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3-36.駄目な酔っ払いが増えた

「一応、映像のチェックする? 問題ないと思うし、ありそうな所はカットするから心配はいらないと思うけど」


 澁谷に言われてモニターを見ると、俺とラフィオは市民を守る頼れるヒーロー然とした映りになっていた。

 これをさらに編集すれば、視聴者に訴えかける映像になるわけだ。


「わはー! ラフィオ!! モフモフさせて!」

「おいこら! やめろ! こんなところでやるな!」


 会議室の隅で激しい攻防が繰り広げられているのを横目に、俺は映像に問題がないことを確認した。

 遥も興味津々なようで。


「すごいですねカメラマンさんって。わたしのことも格好良く撮れますか?」

「ええ。うちのスタッフは優秀よ。テレビに出たい?」

「まあ、ちょっと憧れますよね。出るとしても魔法少女関係なしになると思いますけど」

「遥ちゃん可愛いし、前にも言った通り車椅子の女の子の日常とか、挑戦なんかの番組は簡単に作れるわ」

「そうなんですか?」

「ええ。障害を持つ若い女の子は視聴率が撮れる……ごめんね。お金儲けのためじゃないのよ。そういうドキュメンタリーなんかを作れば、全国の障害者に勇気を与えられるの。そのための予算が下りやすいのよ」

「なるほど。勇気……ねえ悠馬。わたしって誰かに勇気を与えられたりできるのかな?」

「できるんじゃないか? 片足無くして車椅子生活を送ってるのに、こんな元気な女はあんまりいない」

「えへへ。褒められちゃったなー」


 まんざらでもなさそうな様子。本当にテレビの取材を受けるかどうかは別として、な。


「前向きに考えさせていただきます。連絡は、わたしの携帯に」

「はい。よろしくお願いします。わたしもディレクターと相談してみますので」


 俺とは関係ない仕事の話が進んでいくのを、なんとなく見ていた。

 いや、関係なくはないのか? 前に喫茶店で澁谷と同じ話をしてた時は、俺も遥の友人役で出るみたいなことになってたし。


 どうするべきかな。


 大して深刻に考えていたわけじゃないけど、ふとスマホが震えたから意識はそっちに行った。


『うえーい。悠馬聞こえてるー? わたし今、めっちゃ酔ってます!』

『悠馬くーん! 先輩ってばすごいよ! 一升瓶一瞬で開けちゃった!』

『ふたりとも飲みすぎよ。もっと節度を持ひなはい!』


 樋口も呂律が回ってない。三人揃って酔ってるな。


「遥。市川の屋敷に戻るぞ。あいつら、放っておくと一晩中飲み続ける」

「だねー。明日はウサギさんランド行くもんね」

「そうだな。ラフィオとつむぎの保護者としてな」


 ラフィオが俺の家に預けられてる外国の子供という設定である以上は、保護者然とした振る舞いをしてほしいもの。

 そうじゃなくても、子供たちが集まるイベントだ。酔っ払いを子供の前に出すのはよくない。教育上の問題というやつだ。


「大変そうね。タクシー用意しよっか? 車椅子も載せられるワゴン型の大きいやつ、手配できるけど」

「いや、いい。自分で連れて帰る」

「ここはお言葉に甘えようよ悠馬。せっかくこう言ってるんだから。それに酔っ払いを電車に乗せて連れて帰るの大変だよ?」

「ああもう」


 酔った愛奈を電車に乗せて、周りに迷惑をかけるのも考えものだ。ここはお言葉に甘えさせてもらおう。

 車椅子用のタクシーっていうのも気になるし。



「すごいな。本当にあるんだ。ワゴン車のタクシー」

「タクシー会社にお願いすれば、これで来てくれることはよくあるよ。運転手さんも、普段は普通の大きさの車を使ってるんだけどね」


 なるほど。普段は見かけないと思ったら、そういうことか。そして遥はさすが詳しい。


 後部スペースに車椅子を乗せて、遥は普通に座席に座る。そんな感じで市川邸まで送り届けてもらった。




「ういー。悠馬だー! なになにー? 悠馬も飲みに来たのー?」

「おいこら。未成年に酒を勧めるな。しかも公安がいる前で」


 ガレージの中で、女が三人酔いつぶれていた。まだそんなに遅い時間でもないのに。

 空の一升瓶が何本も転がっている。本当に、三人でこれだけ開けたのか。揃いも揃って酒豪だ。


「気にしないでー。魔法少女なのを見逃してるのよ。未成年の飲酒くらい大したことじゃないわよー」

「おい。それは大したことって言えよ。お前一応警官だろ」

「公安と警官は違うのよねー」


 樋口は壁に背中をもたれかけさせながらケラケラと笑って言う。まったくこいつは。


「えへへー。ねえ悠馬くん。お酒注いで?」

「また今度な」


 フラフラと俺に歩み寄りながら麻美が抱きついてきた。いや、なんで俺の周りの女は酔うと抱きつくんだ。

 この人を少しはまともと思ってたけど、訂正しなきゃいけない。酒が入ると理性がぶっ飛ぶ。


「悠馬くん格好いいー。会社のおじさんたちとは大違いだし。ねえ、これからも家に来てね?」

「はいはい。来るから。でも今日は帰るからな」

「じゃあねー。先輩も、会社で会いましょー」

「うぇーい! 会社は嫌いだけど麻美は好きだぜー」

「うぇーい!」


 どんな会話だよ。


 その後、ぐでんぐてんの愛奈をなんとかタクシーまで運び、苦笑するタクシーの運転手に見守られながらなんとか家に帰った。

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