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3-31.再びダイナミック入店

「覆面男の装備が変わったこと、澁谷に話して広報してもらわないとね」

「そうだな。そのためのマスコミだもんな」

「あの黒タイツ、わたしが倒すわ。あなたはとどめを刺して」


 襲いかかってきた新しい黒タイツへ、樋口は冷静に対処した。棚が倒れて商品が散乱している床の、安全な箇所をすぐに見つけて殴りかかってくる黒タイツの攻撃を回避。

 さらにそいつの腕を掴んでひねりあげながら、俺の方へ投げ飛ばした。仰向けに倒れているそいつの喉を正面から刺す。

 三度目ともなれば、早くも慣れてきた。感触に関してはあまり考えないようにしながら、素早くナイフを抜く。


「悠馬危ない!」


 次の敵はどこだと周りを見回したのと同じタイミングでセイバーの声が聞こえた。そちらを見ると、フィアイーターが二回目のダイナミック入店を試みていた。

 律儀に、既に破壊されている自動ドアの方に突っ込んでいくのはなんの意味があるのか。わからないけど、とにかく俺と樋口は慌てて退避。


 ボンネットにいくつも矢が刺さっているフィアイーターが、今度は入り口を完全にぶち破って店内に侵入。レジのカウンターに激突して止まった。


「悠馬! なんとかしてそいつの動きを止めて!」


 結局、魔法少女たちでは動きを封じることはできなかったらしい。魔法少女にできないなら、生身の人間である俺にできるはずがない。

 けど、フィアイーターがカウンターに激突して一瞬だけ動きを止めている今がチャンスなのも事実で。


「ああもう! やってやる!」


 フィアイーターへと駆けていく。奴はすぐにバックをしようと試みているし、俺を見て両腕を振り回して近づけないようにした。


 あの腕力に当たるのはまずい。俺身を屈めながら接近してフィアイーターの足元に滑り込み、回転を始めていた前輪にナイフをぶっ刺す。

 回転部に手を出してはいけない。工場なんかの現場では鉄則だ。それを今、堂々と破っていることになる。


 もちろん、手を持っていかれる前にすぐに引っ込めた。一方でナイフは持っていかれて、タイヤに深く刺さらないながらもそのまま床に激突。跳ね返ってタイヤに刺さる。


 今度こそ刺さった。


「悠馬さん避けて!」

「うおっ!?」


 ハンターの声が聞こえた。コンビニの屋根から飛び降りながら矢を射る。しかも頭から落ちている。その方が低い位置にあるフィアイーターの後輪を狙いやすいとかで。

 短い間隔でふたつの後輪を射抜き、そのまま下で待機していたラフィオに着地。頭からだけど、モフモフの体表に受け止められてダメージはないらしい。


「わはー! ラフィオありがとう!」

「感謝するならモフモフやめてくれないかな。まだ戦闘中だ」

「えへへ。後でモフモフさせてね!」


 ラフィオが返事をする前に、ハンターはあと数発矢を射掛ける。フィアイーターはすぐさまバックして状況を脱しようとしているけど、その動きは直線的にならざるをえない。

 車は横には移動できないし、バックしながら曲がれば自分が突っ込んできた穴から逸れるからコンビニの中に閉じ込められることになる。


 後輪ふたつと前輪ひとつに、矢とナイフが刺さってそこからパンクした状態。空気が抜けていって、走れなくはなっていないけど速度は出ない。空気の抜けたゴムが地面に当たって耳障りな音を立て、ホイールが傷ついていく。


「ライナー!」

「わかってる!」


 ライナーが走りながら店内に入り、フィアイーターの後部を足裏で思いっきり蹴った。これでバックが一時止まる。そこにハンターが矢を射てタイヤをさらに傷つける。

 俺もまた、床に落ちていた日本酒の一升瓶を掴むと、フィアイーターに駆け寄って振り下ろす。


 奴の腕に阻害されて、途中で瓶は割れた。辺りに酒が舞い散る。鈍器としての威力は減ったけど、代わりに割れたガラスの断面がボンネットに刺さる。

 なんとかフィアイーターに傷を作って、タイヤの傷の修復を遅めないと。もちろん、こいつ自身も殺す必要があって。


「姉ちゃん!」

「ええ! わかってるわよ!」


 セイバーも店内に入り、側面に回ってフィアイーターに斬りかかる。

 こいつは車だから、窓から中身が見える。いつものような暗闇ではなくて、座席やハンドルの存在が確認できた。


 そこにコアは見つからない。セイバーは座席の扉に斬りつけて傷を作り、そこをこじ開けようとした。座席の下にコアがあると見ているのか。

 けど、フィアイーターは両手を振り回して抵抗する。


「ああもう! 邪魔!」


 一歩引いてから剣を振る。セイバーに振り下ろされるような軌道を描いていた片腕は、途中から剣にすっぱりと切断されて宙を舞った。


「よし! やっぱり剣で切り裂くのは気持ちいいわね!」

「なんか、サイコパスみたいな言い方だな」

「うるさいわよ!」


 セイバーは再度扉に斬りつけて今度こそ傷をつける。そこに手を突っ込んで強引にこじ開けた。


「んー。どこにコアがあるかわかんないわねー。とりあえず適当に斬りつけてみますか」

「早くしてください! 押さえつけるの大変なんですから!」


 ライナーはフィアイーターを何度も蹴って、バックで店から脱出するのを阻止していた。さすが光り輝く足から繰り出される蹴りは威力があって、車のトランクが変形し始めている。

 けど、何度もやれば体力が尽きる。店内の照明は明るくて光の補充はできてるけど、蹴りの威力を強めていけば消費の方が大きくなる。車の質量と馬力に抗うなら、どうしても力が入る。

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