「ちょっとセイバー! 遊ばないでください!」
「遊んでないわよ! 車のくせにバックするとか卑怯よ!」
「車はバックするものなんです! セイバーだって車運転するじゃないですか!」
「わたしは前しか見ません!」
「危ないので運転やめてください」
「むーりー! 運転しないと仕事にならないからねー」
セイバーとライナーが仲良く喧嘩しながら、フィアイーターの突進を回避し続けている。まともにぶつかれば魔法少女といえども無事では済まない。割と耐えられるだろうけど、痛そうだし。
「まずは足をなんとかしましょう! タイヤをパンクさせるんです!」
「そうね! わたしも同じこと考えてた! ハンター!」
「はーい」
ハンターはジャンプしてコンビニの屋根に登っていた。そこで頭上からフィアイーターのタイヤを狙撃している。
狙いは正確だけど、動き回っているから当てられていない。屋根とかボンネットを射抜くのは成功してるけど、それでは大したダメージになってない。
フィアイーターの前にいかけてアスファルトに矢を刺して進路妨害にするのも試みてたけど、あまり意味はならしい。避けられるし、普通に車の方がパワーがあるから矢を折って進行できる。
「フィアイーターを止めるか、一直線にしか動けないようにしてください!」
「えー。そんなこと言われても。止める方がやりやすいかなー」
「わたしがなんとか進路妨害してみます! セイバーは手伝ってください! 遠くに逃げようとしたら止めるとか!」
「わかった! ……止めるって?」
「力ずくで!」
「えー。やだー!」
「そうだラフィオ! 車の上に乗って! そしたら少し遅くなるかも!」
「いいけど、抵抗されるぞ。振り落とされても怒るなよ。あと、間違えて僕を射るなよ」
「大丈夫大丈夫! わたしの腕を信用して!」
「信用はしている」
セイバーは不平を言いながらもライナーの指示に従ってるし、ラフィオもハンターに対して同じことをしてる。
というか、ライナーがリーダーっぽくなってるな。三人のうち誰かなら、確かにそうだけど。
フィアイーターは魔法少女たちに任せておこう。俺はセイバーたちの戦いを横目に、俺と樋口はコンビニの店内に入っていく。中の人間から恐怖を搾り取るのを止めないとな。
ちなみにフィアイーターがいなくなった、コンビニ本来の出入り口から入店した。結果論ではあるけど、セイバーがガラスを壊したのは本当に無駄な破壊行為だった。
「足場が悪いから転ばないように気をつけて。一体ずつ動きを止めて殺す。基本を忘れないで。武器があるからって、過信しないこと。扱いに関して素人なんだから」
「わかった。慎重にだな」
「まずは被害者の避難からよ」
店の床は商品が散乱していて、実際かなり歩きにくい状態だ。瓶の酒なんかも割れて水たまりもできていて危険。もちろんそれは敵にとっても同じこと。
「無抵抗の人間殴っていい気になるなよ」
「フィッ!?」
客に襲いかかろうとした黒タイツの首を掴んで、そのまま壁に叩きつけた。昏倒したところを、後頭部にナイフを突き刺す。
黒タイツに触れた時の感触が人間の肌のそれと変わらない以上、刺した感触も同じなんだろう。
ナイフが肉体を切り裂いて、奥へと潜っていく。血の匂いなんかはしなかった。けど気持ちのいいものではない。
そんな感傷に浸っている余裕はないから、俺は黒タイツの中でナイフを捻ってから、強引に引き抜いた。その際にも肉を切り裂く感触。
首をある程度の深さ切られれば、人間は間違いなく死ぬ。それは黒タイツも同じだった。
消えていく黒タイツを見守る暇はない。すぐに別の黒タイツが襲ってきたから。
対峙して腕を掴んで投げ飛ばそうと一瞬だけ考えたけど、もっと楽な方法が目についたから、敵を睨みながら一歩引いた。
掴みかかろうとしていた黒タイツの腕が空を切り、敵はさらに一歩踏み込んだ。足元もよく見ないままで。
紙のパッケージに入っているスナック菓子を、黒タイツは踏んづけた。食べ物を粗末にするのは良くないとは思いつつ、俺はこれを狙っていた。
コンビニの床はツルツルで、紙を踏めばよく滑る。俺を襲うために勢いをつけていたなら当然ながら転ぶことになる。
床に顔面を強かに打ち付けて動きが止まった黒タイツの首を、さっきと同じように切り裂いた。
刃に血や油はついていない。その代わり、刃を折りたたむ構造には確実に衝撃が加わっているはず。何度も使い続けていたら、ガタガタになって斬ることができなくなるかな。
ふと、樋口の方を見た。彼女は武器を持っていない。けれど相手の勢いを利用しての投げ技で、黒タイツの一体をカウンターの角にぶつけていたところだった。そのまま黒タイツの首を掴んで何度も角に激突させる。
痛そうだ。しかも、確実に殺せる。さすが公安躊躇がない。
「今のうちに逃げて。表にも怪物がいるから、裏に回って逃げなさい!」
樋口が店員や客たちに呼びかける。彼らは店内の隅に固まって、怯えているようだった。
突然覆面を被った男女が踏み込んできたのだから、戸惑うよな。コンビニに覆面って、警戒される格好堂々の第一位だ。
俺のこの覆面姿も、世間の人は知らないわけで。
「大丈夫、わたしたちは魔法少女の味方です。彼はお馴染みの覆面くん。装備の充実を計った結果、こうなりました。引き続き市民の皆さんを守ります」
樋口が落ち着いた声で語りかければ、店員たちも顔を見合わせてから頭を下げて逃げ出した。
外には魔法少女がいるし、助けたのは事実だしな。それに逃げることの方が優先だろうし。