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3-4.戦闘員の使い方

「あなたたちにとっても馴染み深い概念なのね。メインの怪物を彩る、そんなに強くない兵士」

「そんなものを作れるようになったのか、キエラ」

「ふふっ。ラフィオもそう怒らないでよ。難しいことじゃないわ。コアの一部を分離させて細かく砕いてからフィアイーターに入れれば、こうなったのよ」


 キエラは偶然の産物みたいな言い方をしたけど、意図的に生み出したのだろう。戦闘員って考え方を知っているのだから。

 誰かが教えたとしたら、それは誰なんだろうな。ひとりしか思いつかない。


「手数っていうのは偉大ね。フィアイーター一体だけなら、魔法少女が複数人でかかれば無力化されちゃう。けど他にも戦力がいれば話は別。大量にいる彼らを全員止めるのは難しいわよ」


 見れば、戦闘員の一体が会社終わりと思しきスーツ姿の女に襲いかかっていた。胸ぐらを掴んで腹を殴っている。

 フィアイーターと違って、戦闘員の腕力は人間のレベルを大きく外れたものではないらしい。あの女が腕のひと振りで即死した様子はない。

 けど、成人男性をわずかに上回る腕力で無遠慮に殴られ続ければいずれは死ぬ。


「やめなさい!」


 ライナーが自慢の脚力を活かして戦闘員に一瞬にして肉薄。その勢いのまま首に向けて回し蹴りを放った。

 首が折れる音と共に戦闘員は倒れた。人間で言う死の状態になったらしい戦闘員は、コアが壊れたわけでもないのに消滅していく。


 後にはなにも残らなかった。


「キエラは最初からコアを砕いていると言った。フィアイーターのコアはある程度の大きさを保ってるから、性質は変わらないだろう。けど戦闘員の方は違う。体の死がそのまま存在の死になる」

「なるほどな。ライナー! ビルの中の戦闘員を片付けていってくれ! 俺は外にまだ戦闘員がいないか確認する」

「うん! やってくる!」


 ライナーはまた走る。壊れたビルの入り口から中に突っ込んでいって、その速さのままエントランスにいた戦闘員に体当たり。

 すっとばされて壁に叩きつけられた戦闘員の死体を一瞥しながら、すぐに別のターゲットへと向かって走る。


 広範囲に散らばって暴れて恐怖を生み出すことに特化した戦闘員だけと、機動力のあるライナーなら対処できるはず。本丸のフィアイーターには用心しないといけないけど。


「おい立てるか。逃げてくれ」


 襲われていた女に声をかけ、早く行くよう促す。それからスマホを出して樋口に電話をかけた。

 車椅子は預かっているという報告を受け流し、情報を伝えた。


『なるほねど。敵も嫌なこと考えるわね。対処が面倒なやり方をとってくるなんて。キエラって奴の顔、得意げだったでしょ?』


 どうだったかな。当のキエラはいつの間にかいなくなっていた。


『その戦闘員の気配はフィアイーターと同じように探れる?』

「ラフィオ、どうだ?」

「できる。けどフィアイーターの気配と比べて小さすぎる。フィアイーターが邪魔で、正直自信がない」

『フィアイーターを囮にして、戦闘員を少数別のところに配置して人を襲わせるってやり方もできるわよ。なんとかしないとね』


 公安はさすが、嫌な方法をすぐに思いつく。


『離れた所にいるかもしれない戦闘員に関しては、わたしから澁谷たちに連絡して対処するわ。市民への呼びかけと、SNSなんかを駆使して戦闘員を探す。もちろん通報も駆使してね』


 公安とマスコミが合同で動くなんて、普通ならありえないことだよな。

 樋口がそこの発想を柔軟にできる奴で助かった。


「見つけたら連絡してくれ」

「ごめん悠馬! 遅くなった!」

「ラフィオ―!」

「おいやめろ」


 背後からセイバーの声。その後ろにハンターもいて、巨大化しているラフィオに迷わず抱きついた。


「敵は?」

「このビルの中に入った。ライナーが追ってるところだ。あと、戦闘員ってやつが出た」


 セイバーたちに現状を簡潔に伝える。


「なるほどね! それはますます魔法少女っぽくなってきたわねー」

「とにかくフィアイーターを倒すのが優先だ」


 三人と一匹でビルの中に入る。


 人の姿はない。倒れている人も見当たらない。みんな逃げ出して、怪我人も無事な人間に救助されて連れて行かれたか。

 血の跡はいくつか見受けられたから、怪我人がいるのは間違いない。けど確認する限り死体がないのは幸いだ。


「フィー!」

「!?」


 物陰から戦闘員が飛び出してきて、真っ先に俺に襲いかかった。ライナーが仕留め損なったやつか。

 両手を広げて掴みかかろうとしてきた奴の両手首を、俺は掴んだ。


 なるほど暴力行為に遠慮がない上、普通の大人より少し強い。上背も俺より少しある。

 けどそれだけだった。俺でもある程度は抵抗できた。押し切られないための力比べが成立した。


「悠馬から離れなさい!」


 セイバーが力比べの最中で動けない戦闘員の横に迫り、首を剣で切り裂く。それだけで戦闘員は消滅した。

 数的優位の大切さがわかる瞬間だな。ひとりが攻撃を受け止めている間に、ひとりが殺す。

 キエラも同じことを望んでいるはずだ。


「フィアイーターは?」

「上だ。距離は……だいたい、四階くらいの高さ」

「階段を駆け上っていったのかな」


 オフィスビルにふさわしく、エレベーターも設置してあった。けどフィアイーターがそれに乗るとは思えない。

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