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3-38.恋ってどうすれば実るんだ?

「きょうだいが多いって言ってました。だから、ご両親もお金を稼がないといけないから忙しくて、あんまり構ってもらえないそうです。着ている服も、お姉ちゃんのお下がりばっかりらしいです」

「なるほど」

「ひとりっ子でも、構ってもらえるとは限らないんだけどね」

「そうだな」


 休みの日だって言うのに、つむぎの両親は全く帰ってこない。


 子供たちを養うために必死で頑張っている綾瀬夫妻とは、また違う寂しさをつむぎは感じているのだろう。


「ちょっと、ももちゃんが羨ましいんです。明日のウサギさんランド、ももちゃんのお母さんも引率で来るそうなんです。お願いしたら、いいよって言ってくれた。ももちゃん嬉しそうでした」


 なんだかんだで親の愛を受け入れられてる綾瀬さんは、つむぎには羨ましかったのかな。

 それが、望んで着てきたわけでもないスカートをきっかけに綾瀬さんから文句を言われれば、腹も立つよな。


 綾瀬さんだって、ファッションに興味がない奴が突然おしゃれして周りから注目と称賛を集めれば、嫌味にしか見えないだろう。

 けど、それぞれに事情がありつつ、基本的には相手を尊重しているのも理解できた。

 すぐに仲直りできたのも、その証だ。


 綾瀬さんだって基本的には親が不在なのを寂しがっていて、そこにつむぎと共通する所がある。

 そこから友達になれたのだろう。相手の気持ちがわかるというか。


「仲がいいんだな」

「そうですか? 普通ですけど」

「その普通が出来ない奴も、世の中には多いからな」

「そういうものですか」

「ちなみに、長谷川くんの情報はあるのか?」

「モテます。彼女はいません。家はお金持ちです。ペットは飼ってないらしいです」

「そっか」


 つむぎが、長谷川くんにあまり興味がないことがわかった。

 ペット云々はつまり、家にモフモフがいるかどうかが重要ってこと。


「それで悠馬さん、作戦はどんな感じがいいでしょう」


 この時間から綾瀬さん宅に電話するのも迷惑になるな。

 綾瀬さんが己の恋を成就させるために、自分なりに考えを巡らせているのだとしたら、それを支えるだけでいい。その上で、今のうちに俺たちで提案できることを考えて、明日彼女に伝えるくらいはしてもいいはず。

 ところが、俺には恋のキューピットなんて役は似合わない。なんとなく理解していたけど、この数分で確信した。


 いざ考えてみてもなにも思い浮かばなかった。


「恋って、どうすれば実るんだ?」


 俺にはその時点でわからなかった。


「でも悠馬さん、遥さんと付き合ってますよね?」

「付き合って……るのか? あいつが一方的に言ってるだけだよ。周りに」

「でも、強く拒否はしてませんよね悠馬さん」

「まあ」

「遥さんのことが好きだからじゃないですか?」

「いや、それは違う……のか?」


 否定するのも面倒というか、遥と学校でも一緒にいるには、その方が都合がいいとかで周りに否定することなく今まで続けていた。

 遥のことは友人としては大切だし、魔法少女として戦ってくれるのには尊敬している。けれどひとりの女として愛しているかと言われると、わからない。


 わからないけど、拒絶してないなら悪く思ってはないのかな。

 自分の気持ちのことなのに、全然わからなかった。


「そ、そんなに悩むことでしたか?」


 予想外に俺が黙り込んでしまったから、つむぎの方が困惑した様子を見せた。


「うん。マジで答えが出なかった」

「そうですかー。難しい人もいるんですね。わたしはラフィオのこと、堂々と好きって言えますよ!」

「それは素直に尊敬できる」


 何の嫌味もなくだ。好かれてるラフィオからすれば、たまったものじゃないよな。

 けどとにかく、つむぎは恋愛に関しては俺の先輩なんだよな。


「遥さんも、堂々と悠馬さんのこと好きって言ってますよね」

「そうだな」


 遥も先輩だ。しかも、つむぎより比較的話がわかる。あくまで比較的だけど。

 恋愛のなんたるか、そして綾瀬さんの恋がどうすれば成就するかを考えるのは、遥に意見を聞くのが一番な気がしてきた。


 というわけで。


「突然ごめん。遥、なんで俺のこと好きになった?」

『んえぇっ!?』


 電話の向こうで遥の、悲鳴にも似た叫びが聞こえた。


「そういう行動の早さ、悠馬さんのいい所ですよね。悪い所でもありますけど」

「うるさい」


 つむぎが呆れたような声を出すのを、俺は冷たい声でたしなめた。


 遥から直接、人が恋に落ちるのはどういう時かを訊くのが一番だと考えた。そこから得た知見を綾瀬さんに応用すればうまくいく。

 いや、わかってるぞ。遥が俺のことを好いていることも、俺がそれにそこまで大きな反応をしていない現状を気にしていることも。遥はあんな性格だから、俺の態度についてあんまり深刻な反応を見せてないことも。

 好きだって言ってくれてる相手には、はっきりと反応を口にするべきだ。わかってるとも。けど、俺はそれをしてない。するべきだと知っておきながら。


 仕方ないだろ。遥が突然、しかも一方的にあんなこと言ったんだから。周りに既成事実を作り上げたんだから。否定も肯定もするタイミングを逃してしまった。

 あと、遥の方も俺に正式に告白してるわけじゃないし。なんとなく、こんな関係になってしまっただけだ。

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