「おー。これならそんなに派手じゃないし、学校でも怒られないです。麻美さんありがとうございました!」
髪飾りをさっそく取り付けてみたつむぎは、鏡を見て上機嫌だった。
「あまりファッションとか気にしないタイプだと思ってたけど、嬉しいんだな」
「当たり前だよ、ラフィオ。わたしだって、おしゃれって言われたら嬉しいの。スカートはちょっと恥ずかしかっただけ! 動きにくいしね!」
「そうなのか。動きやすさとファッションって両立しにくいよな」
「ねえラフィオ! このヘアアクセ似合ってる? ねえどうかな?」
「僕の答えはずっと変わらない。お前はどんな格好をしてても、かわいい」
「わひゃー! ラフィオってば褒めるのうますぎ! 大好き!」
「その言動さえなければ嬉しいんだけどな! おいやめろ! くすぐろうとするな! モフるな!」
「周り危ないから暴れるのもほどほどになー」
「お前は助けろ!」
周りには工作機械や刃物が多くある。ふたりともそれは理解してるようで、あんまり動き回らずに攻防を繰り広げていた。器用なものだ。
「悠馬。アンクレットつけて」
「自分でやれ」
「えー。でも、車椅子はまだ座れないし。お願い」
「……わかったよ」
適当な椅子にでも座れば自分で取り付けられるだろうけど、遥は俺にやってほしいと松葉杖で近づいてきた。
車椅子に座れないのは俺の武器のせいなわけで、遥の思惑は別として協力してやることに。
しゃがんでアンクレットを受け取って、遥の右足に取り付ける。
てかアンクレットってなんだ。足首につけるアクセサリーなんて、昨日まで存在を知らなかったぞ。というか、対面した人間の足首とか視線を向けるか? 普通顔とかだから、ヘアアクセとかネックレスはわかるけど。足首ってなんだよ。
「ふふん。悠馬、わたしがスカート履いてるからって、上向いちゃ駄目だからね」
「今それどころじゃない」
こういうリング状のアクセサリーの付け方も知らなかった。悪戦苦闘して、俺はなんとかアンクレットで遥の右足を彩ることに成功した。
「次からは自分でやれよ」
「えー。悠馬にやってほしいな。ねえ、今度アクセサリー買いにいかない? わたしに似合いそうなの、悠馬に選んでほしいなー」
「俺にその手の美的センスを求めるな」
「そうよ。悠馬は今のままでいいんだから。ちなみに、わたしはどうかしら」
愛奈が助け舟を出した、というよりは遥との間に割って入る目的で俺に話しかけてきた。
体操着として使っているジャージの胸元に、そんなに派手ではないブローチ。もちろんブローチの中心は桃色の宝石。
どうと言われても。
「ジャージに付けるものじゃないな」
「あー。うん。それは、わたしも同意見。もっとシックな服につけるべきよね。スーツにこれつけて会社行ったら怒られるしなー」
「そういう私服を選ぶしかないな。てか、ジャージにアクセサリーはどうつけても似合わない」
「ギリギリ、目立たないペンダントとかですよね。マラソン選手がお守りとか気持ちを上げるためにつけてたりするやつ」
「マラソン選手はこんなジャージ着て走らないわよ。少なくとも本番では」
とまあ、文句は言ってる愛奈だけど、ブローチ自体は気に入ってるようだった。
「これなら、なくす心配もないしね。すぐに作ってくれるなんて、後輩ちゃんよくやった!」
「お褒めに預かり光栄です」
だからなんだよ、このやりとりは。
「最後は悠馬くんの武器だね。これだよ」
麻美が無人の車椅子を押してこっちまでやってきた。
しゃがんで座面の裏を示す。座面を支える金属の骨の補強部品にしか見えない、小型の薄っぺらい金属板。
昨日伝えたコンセプトとは、かなり形が違っていた。
「より使いやすい形を思いついたので、そっちでやってみました。ネジで固定しているように見えるけど、これはフェイク。こうやって掴んで少し捻れば取れるの。で、ここを押しながら振ると」
金属板から刃が、半円を書くように出てきてカチンと音を立てて固定された。二枚の板に刃が収納されていて、板が柄となるのか。
「いわゆる肥後守。あれは工具で、武器として使うと勝手が少し違うけど。扱い方は樋口さんに教わって」
「そういうことね。構わないわ。普通の肥後守と比べると刃が厚いわね」
「ほんの少しだけですけどね。武器にするなら、頑丈さが必要。けど秘匿するためには薄い方がいい。細かな調整は今後も必要だと思います。改良はこれからも続けるし」
「耐久性はどれくらいかしら」
「実際に使ってみないことには、なんとも。悠馬くん、壊れたら遠慮なく言ってね」
「わかった」
手にしたナイフの刃を収納して車椅子に取り付けた。
刃が出る方を上、つまり座面側の見えにくい箇所に取り付くから、傍から見れば物騒なものに見えない。しかも他にも同じ形の、無害な補強パーツが複数あってそれに紛れている。
「刃が金属に覆われているから、金属探知機やX線検査装置も誤魔化せるはず。そこのところ、公安の見解はどうでしょう」
「くれぐれもこの技術、悪用しないでね」
たぶんこのナイフ、飛行機に持ち込めると樋口は判断したんだろう。少しため息をついた。
「じゃあ、あとは実践ね。ナイフで相手を確実に殺す方法を伝授するわ。もちろん、基本は前にも教えた通り。投げ技で相手を怯ませて動きを止めてから、急所を攻撃する。そうやって殺す――」
そこまで言ったところで樋口は言葉を切った。その場にあったスマホがそれぞれ全部警報音を鳴らしたからだ。
この感じ、昨日もあった。