いや、だって驚くだろ。
「ラフィオはつむぎのこと、好きなのか?」
「まさか。嫌いだよ。あんな悪魔、魔法少女にならなければ関わりたくない」
「けど、今好きって」
「別に。容姿を褒めただけだよ。あの悪魔は実際にかわいらしい顔をしている。そこについて嘘をつくのは無意味だ」
「ふーん。ほー。なるほどねー」
「なんだよ」
「ラフィオって、かわいい所あるなって」
「なんで僕がかわいいって話になるんだ!」
「まあまあ、ふたりとも落ち着け」
ニヤニヤしながらラフィオを見つめる遥も、放っておくと暴走しそうだ。
ふたりがお互いをどう思ってるかなんて当人同士の問題だもんな。
ただ、つむぎの現状はなんとかしないといけないから。
「ラフィオは、どっちの服のつむぎがいいんだ?」
「言ったはずだ。僕にはファッションのことはわからない。昨日のつむぎは新鮮だったし、いつもと同じようにかわいい。それだけさ。見慣れれば、どっちも変わらないと思うようになるだろう」
「そっか。それ、本人に言ってやれ。喜ぶと思うぞ」
「気が進まないが、わかった」
「うんうん。これでふたりの仲がもっと深まるしね!」
「遥もちゃんと、つむぎに謝れよ」
「あー。うん。謝る謝る。今日はちょっと補習があるから遅くなっちゃうけど」
「はいはい……」
赤点取ってしまったんだから、ちゃんと頑張らないとな。
補習といえば、こんなことがあった。
遥の補習が終わるまで、ひとりでトレーニングしようとグラウンドに向かう。ひとりでと言っても、陸上部に混ざってではあるけど。
一応、遥がいないことは部長さんに伝えておこうと思ったのだけど、見当たらなかった。
同じクラスの男子を見つけたから、尋ねてみたところ。
「部長なら補習だぜ。中間テストの成績が悪かったから」
「あー」
あの人もか。たしかに勉強苦手とか言われてたけど。
なんとか勉強させようとしていた生徒会長の努力も無意味だったらしい。
「うんうん。それでこそ部長!」
「なんでお前が得意げなんだよ。ていうか、得意そうにするのおかしいだろ」
「わたしは、部長のこと尊敬してるからね!」
親指を立てるな。
「補習はどうだったんだ?」
「大丈夫! いつもより短い時間で先生の言うことが理解できたから! 悠馬のおかげだね!」
「そうか。次からは俺の手伝いなしに理解できるようになってくれよ」
「それは無理!」
「だと思ったよ」
そんなふうに、いつもより少しだけ遅い時間に帰宅した。
小学生はとっくに下校時間になっている頃。つむぎも自分しかいない家に帰っているはず。
そこで俺たち、というかラフィオの帰宅を心待ちにしていて、帰宅と同時に超自然的な力でそれを察して訪問するのがいつもの流れ。
具体的には、気配を感じるとかで。たまに、スマホにメッセージで帰ってきましたかと尋ねてくる日もあるけど。
今日はどちらでもなかった。
俺の家の扉の前で、つむぎが三角座りして俯きながら待っていた。スカートで。
「どうしたの、つむぎちゃん」
遥が自分で車椅子を押しながら近づいて尋ねる。俺はどうしてたかって? ショーツが見えかけてたから、目を逸していた。
つむぎに明らかに元気がないのは、その格好のせいだろうな。
「ごめんね、つむぎちゃん。いきなりスカート履いて学校行くの、慣れなかった? かわいいかなって思って試したんだけど、お節介でした。無理しなくていいからね」
遥は俺に言われた通り、ちゃんとつむぎに謝った。つむぎの方もそれは聞いていて、ゆっくり頷いたんだけど。
「問題が起きました」
静かに言った。
なんか最近、それを聞くことが多いな。
とりあえずつむぎを家に上げて話しを聞くことに。ソファに座らせて、隣に俺と遥で挟むように座る。
なんか深刻そうだし、対面より横並びの方が話しやすそうだと思ったから。
彼女はラフィオを見つけるかと思えば掴み取って抱きしめた。どんなに元気がなくてもやる。これはもう本能みたいなものだ。
「それで、なにがあったんだ?」
「友達と喧嘩したの」
「え、お前に友達なんかいるのかぐえー」
驚いたラフィオが反射的に失礼なことを言ったから、当然のように締め上げられた。
つむぎは怒ってるらしい。
「わたしにも友達くらいいるもん!」
「そ、そうか。なんというか、僕と会話が通じない時が多いから、他の人にも同じ感じなんだと思ってて。だったら友達なんかできないなと」
「ラフィオみたいに付き合ってる人はいないよ。ただの友達」
「付き合ってない……」
やっぱり、ラフィオと会話は噛み合ってない。
「それで、友達と喧嘩したって?」
「スカート履いて学校行ったら、みんな可愛いって言ってくれたんです。女子も……男子も少し」
「なるほど」
つむぎのことを嫌っているラフィオでも認める程度に、彼女は美人だ。
いつもと違う格好をしたら、ちやほやされることもあるだろう。小学生なら、ちょっとしたことで簡単に盛り上がれる。
けど、それが気に食わない人もいる。
「友達のひとりが、クラスのある男子のことが好きで……その子、普段からすごくおしゃれなんです」
「なるほどねー。ファッションに全力を出す小学生の女の子。いいよね」
「いえ。おしゃれなのは男子の方です」
「そっち!?」
遥が驚きの声を上げたけど、俺も心中は似たようなものだった。