむぎちゃんたち、頑張ってるかな」

「あのふたりが頑張る必要はないだろ」

「ほら。綾瀬さんのサポートとか」

「どうかな」



――――



「ウサ子ちゃん!!」

「ほら。落ち着け。着ぐるみ見つけた瞬間に駆け寄ろうとするな」

「だってー!」

「みんなを探さないといけないだろ」


 ラフィオとつむぎは他の同級生たちといつの間にかはぐれてしまっていた。

 主につむぎのせいだ。モフモフが目に入った途端、そっちに駆け出していく。そしてこの遊園地はモフモフが多すぎる。


 着ぐるみもぬいぐるみも、そこら中にあった。ウサギさんランドだもんな。


「あれには反応しないのな」


 ラフィオは園内で最も目立っているウサギを見上げる。

 ウサギ大明神と呼ばれる木像には、つむぎは一切目もくれなかった。


「モフモフじゃないもん」

「そっかー」


 ウサギの形の木には興味ないか。他の来園者はみんな、ありがたがっているけれど。

 ちょっとだけ、感性が独特なんだよな。


 そのウサギ大明神の足元に、知った顔を見つけた。

 綾瀬さんだ。周りに長谷川くんや他の小学生の姿はない。保護者も見当たらない。

 あの子もはぐれたのかな? スマホも持ってないから、誰かに連絡を取って合流することもできない様子。


 とりあえず声をかけてあげよう。ラフィオがそう考えたその時、彼女に別の誰かが声をかけているのが見えた。


 ラフィオが最も忌むべき相手、キエラだった。



――――



 長谷川くんは、こんなわたし相手にも、ちゃんとお話ししてくれる。綾瀬桃乃はその事実を、しばらく喜びと共に噛み締めていた。

 つむぎたちが、ふたりが一緒にいられるように手を回してくれているのは、ありがたかった。今日はとりあえず、長谷川くんと仲良くする時間を増やすっていう作戦も、気が楽だった。



 つむぎは良い子。あの子の彼氏のラフィオもテンションは低いけど、つむぎとちゃんと付き合えている。


 桃乃には、お似合いのカップルに見えた。そして、自分と長谷川くんが同じようにカップルになっている光景が、どうしても想像できなかった。


 わたしと彼は吊り合っていない。どうしても、そんな思いが頭をよぎる。


 長谷川くんは良い子。誰にでも親切にしてくれる。わたしにも、他の女の子にも。

 家がお金持ちで、両親に普段から構われていて、礼儀が身についている。それから、服もきれい。


 わたしは? 一緒にここに来るようお母さんにお願いするのは大変だった。話しかけるタイミングがなかった。お母さんはいつも忙しそうだから。

 服も、着古したヨレヨレのものばかり。

 そんなわたしが、長谷川くんと付き合えるのだろうか。


 つむぎたちが協力しているのに、付き合えないって終わり方になるのは、まずい。けど、そうなりそうな予感がした。

 願いが果たせないこと。友達の努力を裏切ること。それが怖くなって、桃乃は逃げてしまった。


 良くないことはわかっている。早くみんなの所に戻らないと。けど、それからどうすればいいの?


 わからなくなった桃乃の耳に。


「あなた、いい恐怖を持ってるわね」


 楽しそうな声が聞こえた。

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