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3-42.ウサギ大明神

 つむぎが綾瀬さんの隣に並んで、耳に口を当ててヒソヒソと話す。小学生がやる内緒話って絵になるよな。


「わたしたちも、ふたりが一緒になるように、それとなく誘導だねー」

「そうだな。ラフィオは……」


 ラフィオは俺たちの近くにいなかった。

 さっきと同じように、女子小学生たちに囲まれていた。


 普段たったひとりの小学生を相手に苦労しているラフィオは、単純にそれが増えているという事実に辟易しているように。


「頼れそうにないね」

「楽しそうだな」

「モフモフしてこないからかな。妖精の姿に戻るよう、くすぐってもこないし」

「くすぐられて妖精になったら誤魔化すのが大変だし、つむぎも今日はそれができないもんな」


 質問攻めに遭っていることには戸惑いつつ、好意的に接してくれる上にモフってこない同年代の女の子にラフィオは少し嬉しそうでもあった。

 こいつの同年代の知り合いって、今まではつむぎかキエラの二択だったもんな。それと比べれば、かなりおとなしくて安心できる相手だ。


「ラフィオにはこのまま、女の子たちを引きつけてもらおっか」

「そうだな」


 小学生たちが今回のイベントにどれだけ恋愛的な意味合いを持っているかは知らないけど、普段モテてるという長谷川くんの代わりにラフィオがモテるのは好都合だ。

 綾瀬さんには、それだけ長谷川くんの近くにいるチャンスが増えることを意味するから。


「もー! ラフィオはわたしの彼氏なんだよ? わたしを置いてみんなと楽しく話さないで!」

「おい! 急に抱きつくな!」

「ねーラフィオ、こちょこちょしていい?」

「絶対にやめろ」


 つむぎがラフィオに抱きついて楽しそうに話しかけていた。それなりに嫉妬心とか独占欲はあるんだな。くすぐって妖精に戻すのはやめてやれよ。


 女子小学生たちは、そんなラフィオとつむぎに微笑ましいものを見るような目を向けていた。

 その隙に、綾瀬さんが男子たちの方にゆっくり歩み寄って行くのが見えた。ここからは何を話してるかは聞こえないけど、長谷川くんの隣にいる。


 なんとか勇気を出せているようだ。


「告白するよりは、単に一緒にいる方が気は楽だもんね」

「なるほどな。いきなり告るとかより、最初はこうやってら慣れていった方がいいのか」

「そういうこと。ゆっくりやればいいんだよ。そもそも小学生が付き合うとか恋愛とか、早いって意見もあるだろうし」


 ラフィオとつむぎは極端な例だ。正確には、つむぎの性格だけが極端。


「わたしたちも見守って、必要ならアドバイスする程度にしよっか。それより、わたしたちも楽しまなきゃ。せっかくの遊園地だよ?」

「あー。そうだな。……懐かしい」

「お? 家族と一緒に行ったことが?」

「ある。あと小学校の時の遠足でも行ったな」

「あー。行ったねー。定番の行き先だもんねー。あそこ、大きいウサギさんがいるんだよね」


 一行はなんとなくウサギさんランドの中心部に向かっていく。


 そこには、この遊園地のシンボルとも言える巨大なウサギが建っていた。


 高さ十三メートルほどのウサギの木像。その名もウサギ大明神。


 開園当初からここに建っている像で、当初は名前なんかなかった。けれど大きなウサギの姿は来園者の畏敬を集め、いつしか像の前にお金を備える文化が生まれ、祠と賽銭箱が置かれるようになった。

 このウサギにお参りすると、恋が成就するとか家族がいつまでも仲良くあれるとか……要するに、遊園地に訪れるような客層に都合のいいご利益があるがあるなんかの噂が自然発生した。


信仰って、こんな感じで産まれるものなんだな。なかなか興味深い話だ。

 ウサギさんランド側も、こんな風な愛され方をしている木像のあり方を受け入れ、ウサギ大明神の名を与えた。

 既にいるウサ太くんとウサ子ちゃんというマスコットキャラクターに加えて、グッズ展開なんかも始まった。


 そんな風に受け入れられてるウサギ大明神様は、今日も園内を悠然と見守っている。


 視線の先にはヒーローショーなんかをやるステージ。その向こうにはジェットコースターのレールが走っている。

 ウサギ大明神のすぐ横には、子供たちが生きたウサギと遊ぶことができるふれあいコーナー。その先にメリーゴーラウンド。

 この木像を起点に遊園地が広がっていると言っても過言ではない。


「後でわたしたちも、お参り行こっか」

「何をお願いするんだ?」

「もちろん! 綾瀬さんの恋の成就だよー」

「そうか」

「まあ、わたしの恋がうまく行くようにってお願いも少しはするかも」


 そっちがメインだろ。あと、あんまり欲張りすぎるなよ。ウサギ大明神様は神様の中でも新参。願いを叶えるにも限界がある。


「わかってるわかってる。ねえ悠馬。コーヒーカップがあるよ! 乗ろ!」

「いいけど、なんで最初にこれなんだ?」

「悠馬、全力で回して。あの頃のわたしの腕力では、そこまでの回転は出せなかった。言わばこれは、大人のコーヒーカップです!」

「親指を立てるな。わかったよ。やってやる」

「やったー! お姉さんこんにちは! 片足無いんですけど乗れますか? あと、車椅子預かってください!」


 コーヒーカップの係員の女に、ずいぶんなはしゃぎようで声をかける遥。

 楽しんでる様子がかわいらしく、俺は少し目を奪われてしまった。



「わー! 速い速い! 悠馬! もっと速く!」

「これ以上やると目が回るぞ」

「大丈夫! わたし強いから! 魔法少女だから!」

「変身してない時は単なる女子高生だろ」

「あはは!」


 本気で笑っている遥に付き合って、コーヒーカップを全力で回す。

 それなりの重労働だった。

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