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3-22.麻美に全部バレた

「では! 初対面の善良な市民たちを守ってから、魔法少女シャイニーライナーは怪物を倒しに行きます! じゃあね!」


 そしてライナーは俺に親指を立ててから、ダッシュで敵の方に行った。

 変身前の癖が残ってるんだよな。


「行きましょう。初対面魔法少女が助けてくれましたので」

「あの。双里悠馬くん」

「行きましょう」

「今、魔法少女があなたの名前を」

「行きましょう。おじいさんを家に連れて帰りましょう」

「それにあなた、妙に怪物と戦い慣れてるような」

「……帰りましょう。説明しますので。おじいさんも、帰りますよ」

「ぜえ……ぜえ……なんじゃ?」

「魔法少女が来てくれましたから。彼女に任せて逃げましょう」

「なに!? 魔法少女が来たのか!? どこじゃ!?」


 この老人、ひとしきり暴れた後は疲れてなにも見てなかったらしい。

 目の前にライナーがいたことにも気づいてないとは。


「助けねばならん!」

「無理だろ、その体力じゃ」


 瞬発力はあるけど、スタミナはそこまででもないか。


 老人としてはすごいのだろうけど。



 じいさんを連れて市川邸へと戻った。

 車椅子が庭の一角に雑に隠されていた。これ、遥の想定では樋口が取りに来るんだよな。公安に私有地への侵入を命じたんだよな。


「おじいさんは?」

「部屋に寝かせたよ。本当に、張り切ったと思ったらすぐにエネルギー切れなんだから。元気さだけは現役の時と変わらないのにね」


 家の居間に通されて、お茶を出される。テレビをつけると、本来の番組を中断して魔法少女の戦いを中継しているところだった。澁谷も駆けつけていた。

 さすが、魔法少女取材チームを独自に編成しているテレビもふもふだ。動きが早い。


『ご覧ください! 魔法少女たちが怪物を叩きのめしています! ところで覆面男さんの姿が見えませんが、どうしたのでしょうか』

『今はちょっと別件でサポートしてもらってます! 初対面の巻き込まれた人を家に送り届けるところです! 初対面の!』


 澁谷が訊いたのは俺がいないことへの心配からだろう。黒タイツの首を掴んで塀に叩きつけながら、ライナーが笑顔で返事した。

 戦いに集中しろ。余計なことを言うな。


 画面の奥では、郵便ポストに手足が生えたようなフィアイーターの体に、いくつもの矢が刺さっていた。そこにラフィオが組み付いて動きを止めた。

 セイバーが動きの鈍ったフィアイーターに斬りかかっている。遠からず戦いは終わりそうだった。


 俺はスマホを取り出して樋口にメッセージを送る。俺の正体が麻美さんにバレたから、ちょっと手伝ってほしいと。


 公安の力を借りるのは俺としても不本意だけど。でも樋口は車椅子の回収にここに来るわけで、話し合いに同席してもらうべきだろうな。樋口も調べて知ってる相手だし。

 もちろん、目の前の女が俺の正体をネタに脅してくるような人間だとは思っていない。だから樋口の出番は、そう多くはないはず。


 今も麻美さんは、訊きたいことがあるだろうに堪えて、俺と一緒にテレビの画面を見ている。


「あの黄色い魔法少女、シャイニーライナーが神箸遥なんです」

「うん。そんな気はしてた……足、生えるんだね」

「魔法少女になれば。不思議ですよね。そして俺が覆面男です」


 ポケットから覆面を取り出すけど、そういえばこれをつけた格好は公には出してないことに気づいた。


「信じてください」

「ええ。疑ってない。さっきの、高校生とは思えない戦い慣れた姿を見たらね」

「ちなみに、あのアナウンサーも俺たちの正体を知っていて、支援してくれてる。魔法少女について好意的な報道をしているのは、そのためです」

「そうだったの……」

「ちなみに、公安は魔法少女の件についていち早く動いて協力を申し出てくれました」

「こ、公安!?」

「はい」


 ちらりと窓の外を見る。ここから見える位置に車椅子を移動させておいた。すると樋口が勝手に庭に忍び込んでそれに近づいてきた。


「あれが警視庁の公安です」

「門に鍵締めたはずなのに、なんで入ってきてるの?」

「公安だから。おーい、樋口」


 窓を開けて声をかける。俺からのメッセージはちゃんと受け取ったようで、俺の後ろにいる女の姿を見てため息をついた。


「はじめまして。公安の樋口一葉です。当然だけど、本名じゃないわ」

「ご丁寧に。市川麻美です」


 社会人らしく名刺交換から始まる。樋口と並んで座っている俺は、ちらりと麻美さんの名刺を見た。

 愛奈の会社の営業部。その名刺は連休前にしっかり作られていたらしい。


 目の前の女の素性については、樋口は自分で調べたのだからよく知っている。まさか魔法少女の件がバレるとは思わなかっただけ。


「仕事をサボるために一般人の素性を調べて高校生に探らせる。冷静に考えたらおかしな話よね。それに乗ったわたしにも責任はあるわ」

「いや、タイミングが悪すぎただけだ」


 小声で俺に話しかけた樋口に返事をする。

 あと遥が、隠し事が下手すぎたのも原因。樋口は悪くない。


 俺の返事を聞いた樋口は、ふっと笑みを見せた。


「市川麻美さん。公安は魔法少女に協力体制を取ると決めています。市民の安全のためです。そして魔法少女の件に関連して、あなたの素性と行動を調べさせてもらっていました。彼の訪問も、その一環です」

「わたしを……公安がですか?」


 樋口が話せば、麻美さんは戸惑いつつも聞いてくれる。俺が話すより説得力はあるな。

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