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3-34.麻美のノリがわかってきた

「あなたも、そんなに数は用意できてないでしょ? 少なくとも、まだ。とりあえず車椅子にひとつつけて、後は数が揃ったら、わたしが悠馬たちの家に持っていくわ。車でね」


 車なら警察の職務質問に遭遇する危険は少ないし、万一見つかっても公安なら罪に問われない。


「悠馬。絶対に、覆面なしで武器を携行しているところを誰かに見られないでね。覆面男が武器を持って怪物と戦うこと自体は、世間は受け入れるかもしれない。けど便乗する輩が出てくるかも」

「便乗? というと?」

「それっぽい覆面を買って武装する悪い奴よ。それで強盗なんかをする」


 そんな人間が現れないとは、どうしても言い切れなかった。世の中にはとんでもない悪人がいる。


「怪物を殺すためだけに武器を使うから、世間もそれを許すのよ。普段持ち歩いているのを見つかるのはまずい。……警察も職務質問の強化を測るはずよ。あなたではなく、覆面男を騙る悪人を見つけるために」


 ナイフと覆面を持ち歩いている超危険人物がそれを見咎められた時、俺は覆面男だ街を守っている敬意を払えと言い逃れしようとする光景が目に浮かぶ。

 自分を覆面男と言い張る男が、怪物が暴れている緊急時に近くの店や家に強盗に入り、協力しろって名目で金品を持って行くなんて事件もありえるかも。

 頭が痛い話だけど、そういう悪人の登場は想定して然るべきだ。


 それを許さないために、警察は仮に本物の覆面男でも捕まえにかかるというわけか。


「わかったよ。澁谷の取材を受けて、ナイフは普段から持ち歩いてるわけじゃないって声明を出す。あと、怪物退治以外には武器を使わないって宣言する。怪物が出てない時に強盗まがいのことはしないし、怪物が暴れている時も戦いだけに集中して、誰かから物をもらうようなことはしない」

「ええ。それがいいわ」

「ねえ悠馬。もしさ、ホームセンターで戦ってて、武器としてスコップが合ったほうが良さそうだから少し離れた場所に取りに行く、とかは許されるの?」

「後でちゃんと返す」


 そんな想定もあるよな。怪物を倒すための武器だから、ギリギリセーフかな?


「さっきのコンビニみたいに、お酒を持っていくのは」

「絶対にやらないかなら、姉ちゃん。そういうこともしないって、ちゃんと取材で言う」

「うへー」


 覆面男関係なく犯罪だ。


「なんか、魔法少女やるのも面倒なんですね。縛りがあって」

「公安と協力するというのは、こういうことよ。魔法少女たちが治安を乱さないって条件で見逃してあげてるんだから」

「そうなんですか。ちなみに乱したら?」

「個人がその身に過ぎる武力を持ってるわけだから、テロ組織扱いよ。即座に身柄を拘束する」

「ひえー。公安って怖い」

「麻美わかった? 樋口さんすごく怖いから怒らせないようにね。怒ったら走らせてくるのよ」

「いや、それは怒らなくても走れよ。鍛えろよ」

「わかりました先輩! 樋口さんを怒らせたりしません!」

「あなた、他人事みたいな顔してるけど、悠馬用のナイフ以外の武器は早く処分するのよ。立派な凶気なんだから。下手するとテロ等準備罪に問われるわよ」

「かしこまりました!」


 樋口に向かって、麻美はびしっと敬礼をした。

 なんか態度が軽いんだよな。変にシリアスになられても困るんだけど。


「えへへ。ところで悠馬くん、ナイフの耐久性は今後の課題として、使い心地はどうだった?」

「え? ナイフで戦うなんて初めてだから正直よくわからないけど……戦いにくくはなかった。切れ味はいいと思う」

「わかった! なにか改良点が見つかったら遠慮なく言ってね! 耐久性を上げるために今後も改良はしていくし、切れ味と両立できるように頑張るから!」

「公安の前よ。程々にしなさい。頑張ってくれるのは嬉しいけど、わたし以外の警察の前で、そのテンションは出さないで」

「はい!」


 個人が武器を大量生産してしかも殺傷力を高めるだなんて、公安の前で堂々と宣言するのも考えものだ。

 麻美は全く反省してないようだけど。公安にこんな態度でいられる人間も珍しい。


「ところで麻美、お酒は飲める派?」


 愛奈が、麻美に後ろから肩に手を置きつつ気軽に尋ねた。


「え? それはまあ、飲みますけど。それなりにお酒はいけますけど」

「やったー! そうよね! 酒飲み友達が増えました!」

「わかりました! 飲みましょう! 大丈夫です、多少飲んでも良い潰れませんから!」

「ねえ。確認だけど、酒飲み友達の中にわたしは入ってはないわよね?」

「何言ってるんですか樋口さん。もちろん友達に決まってるじゃないですか。この前、一緒にバーベキューしたでしょ?」

「えー? 樋口さんも飲める感じですか? そうなんですか今度一緒に飲みに行きましょう!」

「したけど……したのは間違いないけど。なんでこいつの周りには酒飲みしか集まらないのよ」


 俺含めて、酒飲み以外の方が多い……というツッコミは無意味らしかった。俺から見ても、樋口は酒を飲むのが好きなタイプの人間だし。お堅い公務員の中でも一番厳格でないといけない職務の人間なのに、割と軽いんだよな。


「先輩! そうと決まればお酒買いに行きましょう! わたしたちの初勝利記念です!」

「おー! わかってるじゃない麻美! ほら樋口さんも。かわいい後輩のために買い出しに行くわよ!」

「なんでこうなるのよ」

「姉ちゃん。俺たちは帰ってるからな」

「澁谷さんに取材の申し込みしたいしねー」

「僕たちは家でご飯食べるから、大人たちは自分でなんとかしてくれ」

「わたしもラフィオと一緒に帰るね。明日はももちゃんと、ウサギさんランドに行かなきゃだから」

「ああっ! 待って! みんな帰らないで一緒にいて!」


 愛奈を放っておいて、俺たち未成年組四人は市川邸を辞す。明日も予定があるわけだし。

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