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3-35.テレビもふもふの社屋

 ウサギさんランドに行くのは愛奈も同じだけど、まあいいか。今はまだ昼過ぎくらいの時間帯だ。今から飲んでもそんなに遅い時間にはならない。帰ってくるだろう。


 酒という言葉を聞いた途端にテンションが高くなった麻美や、その他の大人たちが心配でもあるけど。

 帰ってこなかったら、明日改めて起こしに行くとしよう。フライパンとお玉を持ってな。


「あんまり飲みすぎないようにな」

「あーうー。悠馬たちと一緒にいたい……けど酒も飲みたい」


 酒の方が、愛奈にとっては優先らしかった。


 帰りの電車で澁谷に連絡を取ると、彼女はすぐに対応してくれた。

 テレビもふもふに遊びに来ないかと言われる。俺の覆面が変わったり武器を携行することへの注意事項を収録したとしても、今からならあまり遅い時間にはならない。


 テレビ局って少し興味あるし。俺だけではなく、遥たちも同じだった。


 というわけで電車を乗り換えて市街地へ。地方局であるテレビもふもふ本社も都市部の中心部にある。夕方の情報番組なんかで話題のお店を紹介する時にも便利な立地だ。


「いらっしゃい。愛奈さんは?」

「大人たちと飲んでる」

「この時間から!?」


 テレビ局の玄関前で俺たちを出迎えた澁谷は腕時計を見て驚いた。

 そうだよな。可能ならこの時間から酒を飲むものなんだよ、愛奈は。あとその後輩と公安は。


「そっかー。武器を作ってくれる人も大人なのね。わたしも一緒にお酒飲みたいな」


 お前もか。


「お酒を飲んで腹を割って話さないと、わからないこともあるのよ。特に新しい協力者とはね」

「そう言いながら、本当は酒飲みたいだけだろ?」

「わかっちゃったかー」


 これだから大人ってやつは。


「へー。これがテレビ局。澁谷さん、芸能人とすれ違ったりとか期待していいんですか?」

「残念だけど、今日は難しいわね。芸能人がいるのは、もっと奥の方。一般の来訪者が入れないような監視体制が敷いてあるの」

「へー。さすが芸能人」


 遥が少し残念そうに言う。期待してたのか。


「ちなみに今後、わたしたちが魔法少女としてテレビに出るみたいなことは」

「やめておけ。魔法少女を私利私欲のために使うな」

「はーい」

「上層部の方は、実際に出演してほしいって声はあるみたいよ。現場がなんとか止めてる状態」

「マジかよ」


 澁谷がこともなげに言ったものだから、驚いてしまった。


「視聴率が取れるのは間違いないからね。うちの上層部だけじゃなくて、キー局の幹部も同じ考えみたい」

「おー。わたしたちゴールデン進出だって。どんな出演かは知らないけど。バラエティのゲストとか?」


 遥にとっては夢が広がる話らしい。憧れるものなのかな、テレビって。


「わたし動物のテレビに出たい! なんか格好いいアイドルが牧場に行ったりするやつ!」

「お前は動物をモフモフしたいだけだろ?」

「うん!」

「少しは欲望を隠せよ」

「つむぎちゃんが動物好きって知ったら、幹部たちはすぐに希望に沿う番組を企画するでしょうね。小学生の女の子と動物って、絵になるから。視聴率を取れる定番よ」

「なるほど」


 自分たちが電波に乗っても視聴率は取れなさそうな老人たちが、どうすれば視聴率を稼げるかを考えている。その結果が普段見ているテレビだ。

 商売とはそういうものだし、悪いこととは言わない。魔法少女も俺も、その恩恵に預かっている。


 けど、テレビに出たいとも思わないんだよな。


「ねえラフィオ、一緒にテレビに出ない?」

「面倒だ。遠慮しておく」

「そっかー。じゃあわたしも、しばらくはいいかなー」


 好きな男の子と一緒にいるのが最優先っていう、つむぎの考え方はわかりやすいな。



 俺たちが通されたのはスタジオでもなんでもない、ただの会議室。

 急遽用意してくれたのだから、これでもありがたい。俺は早速覆面を被る。ラフィオが隣で巨大化した。

 ラフィオか魔法少女が一緒に映ることで、俺が覆面を被っただけの不審者じゃないって証明になる。


「じゃあ撮るわよ。とりあえず悠馬くん、自由に話して。多少拙い喋り方でも、編集でどうにもなるから」


 編集か。マスコミの欺瞞の代名詞みたいに言われることも多い言葉だけど、今はそれに助けられる。

 澁谷と同じく、顔を知っているカメラマンが担ぐカメラの前で、あらかじめ考えていた言葉で説明をした。覆面の変更と武器の使用。一般市民には迷惑をかけないという誓い。

 この声明が電波に乗ることは理解しつつ、今自分に向いている目は知った顔のものだけ。


 緊張することなく話はしているのだけど。


「悠馬ー。もっと笑顔で。親しみやすさがないと視聴率に響かないよー」


 車椅子に座った遥が声をかける。音声さんが俺にマイクを向けているから、遥の声は拾われない。それをいいことに好きなこと言いやがって。

 覆面を被ってナイフで黒タイツを刺し殺す奴に、笑顔とか親しみやすさとかいらないだろ。むしろ、そんな態度を取ったほうが警戒されるわ。てか覆面だから笑顔とか関係ない。


「うへへ。ラフィオ、モフモフさせて。早く終わらないかな……」


 つむぎも、大きくなっているラフィオに狙いを定めて、体を疼かせていた。広げた手が空をモフっている。

 俺の隣のラフィオが落ち着かない様子だ。これはカメラ映りが悪くなるやつだ。


 そんな俺たちでも、なんとか綺麗に撮ってしまうのがプロのカメラマンなわけで。


「カット。よくできました。今日の夜のニュースは間に合わないけど、明日の夕方の情報番組には間に合わせるわ」

「そんなに早く放送できるのか」

「うちの局製作番組だから、そこの融通は利くの」


 なるほど。

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