「あー楽しかった! 次はメリーゴーラウンド乗りたい!」
「なんでまた回る系なんだ」
「あとジェットコースターも乗りたいなー。この足で乗れるか不安だけど」
「乗れるだろ。足じゃなくて、腰のあたりをバーで押さえるんだから」
「確かに! 後で乗ろうね!」
「ちょっと休憩させてくれ」
「えー? なんで?」
「お前の要望に答えたからな」
俺も適度に手を抜けばよかったけど、遥の様子を見てると力が入ってしまった。
なんで速く回してほしいのか、俺は知ってるから。疾走感が欲しいんだ。自分の足では感じられなくなった感覚。
ジェットコースターに乗るのも、それを得るため。
「うんうん。悠馬もお疲れ様。ところで、みんなはどこだろ」
「どこだろうなー」
綾瀬さんたちを見守ると言いつつ、ふたりだけの行動になってしまった。
「ウサギさんふれあいコーナーにいるかも」
「綾瀬さんはいなくても、つむぎは確実にいるよな」
俺の予想した通りだった。ついでに言えば綾瀬さんもいた。他の小学生たちも保護者たちも集まっていた。
俺たちだけコーヒーカップを楽しんでいたみたいだ。
「おー。なんかデートっぽいことしてるわねー」
「ふふん。羨ましいですかお姉さん。だったら、後で一緒にジェットコースター乗りますか?」
「ジェッ!? の、乗るの? そ、そっかー。望むところよー。わたしも乗ってしんぜよう」
「無理するな姉ちゃん。絶叫マシン苦手だろ」
「あー。苦手なんですか? じゃあ、お化け屋敷一緒に行きます」
「あー。うー……」
愛奈は幽霊も苦手だ。作り物だとしても、めちゃくちゃ怖がる。
「な、なによ! 平気よ! お化け屋敷がなによ! 行ってやるわよ!」
「じゃあ、約束ですよ!」
「え、ええ。約束……」
知らないぞ。めちゃくちゃ怖がることが容易に想像できるけど。
「ウサギさん待ってー!」
「おいこら。無理に追いかけるな」
「だってー! あのウサギさん、ラフィオに似てるし!」
「そんなことを言うな」
つむぎたちは楽しそうだった。
一般的に、動物を人に似てると言う際の意味合いではなく、本当に妖精の姿のラフィオに似てるウサギがいたらしい。
それを追いかけようとするつむぎを、ラフィオが腕を掴んで引き止めていた。
こんなコーナーにいるのだから人には慣れているはずの大人しいウサギたちが、モフリストの存在を本能で感じ取り、つむぎから逃げていく。
つむぎが追いかければ一瞬で捕獲できるだろうけど、ラフィオに阻止されている形だ。
「ウサギたちが怖がってるだろ。お前は、もう少し優しく触れることを覚えろ」
「やだ! 強くモフりたい」
「ウサギがかわいそうだろ。見てろ」
ラフィオの言うことは一応聞いてくれるらしい。腕を離されても、つむぎはすぐさまウサギを追いかけるようなことはしなかった。
そしてラフィオは一匹のウサギに近寄り、優しく抱き上げる。ラフィオの腕の中で撫でられて、ウサギは気持ち良さそうに目を細めていた。
「ほら。指先で優しく撫でてみろ」
「うー。握りしめたい」
「そんなことしたらウサギさんに嫌われるぞ?」
「それは嫌だ」
嫌だったのか。
つむぎは拳を作り、人差し指一本だけを立ててウサギに近づけていく。小動物と触れ合うにはおかしな手の形だけど、これでいいんだろうな。
「そうだ。ゆっくり、優しく触るんだぞ」
「うん……優しく……やっぱ無理!」
モフリストとしての本能には逆らえず、つむぎは手を開いてウサギの体を鷲掴みにしようとして。
「きゅー!」
「へぶっ!?」
己の身に迫る危機を察知したウサギがラフィオの腕から飛び出し、発達した後ろ足でつむぎの顔面を蹴飛ばしてから一目散に逃げ出した。
ウサギキックの直撃を受けたつむぎはと言えば。
「やったなー! 負けないからね!」
「おいこら。やめろ」
「離してラフィオ!」
ウサギを追いかけようとして、ラフィオに腕を掴まれ止められていた。そのままふれあいコーナーから遠ざけられていく。
「モフモフ好きなのも考えものだね」
「あれは、つむぎが特殊なだけなんだよな」
「うん。そうだね。ラフィオひとりに任せるのも大変そうだし、手伝ってあげますか」
遥が自分で車椅子を押して、つむぎたちの方へ向かっていった。
「つむぎちゃん。綾瀬さんの方はどんな感じかな?」
「うー。うまくやってるみたいです」
ウサギをモフり損ねた悔しさから、手を握っては開いて虚空をモフっているつむぎは、視線で友人の方を示した。
綾瀬さんと長谷川くんが、仲良く並んでウサギに餌をあげていた。
ふたりとも楽しそうだった。
「いい感じだね。これなら放っておいてもいいかも」
「そうだな。今日はこんな感じで、ふたりで一緒にいると楽しいって思ってもらうだけで十分だな」
「なんというか、青春って感じねー」
他の子供たちも、いくつかのグループにまとまりつつあった。
ずっとウサギと戯れているだけでは飽きる。それぞれ保護者に連れられて遊具へと向かっていくようだった。
あのふたりも、自然と同じグループに属している様子だ。