俺もラフィオの上に飛び乗り、敵の頭から生えている花をまとめて掴んで床にぶちまけ、武器を奪う。一本だけ手元に残して、握りしめてフィアイーターの背中につきたてる。ちょうど、ライナーに蹴られて穴が空いたところだ。
俺が見ている前で穴はみるみる塞がっていく。硬い茎を突き刺して中をかき回しながら、片手で穴の縁を持って塞がるのに抵抗。
「セイバー! そのまま動きを止めててください!」
ライナーの声。セイバーはフィアイーターに向けて剣を振り下ろして、フィアイーターの方はその剣を両手でクロスさせた花の束で受け止めている状態。
そのまま拮抗した力比べが一瞬だけ起こったけれど、フィアイーターの腕にライナーの踵落としが炸裂。硬いものが折れるような音がした。
さらに両足にハンターの矢が何本も刺さる。
四肢に重篤なダメージを追ったフィアイーターは完全に動く手段を失って体が崩れ落ちる。その瞬間、俺が掴んでいる茎の先端がなにかに当たった。
コアだ。すぐさま手を突っ込んでそれを掴む。けど、その間に傷が塞がって腕が抜けなくなった。コアを取り出して誰かに破壊してもらおうにも、できない。
いや、なんとかなる。こいつは花瓶だ。上に大きな開口部がついている。さっきまでは多くの花で覆われて、ここは弱点じゃなかった。けど今は違う。
「壊せ!」
手首の動きでコアを上に放り投げる。フィアイーターの中は闇がまとわりつくような感覚で、正直気持ちがいいとは言えないし、投げても上まで届くかは微妙なところ。
けど、全力を出したのが幸いして、コアが花瓶の上面からわずかに顔を出した。
「よし! わたしが!」
「ううんわたしが!」
理由はわからないし、たぶん本人たちも大したきっかけでやってるわけじゃない対抗意識を発揮しながら、セイバーとライナーはそれぞれコアを破壊すべく構えた。
そんなふたりの前で、光る矢が上から降ってコアを貫いていった。
フィアイーターの体が黒い粒子となって散っていき、既にボロボロの花瓶が舞台の上に落ちて大きな音と共に砕け散った。中の水があたりに広がり水たまりとなる。
頭上を見れば、ハンターが大きく跳躍していた。俺たちの頭上を舞っていた。しかも逆さまで。
床を蹴って空中で頭が下になるような軌道で跳びながら、コアを正確に射抜いたらしい。確かに、花瓶の上に出てくるコアを射るには、これが適しているのかも。
それを実行させられる運動神経がすごい。つむぎの元からの身体能力に魔法少女の力が加われば、こんなアクロバットもできる。
そんなハンターは、重力に従って俺の方にまっすぐ落ちていった。もちろん、狙いは俺ではない。
「ラフィオー!」
「ぐえっ!?」
ラフィオの背中、俺の後ろに華麗に着地したハンターだけど、それを受け止めることになったラフィオは苦しそうな声をあげた。
ああ。わかってる。ラフィオに飛びつくことが主目的。コアを射抜いたのは、そのついでだ。
「ラフィオー! 戦い終わったよね!? 帰ろ! プリン作ろうね! ラフィオラフィオラフィオー!」
「ああああああ! やめろ! おいこら離せ!」
「やだ! モフモフー!」
俺がラフィオから降りると、ハンターはラフィオの背中に全身で抱きついた。楽しそうでなにより。
「いやいや! 待ってよ! これじゃ、わたしたちのリーダーがハンターになるじゃない! こんなの認めないから!」
「セイバーに同意です! どう考えても、あと少しでわたしがコアを壊せてたのに!」
「いえ、それはわたしだけど」
「なんですか? もう直接戦って決めますか?」
「ええ。望むところむぐっ!?」
「ふたりとも。落ち着け。リーダーは俺がやる」
ふたりの間に割り込んで、セイバーの口を塞ぐ。
「ぷはっ! ……まあ、それならいいけど。リーダーってか、指揮官? みたいなのはあなたが適切よね」
「それはわたしも思う。……魔法少女三人のうち誰が中心かは譲らないけど!」
「わかった。後で考えような。それよりみんな、帰るぞ」
俺は再びラフィオの上に乗る。ハンターが彼の首に抱きついていたから、その後ろという形だ。
「市民を守ってくれたこと、感謝します」
そんな俺たちに、市長が声をかけた。
戦いは離れて見ていたようだけど、逃げなかったか。
魔法少女の到着に市民は安心して、戦いを見物するムードになってたらしい。まだホールの出入り口に大勢の人が詰めかけていた。もちろん報道陣も。
敵は飛び道具を持っているというのに、不用心なことだ。
そんな彼らを警備員や、駆けつけた警察らしき人たちがなんとか制止している。これを指示したのは市長だと思われる。
それがなかったら、報道陣も野次馬もこっちに押し寄せてくることだろう。市長はそうならないよう責務を果たしてくれた。
でも、限界が近いな。俺たちはそろそろ逃げないと。市長はその立場から、俺たちと何も話さず帰すことはできないかもしれないけど。
「市長、ひとつお願いがあります」
「なんだろうか」
「俺たちの代わりに取材を受けてください」
「……取材を?」
「さっきの演説、かっこよかったですよ。同じことをカメラの前でしてくれればいいです。では」
舞台の袖から樋口が手を振っているのが見えた。そうだな。出入り口には人が多すぎて、そっちからは逃げられない。
樋口の誘導通り、舞台からはけていく方が楽だ。
ラフィオにそのことを伝えて、走らせる。セイバーとライナーもすぐについてきた。
「建物の周り全部に、警察に規制線を張らせて入れないようにしているわ。中の人間もいずれ追い出す。その人たちに混ざって逃げるのもありよ」
「そう簡単にいくか?」
「難しくはないわよ。けど彼らもなかなか帰らない。時間が掛かるわね。あなたたちも、早くバーベキューの準備したいでしょ?」
樋口はそう言ってウインクした。彼女なりの冗談だったのだろう。