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駄目社会人の姉と、その他問題児たちが魔法少女になったから、俺がサポートする
そら・そらら
現代ファンタジースーパーヒーロー
2024年10月30日
公開日
34.7万字
連載中
俺は社会人の姉の愛奈と二人暮らしをしている高校生。姉が俺を大切にしてくれるのは嬉しいが、彼女はだらしがなくて毎朝出社拒否を叫ぶ駄目な大人だ。そんな俺と愛奈の前に現れたのは、奇妙な生物と街で暴れまわる怪物。そして愛奈が魔法少女に変身して、怪物を倒してしまった。この街を守り人々の希望となる魔法少女なんて、俺の姉にはちょっと荷が重すぎる。しかも他に魔法少女のメンバーとなったのは、モフモフに命をかける小学生に、片足の無い車椅子の同級生!? 果たして俺は、個性的すぎる魔法少女たちと共に世界を守ることはできるのか。そんな、俺と魔法少女とその他の仲間の、戦いと日常の物語。

3-14.小学生の喧嘩

 小学生男子が服装に気を遣う? そんなこと、あるのか?

 俺が小学生の頃は、服なんて母親が買ってきたのを着るだけだった。服よりも通学路に落ちているいい感じの形の木の枝の方に、かっこよさを感じる子供だった。


 ということを遥たちに伝えると。


「悠馬の本質は、今も変わってないけどね」

「いや、なんでだ。さすがに木の枝を拾うことはないぞ」

「そっちじゃなくて、ファッションに興味がないところ。はー。小学生でもそういう男の子はいるのに。悠馬は遅れてるなー」

「うるさい。それよりつむぎ、続きを話してくれ」

「露骨に話題を逸したね……」

「ええっと。その男子、長谷川くんのことを、ももちゃん……綾瀬さんは好きなんです。おしゃれで格好いいから」


 その綾瀬さんが、つむぎと喧嘩した友達か。


「長谷川くんがわたしのことを褒めたものだから、綾瀬さんが怒って。わたしのことを大嫌いって言って……それで」

「それで?」

「わたしも、綾瀬さんなんか嫌いだって言ったんです。ええっと……怪物にやられてちゃえって」

「あー」

「そっかー」

「それは良くないな」


 小学生だからな。口喧嘩するにも、加減がわからないこともある。

 手が出なかっただけ良かったと言うべきか。


 遥も少し真面目な口調になっていた。


「つむぎちゃん。言ってはいけないことを言ったのは、わかってるんだよね?」

「はい……」


 一線を越えてしまったことを自覚しているから、自己嫌悪で落ち込んでいるんだろう。


 特につむぎは、その怪物より強い立場。その立場から怪物どうこうの罵倒は決して褒められたものじゃない。


 たとえ、俺たち以外がそのことを知らなくてもだ。つむぎは自分が許せない。


「確認するけど、その綾瀬さんは過去にフィアイーターに襲われたり、家族が被害に遭ったとかはないよな?」

「はい。そういう話はないはずです」

「そうか。良かった」


 その子がフィアイーター関連で事情を抱えていたら、話がさらに拗れていた。

 違うなら、つむぎの言葉は単なる罵倒。もちろん褒められたことではないけど、ちゃんと謝れば許してもらえるかも。


「明日、ちゃんと謝るんだぞ」

「はい。……ひとつだけ、お願いしていいですか?」

「なんだ?」

「ラフィオを小学校に連れていきたいです。一緒にいると勇気が出る気がするので」

「いいぞ」

「おい」


 つむぎの腕の中で当人が抗議の声をあげるけど、こればかりは仕方ない。

 魔法少女の精神の安寧のためだ。受け入れてくれ。


「さあ! そう決まれば今日は元気つけないとね! 今日の晩ごはんはわたしが作ろうか?」

「いや待て。僕が作る」

「ううん。ラフィオはつむぎちゃんの近くにいてあげて!」

「嫌だ! こいつのお世話係なんて……今日だけだぞ」


 ラフィオだって、つむぎがずっとこの調子なのは駄目だとわかっている。


 より強く抱きしめてきたつむぎに、ラフィオはそっと寄り添った。




 翌朝。


 俺と同じタイミングで家から出たつむぎは、いつものショートパンツ姿だった。こっちの方が見慣れてて、いいな。


「おはようございます。悠馬さん、ラフィオ」

「おはよう。ほらラフィオ」

「嫌だ……」


 そう言いながらも、ラフィオは俺の鞄からつむぎの頭の上に飛び移った。そのまま、彼女の手提げ鞄の中に入ろうとしたけど、その前に体を掴まれてしまう。


「やめろ! 離せ!」

「ふたりとも頑張れよ」

「はーい」

「僕は頑張らなくていいんだよ! こいつが頑張るだけなんだ!」


 つむぎの手の中でラフィオは暴れていた。

 人前に出る前に隠れるんだぞ。



――――




 ラフィオは今、つむぎの両腕で胸に押し付けられるように抱えられている。

 背中に柔らかい感触。この女じゃなかったら幸せな時間なんだろうけどな。


「ねえラフィオ。今日はスカートじゃないけど、このわたしもかわいい?」


 マンションから出ながら、つむぎがそう尋ねてきた。


 そういえば昨日、悠馬たちに話したことを結局本人には言えてなかった。

 それどころじゃなかったからだけど、言った方がつむぎは楽になれるのだろうな。


「今のお前もかわいい。スカート姿は新鮮だったから良かったと思うけど、それだけの違いだしどうせ見慣れる」

「ええっと」

「どんな服を着てても、つむぎはかわいいってことだよ!」


 ああ。自分の中では完全に固まってる考えを言うだけなのに、なんでこいつ相手だとこんなに恥ずかしいのか。


「わたしが……かわいい……えへへ! ありがとうラフィオ!」

「感謝するなら離せ! おい! ほら他の生徒が集まってるぞ!」


 近くに、ランドセルを背負った男女の姿が見えた。それからボランティアらしい、妙齢のご婦人やお爺さんやお婆さん。

 なにかと物騒な世の中だから、登校時はこうやって地区ごとの児童が集まって、ボランティアでる近隣の主婦や退職した老人に見守られながら集団登校するのが小学校の決まり。


 ラフィオは隠れるように、手提げ鞄の中に飛び込んだ。

 水色のランドセルの中には、さすがにラフィオが隠れるようなスペースはなかったから。


 このグループの中に、例の喧嘩した女子はいないらしい。つむぎは毎朝一緒に登校する児童たちと、楽しそうに話しながら歩いている。


 今日は猫ちゃん捕まえなかったの? みたいな話題を振られていた。やっぱり、毎朝のようにモフモフを捕らえているらしい。なんてやつだ。


 それでも、つむぎがこうやって他の子供たちと普通に会話していることに、ラフィオは驚きを隠せなかった。

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