ややあって、ライナーが車椅子の所に戻ってきて俺たちの様子を見て驚き、次に愛奈とつむぎを乗せたラフィオが家の屋根に降り立った。
「おー。大きな家だねー。お金持ちって感じ」
「そうだな」
「この家の子供だったら毎日プリン食べられるね」
「今も毎日食べてるからな。むしろこの家の主が愛奈と悠馬だったら、掃除が大変すぎる。あのマンションにも利点はある」
「そっかー。わたしも、お父さんもお母さんも帰ってこないのに家だけ広くても困るもんね」
年少組が市川邸を見ながら感想を言っていた。結局今のマンションの方がいいらしいけど、利点の条件が特殊すぎる。てか悪かったな。俺も姉ちゃんも掃除が下手で。
「お世話になります……は同僚だから変か。よろしくね、麻美!」
「はい、先輩! 魔法少女のお役に立てるなんて光栄です」
「ふふん。もっと尊敬してもいいのよ? わたしのために、頑張りな痛い!」
調子に乗ってる愛奈がムカつくから、頬をつねって黙らせた。
「ふふっ。頑張らせていただきます。姉弟で仲がいいんですね」
「ええそうよ! 仲の良さは折り紙付き。ひとつ屋根の下で暮らしてる男女だから、夫婦と言っても差し支えないわね」
「差し支えるからな。普通に姉弟だからな」
愛奈が抱きつこうとしてくるのを、俺は華麗に回避した。人の家でなにやってる。後輩だからって気を許しすぎだ。
「そうですよお姉さん! なに変なこと言ってるんですか!?」
松葉杖の遥も急いでやってきて俺に近づこうとしてきた。いや、お前もなんだよ。
「悠馬くんモテモテだね。羨ましいなー」
「そう思うなら代わってください」
「そうもいかないからねー。お幸せに」
「おいこら。逃げようとするな」
あ、今敬語が取れた。なるほど、なんとなくわかったぞ。
俺の気づきを麻美もよくわかっているのか、悪戯っぽい笑みを見せた。
俺とより親しくなりたい麻美の、手のひらの上だったか。単なる良い人とは、ちょっと違うな。十分魅力的だけど。
「ねえ、みんなのこと、もっと教えてほしいな。先輩の仕事以外でも、みんなの役に立てることがあるかもしれないし」
麻美のそんな提案に、俺たちは顔を見合わせた。
役に立てることか。あるかな。
「わたしたちのこと教えるのは、いいですよ。何から知りたいですか?」
「えーっと……」
「この足のこととか?」
「聞いちゃっていいの?」
「もちろんです!」
遥が、むしろ嬉々として途中までしかない足を揺らしてアピールするのに、麻美も一瞬だけ戸惑ったよう。
けど、こういう遥の性質もすぐに理解したらしい。
つむぎとラフィオも年上のお姉さんに興味が湧いたのか近づいてきた。というわけで、しばらくお互いの身の上を話す時間となった。
「その魔法少女に変身するための宝石って、裸で持ってないと駄目なの?」
その途中、麻美がふと尋ねたから、愛奈たちは自分のポケットに入れている宝石を取り出して見つめた。
「確かにね。ずっとこうだったから慣れちゃったけど、宝石を剥き出しで持ってるのは変な話よね。なんか無くしそうで不安だし」
「ポケットに入れたまま洗濯しそうですよね」
「あー。わかる……」
「悪いな。急いで作って持ち出したからな」
「ねえ、加工してもいい? 宝石自体には手を加えなくても、合う形に金属を削って台座を作って、アクセサリーっぽくできますよ」
「え! 本当ですか!?」
おお、遥がめちゃくちゃ食いついてる。
「ねえ! それやっても魔法少女には変身できるよね!?」
つむぎも目を輝かせてラフィオに確認していた。
「お、おう。宝石に手を加えないならな。でも、そんなに食いつくことか? やっぱり無くさないようにするのが、そんなにいいのか」
「もー。わかってないなラフィオは。女の子はおしゃれしたいものなんだよ!」
「そ、そうか。お前におしゃれへの興味があるとは思わなかったよ」
「ラフィオも本当はわかってるから、魔法少女の格好はかわいいのにしてくれたんだよね?」
「あー。それは……そうなのかも」
「スカートは恥ずかしいけどね。ねえ、今からでもあれ、変えられない?」
「無理だ。お前が慣れろ」
「ラフィオくんは、つむぎちゃんのこと好きなんだね」
「おい! なんでそうなる!」
麻美の指摘に、ラフィオは即座に突っ込んだ。
「好きな女の子には意地悪しちゃうものなんだよ、つむぎちゃん」
「そうなんですね! もー、ラフィオも素直になればいいのに」
「僕は常に素直なんだよ! おいこら! 抱きしめるな! やめろー!」
楽しそうだ。ラフィオも麻美と、それなりに距離が縮まったようでなにより。
麻美は本当に宝石をアクセサリーに改造する気らしく、改めてガレージに向かう。その途中、愛奈に麻美について詳しく話した。
「そっかー。ガチ勢だったかー。下手するとわたしより詳しい可能性があるわねー。本当だ。弊社製品がたくさん」
ガレージの中を見て、即座に自分の会社の製品だと判断できるあたり、愛奈もそれなりに仕事には真摯だ。
「古い型番だけど、よく手入れされてるわね。あと手持ち工具も一通り揃ってる。個人の家でこういうのは見たことないわねー」
「光栄です、先輩。祖父の趣味で」
「なるほど。おじいさんの。あと、工具じゃないものも大量にあるけど……あれはなに? 錐にしては大きいというか長すぎるし。あと、どう見ても剣にしか見えないものが」
ガレージの壁の一角に立てかけられている金属製品群を見て、愛奈が訝しげな声をあげた。