つむぎとラフィオも、そのグループについていく様子。一応、使命は忘れてなかったか。つむぎとしてはラフィオとデートすること自体も楽しそうだし。
「後でまたウサギさん触りたい」
「優しくだぞ」
「えー」
ラフィオの苦労は続きそうだけどな。
「よし! 目的は達成できたし、お姉さんジェットコースター乗りましょうか」
「え? ええ。もちろんよ。けど、わたしもラフィオたちの保護者として一緒に行動しないとねー。ふたりだけで行ってきなさい」
「大丈夫です! あそこのグループのお母さんに、さっき話しはつけましたから」
「え。いつの間に」
俺も気づかなかった。
「悠馬がつむぎちゃんとラフィオがウサギさんと遊んでるのを見てる間だよー。近くにいたからね」
「マジか」
遥のコミュ力恐るべし。
車椅子の女の子に話しかけられたら、普通の大人はちゃんと対応してくれる。遥みたいな朗らかな子なら、なおさら。
そういうのをわかってて、全部やってるんだろうな。
「それに、お姉さんいいんですか? わたしと悠馬で、ふたりきりでデートすることになりますけど」
「それは嫌! ああもう! 仕方ないわね! なんとか耐え抜いて見せるわよジェットコースター!」
耐え抜くって、乗りたくない気持ちを既に隠せていなかった。
「嫌なら別に、俺と遥が降りてくるまで待っててもいいんだぞ」
「ううん。乗る。ふたりから目を離したくない。遥ちゃん、隙あらば抱きつこうとか考えてそうだし」
「ええ、まあ。考えてますね」
考えるな。
というわけで、愛奈もしっかりジェットコースターに乗り込んだところ。
「みぎゃー! あああああ! ぴぎゃー! やめて! 怖い怖い! 待って落ちないで落ちないで落ち……ぎょえー!」
「あはは! 楽しい! もっと! もっと速く! そう! そんな感じ! もっと速くできない!?」
ふたり分の叫びを聞くことになった。
愛奈がうるさいのはいいとして、なんか言ったところで速くなるはずもないジェットコースターと会話してる遥も、十分に変だった。
「し、死ぬかと思ったわ……」
降りた途端、愛奈はヨロヨロと俺にもたれかかった。それを見た遥は少し羨ましそうな表情を見せた。
「お姉さん! 次はお化け屋敷ですよ!」
「うー……わかった! 行ってやるわよ!」
「なんでそう突っ走りたがるんだよ」
「遥ちゃんに負けたくないからよ!」
勝ち負けで言うなら既に負けてると思うのだけど、愛奈は意地を張り続ける。
「お姉さん、やるな……思ったより強敵かも」
あ。遥は遥で敗北感を味わってるのか。なんでだ。
お化け屋敷。正確には恐怖の館と呼ばれる施設は、江戸時代に一家惨殺事件が起こったという館をモチーフとしている。
今なお成仏できない亡霊たちが屋敷を彷徨い歩き、訪れた者を呪い殺そうとしているらしい。
もちろん、そういう設定にすぎない。江戸時代から建っているという設定の屋敷はコンクリートが使われているし、出てくる幽霊はひとつの家族では収まらないだろという人数だ。
殺された家族が、なんで一つ目小僧とかのっぺらぼうに化けて出てくるんだという突っ込みもしたくなる。
そんな、冷静に考えれば子供だましのお化け屋敷なのだけど。
「むぎゃー! ちょ! 待って! こっち来ないで怖い怖い! なんでそんな怖い顔して化けて出てくるのよぎゃー! おとなしく地獄に落ちてなさい! あああ! 言い過ぎましたごめんなさい! 謝るからもう出てこないで! ごめんって言ってるでしょ早く地獄に落ちろ!」
作り物の幽霊相手に、めちゃくちゃ盛り上がっていた。
「なんか、ここまで楽しめるの、逆に羨ましいかも」
「そうか?」
「うん。あと、悠馬に遠慮なく抱きついてるのも」
「そうか」
「ぴぎゃー! やめて来ないで! 悠馬! 悠馬助けて! こいつらなんとかして!」
愛奈は俺に抱きついて、しまいには背中に顔を押し付けて、お化け屋敷をやり過ごそうとしてた。
けれどお化けが立てる物置ひとつに飛び上がり、結果怖いものを目にしてしまうという結果に陥り、恐怖が一切薄れないまま出口まで同じテンションで通り抜けることとなった。
この状態で、さらに遥の車椅子を押していた俺の労力を考えてほしいな。
「し、死ぬかと思ったわ……」
「死ぬはずないだろ。遊園地のお化け屋敷で」
「だってー!」
「あと、いい加減離してくれ」
「やだー!」
外に出てもまだ、愛奈は震え続けていた。そして俺に抱きついていた。
「羨ましい。愛奈さんを連れて行ったのは間違いだったかな。わたしも大げさに驚けば悠馬に抱きつけた? けどこの足じゃ……」
車椅子の上の遥が、ぶつぶつと独り言を言っている。お前までこうなるのは、本当に面倒だからやめてくれよ。
「お姉さん。次は何に乗りますか?」
「なにって」
「あれとかどうですか?」
「いや無理! いけるけど無理!」
遥が指差したのは、お化け屋敷の近くにある別の絶叫マシン。
高いところまで上がってから落ちるやつ。いわゆるフリーフォールだった。
愛奈も全否定はしないのがなあ。
「なあ遥。そろそろヒーローショーやる時間だぞ」
「ヒーローショー? 仮面シリーズとか?」
「それだ。休憩がてら見に行くか?」
「んー。そんなのを楽しむ歳じゃないんだけどなー」
「行くぞ、姉ちゃん」
「あっ! 待ってよ!」
愛奈を休ませる意味で提案したんだ。肩を抱いて助け起こしながら、俺はステージの方に向かっていく。遥も慌てて追いかけてきた。