「緊急地震速報とかじゃなければ、ね」
昨日のそれは愛奈も受け取ったのだろう。またかという様子で自分のスマホを見る。
「僕より場所の精度は高く表示できるのがいいな。僕の方が早く探知できたけど。僕の方が早いんだけどな。近いぞ。こっちの方だ」
つむぎのスマホを覗き込みながら、ラフィオが少し自慢げに言う。やっぱり、少し対抗意識あるんだな。
「みんな行くぞ。麻美は遥の車椅子をお願いします」
「うん。任せてー。武器の使い心地、教えてね」
「わかりました」
麻美がガレージを開けながら返事をする。
外に出ると家屋の方から大きな声が聞こえた。昨日も聞いたおじいさんの声だ。あの人も元気だな。
それから、庭の出入り口である門の方を見ると、やはり見覚えのある姿がふたつあった。部長と生徒会長だ。
愛奈たちが魔法少女に変身しようとしてるし、ラフィオは大型になって外に飛び出そうとしていた。それを慌ててガレージの方に戻して姿を見せないようにする。
「やあ悠馬くん。また近くに怪物が出たみたいだ。昨日の今日で騒がしくて、申し訳ないね」
そう。またこの近所に怪物が出たらしい。同じくご近所さんの部長が申し訳なく思う理由はないのだけどな。悪いのはキエラなんだし。
「いえ、別になんとも思ってません。それより部長と生徒会長。お願いがあるんですけど」
「なんだい?」
「怪物を倒すぞと意気込んでいる発明おじさんを止めてください」
市川邸が騒がしいのは、あのじいさんが今日も張り切ってるから。今まさに、怪物共をぶち殺してやるぞと物騒な決意表明が聞こえてきた。
「やれやれ。いつまでも元気なのも考えものだね。サキ、行くよ」
「ちょっと待ってくださいな! どうしてわたしたちが」
「ご近所さんのよしみだよ。それとも嫌なのかい?」
「いえ! 別に嫌というわけでは! でも! あの方力が強くて怖くて! ちょっと待って!」
なんで俺がそんなお願いをするのか。なんで俺たちが自分で止めようとしないのか。そんな当然の疑問を持つことも一切なく、部長は生徒会長の手を掴んで家の方に駆けていった。
ご近所さんにも、そういう人って理解のされ方なんだな。普段から怪物を倒す意気込みを周りに言ってたのかも。
よし。今のうち。
「おい、みんな行くぞ。悠馬も乗れ」
「えへへ。ラフィオー」
「お前は乗らなくても自力で現場まで行けるだろ!」
いつの間にか魔法少女たちはガレージの中で変身したらしく、ラフィオも準備できているようだった。宝石を加工しても変身には問題ないことが実証されたらしい。
「今回はわたしも行くわ。悠馬、あなたも準備しなさい」
樋口は自分のマスクを被っているところだった。割と長い髪はそのまま外に出している。あれ、どんな感覚なんだろうな。
俺があまり気にすることでもなく、急いで現場に向かわなきゃいけないから、俺も同じようにマスクを被る。
ところで、俺と樋口が行くのだとしたら。
「おいハンター。悠馬と樋口を運ばないと行けないから、お前は降りろ」
「やだ!!」
予想できたやりとりをラフィオとハンターがしている。
「仕方ない。急ぐもんね。悠馬はわたしが運びます!」
「あ! ちょっと悠馬だったらわたしも運びたい!」
結局、即決したライナーが俺をお姫様抱っこすることで解決した。
いや、なんでライナーそんなに嬉しそうなんだ。あと恥ずかしいから、その抱えられ方は嫌なんだけど。セイバーもなんで対抗意識出すんだよ。
「行くよ悠馬! しっかり捕まっててね!」
「はいはい」
「待ちなさい! わたしだって悠馬運びたい!」
部長たちが市川邸に入り込み、発明おじさんを止めるべく奮闘している声を聞きながら、俺はライナーに運ばれセイバーに追いかけられながら現場に向かう。
「フィアアアアアア!」
「おー。今回は車か。マイカーをフィアイーターにされちゃった人は迷惑だねー」
ハンターが降り立ったのは、駅から少し歩いたところにあるコンビニの駐車場。
シルバーの軽自動車の前側のドアから両腕が生えている。足は見えないけど、タイヤで移動するから不要ということか。
この駐車場に停まっていた車から作られたかは知らない。とにかく、コンビニが被害に遭っているのだから、ここに駆けつけるのは必然だ。
フィアイーターはコンビニの自動ドアに思いっきり突っ込んで左右のガラス面と自動ドアをぶち破る、いわゆるダイナミック入店をしていた。
さらに中に入るべく、フィアイーターはタイヤをぶん回しているところだった。
更に店内には、複数の黒タイツが暴れまわっている。商品棚を倒したり客や店員に暴行したり。
「よし! 助けるわよ!」
セイバーが剣を振り上げて、コンビニのガラス面に突っ込んでいく。割れる窓ガラスと、その向こうにあった雑誌の棚が倒れる。
入口が塞がってるからいいんだけどさ。他にやりようは無かったのか? 店の被害が増えてるぞ。緊急事態だから仕方ないのかな。
「さあ! 入って! 黒タイツたちは任せた!」
「わかったよ。セイバーは?」
「こいつをお尻の方から滅多斬りにします!」
「頑張ってくれ」
俺の返事も聞かないまま、セイバーはフィアイーターの方に駆けていく。
「うおおおお! 怪物覚悟! 抵抗できない背後からの攻撃を食らうがいいわ!」
「フィアアアアアア!」
「ぎゃー!?」
フィアイーターは不意にバックして、背後にいて反撃が来ないと高をくくっていたセイバーを轢きかけた。馬鹿だなあ。